二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
神月みさか
神月みさか
novelistID. 12163
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

少年が壊れる音 ※本文サンプル

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
※本文サンプル   


 掴まれた腕が痛くて、のし掛かって来る身体が重くて、悦びが込み上げてくる。誰よりも優しい彼が気遣う余裕もなくすぐらい、僕のことを求めてくれているとわかるから。
 触れる肌が熱くて、絡み合う粘膜が熱くて、火傷どころか焼け死にそうだと思う。このまま死ぬことができたなら、きっと僕は世界一幸せになれるのに。

 彼が与えてくれるものはなにもかもすべて愛しかった。痛みも。熱も。感情も。だからきっと死ですら愛しい。
 それは彼そのものがなによりも愛しい存在だからで、それ故に彼に付随するなにもかもが輝くのだ。

 彼から求められて、彼の熱に浮かされて、彼をこの身に受け入れて、至福を味わう。この世の幸福のすべてが彼の腕の中にあるのだという実感に酔いそうになる。

 そして、だからこそ、恐れる。彼を失うことを。それは恐らく世界に否定されることと同意義だ。

 僕にはなんの価値もない。なんの魅力もない。彼程のひとに求めて貰えるなにものも持ってはいない。彼がどうして僕を求めてくれているのか、まったく理解できない。

 だからいずれ、彼は僕を捨てるだろう。僕に対する一切の興味を失い、他人を見るような目を僕に向けるだろう。
 そのとき、僕はどうするのだろうか。
 そのとき、僕はどうなるのだろうか。
 想像するだけで胸が痛くなる想像を、必死で押し殺す。選択権は彼だけにあって、僕自身にはどうすることもできないことだ。考えるだけ意味のないことで悩むなんて馬鹿げている。

 だから、考えない。いずれ必ず来る『そのとき』のことは。今与えられている至福のみに意識を向ける。最愛の彼の腕の中にいる喜びで胸を満たして、決まっている未来から目を逸らす。

『――さん』

 名を呼ぶ声が縋るようで、情けなくて女々しくて涙が出そうだ。
 それでも彼は僕を見てくれる。僕の名前を呼んでくれる。

『帝――』

 だから――

『帝人――』

 だから僕は――








「帝人君――?」

 頭上から注がれる声に意識が浮上する。
 目を開けると薄闇の中にぼんやりと、整った青年の顔が浮かんで見えた。
 帝人は数度瞬き、それが誰であるのか見定めた。

「臨也、さん――?」

 声は寝起きにしても掠れすぎていた。

「怖い夢でも見たの? それとも、哀しい夢?」

 囁くように言われて、帝人は視界が霞んでいる理由が涙の所為であることにようやく気づいた。

「あ……僕……夢……」

 なんの夢を見ていたのだろうか。帝人は思い出そうとして、諦めた。一度忘れてしまった夢を思い出せたことなどない。
 けれども微かに覚えていることもあったので、ぽつりと問いへの答えを零した。

「……とても、幸せな夢を、見ていた……と思うんですけど……」

 胸が締め付けられるような、幸福な夢。だった気がする。
 そんな夢を見て泣くなんて、自分が信じられずに帝人はごしごしと目元を拭った。

「ふうん……それは妬けるなぁ」

 臨也は帝人の手を掴み止めると、顔を寄せて涙の跡を舐め取った。

「擦っちゃダメだよ。腫れちゃうだろ?」
「妬けるって――なんでですか?」

 なんの夢を見たかも話していないのに妬くだなどと、臨也の言うことはいつも帝人には理解できない。
 しかし臨也は平然と決め付けた。

「俺の腕の中で寝ながら他の男の夢とか見てたんだろ? 妬くよ。妬くに決まってるよ。違う?」
「いえ、誰が出てきたかまでは覚えては――」
「どうせ、紀田正臣がいた頃の夢でも見てたんだろ? そうに決まってる。まったくムカツクなぁ、今の帝人君は俺のものなのに」
「――まさおみ……」

 言われてみれば、そんな気もしてくる。当時は当たり前だった、けれども今思い出すと切なくなるくらい幸福だった、正臣と杏里と三人で過ごした一年間。
 帰って来るのを信じて待つと決めたけれど、チャットで稀に出会えたとき、ふいに形振り構わず帰ってきてと叫びたくなるときがある。
 彼が引っ越してから再会するまでの期間を考えれば、殆ど待ってなどいないというのに、どうしてこんなに耐え難いのだろうか。自分が弱くなっているのだろうか。

 帝人がぼんやりと想いを馳せていると、不意打ちのように唇を奪われた。

「!? ~~っ!!」

 口腔内を丹念に舐め上げられ、時間を掛けてたっぷりと弄るような接吻を受けて、唇が離されたときには帝人は再び涙目になっていた。

「っ、臨也さん! いきなりなにするんですか!」
「なにって、帝人君が他の男のことに気を取られてたから、意識をこっちに取り戻させただけだよ」
「――他の、ひとのことなんか――」
「嘘」

 咄嗟に取り繕うように出された言葉はあっさりと否定されてしまう。
 今度は実際に嘘だったので、帝人はそれ以上言えなくなって口を噤んだ。
 臨也は大人気なく膨れて拗ねた口調で言った。

「帝人君の嘘つき。浮気者。てゆーか俺みたいに良い男が同じベッドの中にいるのに、なんで他の奴のことなんて考えられるのかなぁ。信じらんない」
「――確かに考えごとはしていましたけど、そんなことは浮気にはあたりませんし、それに臨也さんのそこまで自信過剰なところの方がずっと信じられな――」
「ま、いいや! 取り敢えずお仕置きお仕置き♪」
「は!? なに言い出してんですか馬鹿ですか馬鹿でしょう!? ――ってどこ触ってんですか!!」
「んー――、お仕置きが気に入らないんなら、帝人君の泣き顔に欲情しちゃったってことでもいいよ。とにかくしよう? すっごくしたくなったんだ、俺」
「昨夜散々したでしょう!? 信じらんない、いや駄目ですって!」
「昨夜散々したから、帝人君のココ、まだほぐれてるよね? いきなり入れてもいい? さすがに無理かなぁ?」
「馬鹿でしょう!? 馬鹿ですよね!?」
「仕方ないなぁ。でも帝人君の我が侭は可愛いからね、もっかい念入りにほぐしてあげるよ」
「ふざけないで――あっ! やめっ……ッ!!」

 徐々に抵抗の声が弱まっていき、息が擦れ、甘さを帯びていく。
 相手の行動を止めることのできない両手は、シーツをきつく握り締めることしかできない。
 臨也はそんな帝人を至近距離から見下ろしながら、甘く濡れた声で囁いた。

「愛してるよ、帝人君」
(――愛して、ます――)

 帝人の頭に浮かんだ言葉は、喉に貼りついたように動かず、声になることはなかった。







 帝人が臨也といわゆる恋人関係となったのは、つい最近のことだ。
 具体的にいつから、どういう切欠で、と問われると、実のところ帝人としては答えようがなかった。当人にもよくわからない内に関係が成立してしまっていたからだ。
 けれども帝人としては不満はなかった。どうせいつまで続くかわからない関係なのだから、いつから始まったとしてもどうでもいいことだろう。
 けれどもどういう切欠で終わるのかは既にわかっていた。臨也が飽きたら。それだけのことだ。