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万華鏡をのぞいても面白くない

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※イギリスが人体収集家というアレな設定の上で書いた話です。








 フランスの皮膚を裂くとコーヒーの香りが立った。

「お前はこの世の果てまで俺を不快にさせるんだな」

ほんの僅かな汚れも傷も見当たらない美しい銀色のナイフに付着した、恐ろしく赤い血液が、イギリスの瞳の中に留まり、その身を鴬色に移し変え、やがて雨粒となりイギリスのあからさまに傲慢な革靴の上に落ちた。Shit.乾いた声を喉から漏らし、イギリスは眉間に皺を寄せる。滑稽な斑点の張り付いた靴を見下ろし、舞台俳優のような溜息をつく。
 嗚呼、なんたる悲劇か。今後、一切、もう二度と! 俺がこの靴を履くことは無くなってしまった!
 今すぐにでもこの靴を脱ぎ捨ててやりたかったが、そこはなんとか踏み止まり、(裸足の紳士なんてお笑いものだろう)イギリスは心根を汚染する原因の選択順を自ら書き換える事に徹した。充満するカフェインの香りに神経を集中し、靴汚れよりも不快指数の高い苛立ちに頭を切りかえる。下品で奥床しさの欠片も知らない、なんて胸糞悪い香りだろうか。これならまだロゼワインの方が幾分かマシだった。

「お気に召さなかったかな?」

 刃の離れた様を見て、フランスは左手首に引かれた歪みのない一本の赤い線を小指でなぞった。指の腹にたまった己の血液がフランスには木苺のジャムに見えているのだろうか、極上に甘いタルトをつまみ食うかのように、細く微笑んで舐め取った。
 うざってぇ。もしかしたら、こいつはわざとコーヒーの香りを選んだのかもしれない。そうだこいつのことだ。きっとそうに違いない。
 イギリスは口の端を痙攣させて、大袈裟なフランスの仕草を、カフェインに殺されていく嗅覚を追いながら見つめた。切り落とし損ねたフランスの手首が、軽やかに彼の髪をかきあげる。するともちろんその軌道には血液が絡まってしまう。金糸に血が滑る。ライ麦畑に落ちる焼け焦げた夕日のようだ。

「あーあ勿体ない!こんなサービスもう二度としないよ?」

 唇を尖らせて顔を寄せるフランスにイギリスは唾を吐き捨てたかった。
 サービスだと? 元よりそんなつもりなどなかった癖に。香り立つこの空気が動かぬ証拠だ。死臭を嗅がせてみろよファッキン野郎が。
 ああもう腹立たしい!

「いらねぇよ」