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恋においては敵いません

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池袋の雑踏の中、臨也と帝人は肩を並べ歩みを進める
時々帝人が人とぶつかりそうになると、そっと臨也が肩を抱き寄せた
それに帝人はきょとと瞬きをし、嬉しそうに笑って礼を述べると臨也は照れくさそうに笑む
そんな歩みの中、他愛無い話をしながら帝人がふと視線を人並みに向けた時
帝人の視界に、ある人影が映り込んだ

「あっ、」と帝人が嬉しそうな声を上げると、その声につられて臨也もそちらに視線を向ける
そしてそこにいた人物を目の当たりにし、端整な顔を歪めて「最悪…」と呟いた
だが反対に帝人はぱぁぁと顔を輝かせると、とたとたとその人物に向かって駆け出す
臨也が止めようと手を伸ばすが一歩遅く、帝人は明るげな声で呼び止めていた


「――三好君、静雄さん!」

帝人の声に、同じ深い浅葱色の制服に白いパーカーを纏った子供と、眩しい金色とバーテン服が特徴的な男が振り返る
そして子供は帝人と同じ様に笑顔をみせ、男は珍しく穏やかなそれで笑った後、帝人の背後に見つけた姿を見て額に青筋を走らせた

「帝人…!偶然だね、帝人も遊びに?」
「うん、でももう帰るところなんだ」

帝人と吉宗は気にすることもなく会話しているが、臨也と静雄はいつ“戦争”に発展してもおかしくない状態だった
それでもギリギリでその衝動を抑えているのは、目前で可愛い恋人がいるから
早くこれが終わらないかと互いに強く思っていたが、当の本人達はそんな感情に気付こともなく
そして帝人は、二人にとってはなんとも耐え難いことを言い出した


「あ…あのもし良かったら、三好君と静雄も一緒に鍋を食べませんか?」
「え?」
「「……っ!?」」

帝人の発言に吉宗はきょと、とした表情で言葉を返すのに対し、大人二人は叫びそうになるのを寸でのところで耐える

「でも…迷惑じゃないかな」
「きっと大人数で食べた方が楽しいし、美味しいよ!来たく…ない?」
「………行きたい、けど」
「「ちょっと待った!」」

帝人と吉宗がきゃいきゃいと会話を進める中、男二人は思わず制止をかけてしまった
そんな二人を子供は大きな双眸で見上げる
その視線から逃れる様に顔を背け、咳払いをすると、「あー…」と言葉を濁した


「ほら、この二人もせっかく一緒に出かけてたんだし、」
「こいつらもせっかく二人で食べようとしてたんだから、」
「「だから……邪魔しちゃ悪いだろう?」」

てか俺がこいつといたくない、という絶対的な本音は言わず、なんとかこの話はなかったことにしようとする、が

帝人と吉宗の眼が申し訳なさそうに伏せられたのを見て、身体を硬直させた



「…ごめんなさい臨也さん。僕勝手に話をして…」
「あ、いや…」
「せっかく静雄さんが貴重な休みの日に付き合ってくれているのに…俺…、ごめんなさい」
「違っ…」


ごめんなさい、と幼子の様に頭を下げる子供に、臨也と静雄はどもってしまう
決してこんなつもりでは、と思いつつも上手い言葉が見つからない
それにこの状態で別れたとしても、後の時間を楽しめるとは到底思えなかった
子供は笑ってくれるだろうが、――それでも


(あぁもう、しょうがない)
(この子に溺れてしまった俺の負けだ)


「……わかった、皆で一緒に食べようよ。鍋、」
「え…?」
「臨也、さん?」
「シズちゃんもそれで文句ないだろ?」
「………おう」

臨也の口から出た言葉に、静雄も渋々ながら同意する
こいつと一緒、というのは嫌ではあったが、吉宗と帝人にそれに付き合わせるのは申し訳なく思ったからだ
なにより、恋人が申し訳なさそうにしているのは耐えられない
失望からではない溜息を胸中で吐くと、穏やかな笑顔を浮かべてくしゃりと互いの恋人の髪を撫でた
一方の子供達はというと、どうしようと暫く視線を合わせて逡巡している
しかし、顔を上げ思い人をじっと見つめると、

「ありがとう、ございます」と綺麗に微笑んだのだった






((……っ))

「臨也さん…?」
「静雄さん、どうしました?」
「い、いやなんでもないよ帝人君」
「あぁ、気にすんな三好」

(二度も……やられた)
(畜生…なんでこんなに可愛いんだ!)




(ある意味池袋最強…?)