【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編
(さあ、ルッツ・・・・心配しないで眠れよ・・・・。俺がいるからな・・・。
離れてたって、いつでも俺はお前のそばにいるんだ。俺達の心はいつもつながっているはずだ。俺はいつもお前を思ってる。だから泣くな・・・・。泣かないで眠れ・・・。)
Gott im Himmel hat an allen 神はあなたのすべてを喜び、
seine Lust, sein Wohlgefallen, あなたは神の宝
Kennt auch dich und hat dich lieb. 神はあなたを知っており
Kennt auch dich und hat dich lieb. あなたを愛している
「プロイセン殿。お時間です。」
兵士がギルベルトを呼びにきた。
ギルベルトは王宮の奥を一度見ると木から滑り降りてきた。
「わかった。行くぞ。」
風に交じって、雨が降ってきた。
ギルベルトは駅に向かって馬を駆る。
鉄道の黒い姿から、蒸気が立ち上っている。
乗り込むとすぐに列車は動き始めた。
ベルリン市内を、風雨の中、列車が移動していく。
(静かに眠れ・・・ルッツ・・・・。俺はずっとお前と一緒だ・・・・。)
数日後、ギルベルトはベルリンへと戻ってきた。
王宮で、ルートヴィッヒは兄を迎える。
しかし、以前のように、飛びついては来なかった。
満面の笑顔ではあるが、静かにギルベルトを迎えた。
急に大人びた弟をギルベルトは見つめる。
しばらくじっと弟の顔を見ていたが、やがて、手を伸ばしてその髪をくしゃくしゃにした。
ルートヴィッヒが笑う。
しかし、ギルベルトは弟の中でなにかが変わったのを知った。
王宮で兄弟は暮らし始めた。
シュタインは、体調の復活とともに、本来の軍の部署へと戻っていった。
今、ルートヴィッヒは政治学を習っている。
剣も上達し、背も伸びた。
人の子供のように、ルートヴィッヒは大きくなっていく。
まるで「人」と同じような速度で。
その姿を見つめながら、ギルベルトは考える。
(もう・・・・子守唄なんて・・・いらねえかもしれないな・・・・。)
日に日に大人びた表情をするようになった弟。
さあ、今度の視察にはルートヴィッヒを連れて行くか・・・・・・。
王妃の反対が大変だろうが・・・・・。
心のどこかにさみしさを感じながら、ギルベルトは弟を見つめる。
見つめられて視線を感じたルートヴィッヒがギルベルトのほうを振りかえる。
ルートヴィッヒがギルベルトに手を振る。
それを教師にたしなめられている。
ギルベルトはふっと笑うと軍の兵舎のほうへと歩いていった。
歩きながら、なにげなく歌い始めた。
Weist du wieviel Sterne stehen 星がいくつあるか知ってる?
an dem blauen Himmelszelt? 青い空の上に
後ろからルートヴィッヒが大声で歌いかえした。
Weist du wieviel Wolken gehen 沢山の雲がどうやって漂うか知ってる?
weithin uber alle Welt? 広い世界中に
ギルベルトは振り返って、歌っているルートヴィッヒを見つめる。
幼さが消えて、りりしい姿になった。
もうすぐ、「ドイツ」にふさわしい姿となるだろう・・・・・・・・。
Gott, der Herr, hat sie gezahlet, 神はそれら すべての数をご存じで
das ihm auch nicht eines fehlet, おられます
an der ganzen grosen Zahl, どれほど沢山の数であろうと
an der ganzen grosen Zahl. どれほど沢山の数であろうと
二人は一緒に歌い続ける。
教師がなにかわめいているが、ルートヴィッヒは歌い続ける。
そんなルートヴィッヒをギルベルトは見つめる。
「そうだな・・・・・。今度は一緒に遠征に行こう・・・・・。」
Gott im Himmel hat an allen 神はあなたのすべてを喜び、
seine Lust, sein Wohlgefallen, あなたは神の宝
Kennt auch dich und hat dich lieb. 神はあなたを知っており
Kennt auch dich und hat dich lieb. あなたを愛している
1864年、シュウレースヴィヒ・ホルシュタイン戦争が起きる。
ルートヴィッヒはこの戦争で初めて兄の元を離れて指揮をとった。
「統一ドイツ」へ向けての、戦いが始まった。
戦場で兵士達は、この二人の「国家」である兄弟が歌うのを聞いた。
二人とも、戦場でお互いが離れた夜に、野営地の中で歌っているのだ。
兵士達は、彼らの歌う声を聞きながら、眠りについた。
いつしか、兵士たちも、この歌を歌うようになっていた。
Gott im Himmel hat an allen 神はあなたのすべてを喜び、
seine Lust, sein Wohlgefallen, あなたは神の宝
Kennt auch dich und hat dich lieb. 神はあなたを知っており
Kennt auch dich und hat dich lieb. あなたを愛している
戦争は終わり、また次の戦いへと移っていく。
「ドイツ」の統一は目の前に迫ってきていた。
二人の兄弟は歌っている。
離れている時も、
一緒に居る時も。
(消えないでくれ!俺のドイツ!)
(消えないでくれ!兄さん!!)
二人の歌った歌は、今もドイツで歌われている。
ドイツの民によって。
「兄さんの子守唄」 完
作品名:【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編 作家名:まこ