たすけるを言わせて
なんで自分じゃなくて俺を逃がすんだっ、馬鹿やろう!って、綱吉は床を殴りつけた。愛しい。悔しい。ごちゃまぜになっちまって、胸が苦しい。
綱吉が叫んだ直後に人の足音が聞こえた。ここの不気味な看守共だろう。
綱吉のポケットにはグローブも指輪もない。
武器はなにひとつない。
だけど無謀とは思わなかった。此処から出ようと強く思った。
綱吉はわがままだと思いながら、でも、彼もあの子も助けたかった。
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『炎真くんを返せっ!…って、あ、れ』
午後12時37分。
彼が来た。
髪と額から汗が落ちたのを見た。
肩は上下して、ひどく苦しそう。しばらくして、この空間に誰も怖い人たちが居な
い事に気付いたのか、…あれ?と言いたげに首を傾げた。
『た、たすけに来ました…?』
えへへ、って手を頭の後ろに当てて彼は言う。ちっとも怒った様な色はない。だまされたって言うのに。
心の中があったかい気持ちでぎゅうぎゅうになった。
来てくれた、ツナくん、助けに来てくれたんだ。
「…炎真?」
そんな夢を見たのは何度めだろう。
いつもアーデルハイトの声で目が覚める。
おはよアーデルハイト、って言って背を向ける。
多分僕はまだあの子を待っているのだと思い知って目が覚める。