時の狂ったその島で
「ロックオン、起きてください!ライル・・・っ」
「ん・・・、うん?」
成人した男のくせに妙に可愛い声の持ち主、アレルヤに俺は起こされた。
「まだ眠いんだよ・・・、っ?!」
「わっ!」
ガバッと体を起こして辺りを見回すとそこはトレミーにある仮想シミュレーションを行うことのできる部屋だ。
「俺・・・、戻って・・・?」
「大丈夫ですか?ライル」
アレルヤの髪型は俺の良く知っているオッドアイを隠していない髪形だ。
つまりは本当に戻ってきたということになる・・・。
「・・・・・・ああ、大丈夫。心配かけたな・・・」
夢だったのか、ただのシミュレーションのバグだったのか・・・。
今となってはどっちでもいいか・・・。
タバコの一本くらい吸っても良いだろうと思いポケットを漁るが、ライターがない。
「え・・・?俺どっかに落とした・・・か・・・?」
(コレで済ませてやんよ)
まさかな・・・。
「ライルっ!!」
いきなり男に抱きしめられ俺はそのまま壁に頭を打ってしまう。
「痛っ」
「痛いのかっ?早く医務室に・・・」
「いや、平気だから。それよりも待ってくれよ、なんで・・・兄さんがいるんだ?」
「アレルヤからお前が気絶したまま起きないって聞いてそれで心配して来たんだ。
ほら医務室に行くぞ」
状況がまったくつかめない。
いったい何が起きたって言うんだ?
「僕、先に医務室に行って準備してますね」
「頼んだぞアレルヤ」
肩に担がれても廊下を進んでいる最中も俺の頭は混乱していた。
「えっと・・・あ、兄さん・・・目が」
ようやく気がついた。
兄さんの右目を覆うように眼帯が付けられていることに。
「ん?まさか・・・記憶が曖昧になっちまったのか?やっぱり頭を打ったのか・・・?」
そりゃアンタのせいだよ兄さん。
「じゃあ移動しながら教えてやるよ。
この右目は7年前の戦いの時に怪我をしちまってな・・・それでだ」
「ああ・・・それは知ってる。じゃあその後、デュナメスが壊れちまった後はっ?」
「そうだな・・・奴に一撃食らわせた後、もう死ぬかもって思ったときに夢を思い出したんだ」
「夢・・・?」
「そう眠る時に見る夢。面白かったんだぜ、なんせ未来からお前が来たんだぜ。
俺はまだ24だったてのにお前はもう31って面白いだろ?」
「それで・・・」
「それでな、その夢の中でお前は俺に言ったんだ。独りにしないでってな・・・」
夢じゃなかった。
現実に今兄さんは俺の隣にいる。
「に・・・っ」
「けっこう可愛かったんだぜ?俺に抱きついてぼろぼろに泣いてさ」
「っな、泣くわけ・・・」
実際に泣いたわけだけれど素直には認めたくなかった。
しかし俺のその反論の言葉は頭の上に置かれた手によって失われた。
「その夢のおかげで最後まで諦めずにいられたんだ。
もう死ぬかって時に見えたエクシアに向けて残った推進用エアを使って・・・ギリギリ爆発に巻き込まれずに済んだ。
ま、右目はとうとう全盛期ほどに回復してくれなくてな。
・・・それでお前を巻き込んじまった」
「・・・いいよ。俺は後悔してない。それに兄さんとまた会えて・・・嬉しいんだ」
「・・・本当、お前は昔っから泣き虫だったよな」
よしよしと子ども扱いする手は癪だけれども、悪い気はしない。
「たった二人の兄弟なんだ・・・これからもよろしく頼むな?兄さん・・・」
アニュー。そっちに逝くのは遅くなりそうだけど待っていてくれるだろうか?
ずっと兄さんに守られてきたこの命を、今度は守るために使いたいんだ。
だからどうか待っていて欲しい。
いつの日か、たくさんのバラを持って会いに行くから。