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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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The way to love "my way".

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『実はね、帝人くん、君が静雄んちで片付けをしたちょっとあとに、静雄がうちに来て相談…っていうか報告して行ったんだ。君が何もかも静雄の思い通りにしてくれるって。最初は意味が分からなかったんだけどね、要するに君は静雄のルールに則って生活できる、らしい。特に意識しなくても。…それは聞いてる?』
『は、い。よく分からないんですけど、僕は静雄さんの気に触らないってことですよね』 
『その通り! 静雄はえらく喜んでてねー、竜ヶ峰が竜ヶ峰がって子供みたいにはしゃいでさ。よっぽど嬉しかったんだろうねえ。自分と一緒にいてくれるかもしれない、自分が一緒にいられるかもしれない人間を、初めて見つけられてさ』
《あんなに嬉しそうな静雄は初めて見たよ》
 セルティがしみじみと言った。
『どんな奇跡でそうなったんだか分からないけど、君は静雄にとって唯一無二なんだ。…だからね、避けないでやってくれると、嬉しい』
『あ、…』
 そう言った新羅は穏やかに笑っていた。帝人は不意に罪悪感に胸を刺され、俯いた。セルティが頭を撫でる。
『僕、その、…』
 胸が痛い。
 ぎゅっと目を瞑ると、静雄の子供のような笑顔が浮かんだ。
『や、いいんだよ、君はまあちょっと人より好奇心が強い…っていうか強すぎるきらいがあるから、静雄だって怖くないだろうけど、でもあいつに付き合ってやる義務はない。君が嫌だったら、はっきり言ってやっていい、お前なんか嫌いだって、面倒だからもう会いたくないって。
 ただ、───僕ら、というかセルティには、君が静雄を嫌ってるとは思えなかったからさ。
 もし良かったら、君が嫌でなかったら、あいつの友達でいてやってくれないかな』
 あいつの数少ない友人としてのお願いだよ───と言って、新羅はまた、穏やかに笑った。



 その帰り道、送ると言ったセルティを断って、帝人はゆっくりと家路を辿りながら静雄にメールを打った。静雄は電話もメールも嫌いだが、とりあえずメールには返事を返してくれる。そっけない用件だけのメールが、帝人は好きだった。
 そんなことを考え、悩みながら打ったメールは結局、『避けてごめんなさい』と『今日行っていいですか』の二言だけになってしまった。
 暫し迷って送信ボタンを押す。いくらも経たないうちに電話がかかってきて、帝人はその日、二週間振りに静雄の部屋を訪れた。



(結局仲直り…っていうのかな…はしたけど。だからってこの馴染み方は、ねえ)
 自分でも呆れている。最初は普通の友人同士のように、週に一二度会って話をする程度だった。それがいつの間にか、外で落ち合っても静雄の部屋に移動することが多くなり、そしてまたいつの間にか、週に三日は帝人が静雄の部屋に通うかたちになってしまった。
(それだけこの人が、寂しかったってことなんだろうなあ)
 床にだらんと寝転がった男は、平和な顔をして目を閉じている。昼寝が趣味だと聞いて大笑いしたのはついこの間だ。
 帝人はテーブルに肘をついて静雄を眺めながら、ぼんやりとそれを眺めた。
(結局、静雄さんちに来て何をするって、今日みたいな休み以外はご飯作って食べてテレビ見て…だもんなあ)
 静雄は帝人がやってくると、それはそれは嬉しそうにドアを開ける。帝人の背に大きな掌を当てて、ぐいぐいと部屋に押し込むようにして上がれ上がれという。帝人はソファの裏に鞄を置いて、えらく嬉しそうな静雄に苦笑しながら冷蔵庫の中身と、静雄の仕事の時間をチェックする。静雄は仕事柄、昼間の仕事から帰って来て、また深夜に出かけるようなこともよくあるので、帝人はできるだけそれまでの間に静雄に構ってやるようにしている。静雄は犬っころのように帝人の後ろをついて歩き、帝人が夕食を作るのを楽しそうに眺め、時々は自分も手を出す。
 そのあとは二人揃って夕食を摂り、あとは静雄の予定次第でテレビを見ながらだらだら、というのがいつもの光景だ。
 静雄と帝人、ちぐはぐな二人の日常は、そういう風に完結している。
 ───帝人の心に、影を一筋落としながら。



「やっぱよお、俺はお前がいればいいよ、お前がいればいいんだよ竜ヶ峰ぇ」
「…はいはい」
 帝人は管を巻く男のコップに水を注いだ。
 なんだよ、まだ飲むよ俺はと文句を言うのをまたはいはいと適当にいなして、いいから飲めと水を飲ませる。真っ赤な顔をした静雄は襟にボウタイを引っ掛けてぐちぐちとなにごとか呟いている。
(…またなんかあったんだろうなあ)
 言わないけど、と帝人は呆れ半分、いらだち半分に泥酔した静雄を眺める。立てた膝に顔を埋めるようにして、静雄はまだ何か喋っている。
 ───昼間は上機嫌でだらけていた静雄は、けれど、夕方から呼び出され、深夜近くになって帰って来た時にはこの有様だった。肩を貸して連れて帰って来てくれた───というか持って帰って来たというか───静雄の上司は、仕事でちょっとなと言葉を濁したが、どうせまた意外に傷つきやすい静雄の心の柔らかい部分を引っ掻いた馬鹿がいたのだろう。酒に弱いのを自覚しているこの男が、ここまで酔っぱらう──それも外で──ほどだ。家で、帝人の前で愚痴を吐くぐらい、許してやらなければ。 
「りゅうがみねー…」
「はいはい、いいからもう寝ましょうね」
 ぐずる静雄の背に手をあてて、もういいやとその場に寝かせてしまう。静雄は抵抗するでもなく、ラグの上に横になって目を閉じた。
「りゅーがみねー…」
「はい、おやすみなさい」
 いくらもしないうちに、静雄は寝息を立て始めた。
 帝人はその強情な子供のような寝顔を眺めて溜め息を吐いた。
「はあ…」
 毛布を持って来てやらねば、と思う。頑丈な人だから、風邪なんか引かないだろうけど。
(───お前がいればいい、か…)
 すごいことを言うものだ。くすぐったいような、…胸の奥が焼け焦げるような。
 帝人はじっと静雄の寝顔を眺める。
 酒の匂いがする。酒と、煙草の匂い。
 窓の外に街灯が瞬いている。
 ───どこかで時計の音がしている。
 


(静雄さんは、)
 と、時計の音を聞きながら、帝人は考える。
 静雄さんは僕がいればいいって言う。僕が、僕だけがいればいいって。
 でもそれは違う、と、僕は思う。
 僕が静雄さんにぴったりだって言うのは分かる。静雄さんの抱える問題も、だから静雄さんがずっと寂しくてたまらなかったっていうのも。



「でも、静雄さんは僕が必要なわけじゃない」



 ───ぽつん、と言葉がこぼれた。



 一度口に出すと、ぼんやりと胸の中に渦巻いていたものがはっきりとしたかたちを見せる。
(静雄さんは僕が必要だっていう。僕が友達になって嬉しいっていう。僕が好きだっていう)
(でもそれは、僕が僕だからじゃない)
(静雄さんが好きなのは僕じゃない)
 僕じゃなくて、
「───…僕のやりかただけだよ」
 呟くと胸がぎゅっと痛んだ。
(静雄さんが好きなのは、僕の生活の仕方であって、僕じゃない)
(僕のやり方が静雄さんの気に触らないだけで、僕が好きな訳じゃない)
 ───それって、どうなんだろう。