Stop!Brother-in-low!
共に戦った盟友たちに別れを告げ、涙する妹を残して。鷹に変じ、アスガルドに向かい一気に飛びたった……のはいいが。
なんとなく、古巣に戻りにくかった。妹の結婚式に出席したいのもあるが。他の神たちの反応が、少し怖いのもある。
単純なトールは喜んで祝福してくれるだろうが、他の主要な神々は十中八九渋い顔をするだろう。女神が人間に嫁ぐなんて前代未聞のことであるからだ。
そして、今までフレイヤに思いを寄せていた神たち。フレイヤがあっさりと人間に盗られたと知ったら。奴らは一体どういう反応をしめすのやら……。
帰り、たくない。
なので、フレイはUターンしてミズガルドのシグムンドが治める集落に戻ってきたのである。
(そしてら、こうなったわけだ……)
二人のキスは、まだ終わらない。少し口をはなしては角度を変え、再び口付ける行為を何度も何度も繰り返している。
花嫁の目はとろんと濁ってきた。花婿の鼻息も変に荒そうなのが見て取れる。そろそろ押し倒すなり、舌を入れ始めるなりするかもしれない。
なんせ、新郎新婦は二人だけの世界にいるのだから。やじっている周りなんて全く目に入ってないのだから。
フレイは二回、首を横に回した。そして枝を蹴り、羽を広げて、下界に一気に急降下する。
いい加減キスを見るのは見飽きた、のもあるが。
フレイヤを、たった一人の妹をここまで夢中にさせたシグムンドが、なんだか急に小憎たらしくなったのだ。
フレイは人間の姿に変じる……ギャラリーから再び感嘆の声が上がる……と、シグムンドの背後に立つ。
そして、ロキ戦前の仕返しといわんばかりに、その後頭部に思い切りチョップをくれてやったのであった。
作品名:Stop!Brother-in-low! 作家名:杏の庭