流転する、君との距離
私は何をしているのだろう?
荒垣の部屋の真ん前。私は立っている・・・。
彼が、この寮に戻ってきた。
それだけで、私の心はいっぱいになって嬉しいはず・・・。
なのに、この痛みは何だ?
痛い、いたいよ。お前なら、荒垣なら治してくれるのだろう?
いつも、心ののどこかが張り裂けそうで、泣きたくても笑うしかないとき。いつもお前は私のそばにいて。
ニット帽に隠れた両眼をくすぐったそうにすぼめて・・・。
「なにしてんだ?」
「え・・・何・・・とは?」
とっさのことで頭が真っ白になる。
いつから、こいつは私の前に立っていたんだろう?
ドキドキする。心臓が破裂しそうだ。顔が赤くなっていくのが分かる。
どうしよう?
「いや・・・何とは?じゃなくてな・・・・。5分間も俺の部屋の前に突っ立っていられてもよ・・・何と言うか」
頭・・・というかニット帽ごしの頭という表現のほうが正しいだろうが、人差し指で掻く。
先程から、私と目を合わせようとしないのも、私にとっては気に食わない。気まずい空気が流れる。
「お前は・・・」
ようやく声を絞り出す。「は・・・」と言ったあたりから視界がぼやけ始めた。
「お前はっ!!私のことをどう思っている?天田の母親が亡くなってから、私に何も知らせず忽然と姿を消して・・・。挙句の果てにはっ・・・・。そして都合よく戻ってきて天田へ罪滅しというわけか?
ハッ!笑わせるなよ・・・・。明彦のことはどうだっていいのか・・・私のことは?
所詮その程度の・・・っ」
いい終わる前に強引に引きずり込まれる。
荒垣の、殺風景な、何もない、部屋。一回も来たことが無いな・・・?
先ほどまで、興奮していた割には冷静にあたりを見回す。私は荒垣にベッドの付近まで強引に連れ込まれる。
作品名:流転する、君との距離 作家名:namo