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傷痕に花束

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心に傷を持った場合、どうすればいいだろう?
 それは簡単に治りはしない。気がつけば瘡蓋は剥げ、膿がよどみじくじくと君を苛む。些細なことで血は吹き出し、叫びたいほどの痛みを君に与える。この傷の厄介なところは、決して目に見えない、ということだ。加えて凶器の与える効果も曖昧だ。ある人は、その出来事に対して君以上に傷つくだろう。だが、別の出来事では君ほど傷つかないだろう。こんな些細な出来事一つでも、人間は同じじゃないんだ、笑えるだろう?
 それでも、時間が経てば、人と触れ合えば、愛する人がいるならば、その内傷の痛みは薄れていくだろう。
 だったら、それが出来ない場合はどうする?要するに、致命傷を受けてしまった場合はどうすればいいか、ってことさ。
 
 ――簡単な話さ、忘れてしまえば良い。

 ――ある少年の話をしよう。頑張って頑張って、心に致命傷を負ってしまった少年の話だ。まぁ、この話が君の心の傷のヒントになるかどうかは、わからないけどね。


「あなた、だれですか」
 それが少年の発した第一声だった。包帯に身を包まれた状態でベッドに横たわり、見舞いに訪れた男を見上げている。外見に見合った幼い口調で、初対面の人間に対する警戒心をわずかに滲ませながら、少年は目の前の男に尋ねた。
 男はというと、その言葉に特に驚きもせずに落ち着いた様子で答えた。わずかに口元を歪めながら。
「俺は折原臨也。知ってるだろ?……何、今更知らないふりしようって?」
「だって、知りません、すいません」
 少年は少しだけ申し訳なさそうにしながら、目の前の男に謝罪した。どうやら彼は自分の知人であるらしい。だが少年は男のことは何一つ記憶にない。どこであった人間だろうと記憶の引き出しを開けても、どこにも姿が見当たらない。もしかして騙されているかもしれない、と少年は心の片隅で疑いを強くした。こんなに印象的な相手を忘れるはずがない。
「あの、あなた本当に誰ですか」
 重ねて問いかければ、男は眉をひそめて「演技もいい加減にしてよ」と苛立ちをあらわにした。
「君が予め新羅や運び屋と話しているのは知っているんだ。俺だけ忘れたなんて、」
「セルティさんたちの知り合いですか?」
 少年が問いを重ねれば男は「だから止めなってそれ」と溜息を落とした。
「あのさ、帝人君。酷い扱いをしたとはいえ、付き合った人間だけを忘れるふりするほど君が幼稚とは思いもしなかったよ」
 少年――帝人の中でこの時この男の扱いは決定した。――なるほど、自分の妄想に他人を巻き込む人間らしい、と。帝人は思い切り息を吸い込むと、隣室に控えているだろう新羅たちに大声で助けを求めた。――変態!!と。


 臨也は不機嫌だった。叩かれた頬が痛くて不快だし、珍しく発揮した良心で心配した相手には叩かれて不快だし、何より目の前で息ができないほど腹を抱えて笑っている旧友とその恋人が不快だった。不機嫌にもなるというものだ。
「だ、だって、変態、へ、へ、変態、確かに臨也にこれほど相応しい呼称はないよ」
 駄目だ、笑いすぎて涙が、と呻いている。そのまま息絶えろ、と臨也は思った。一足先に笑いから復活したセルティはPDAに文字を連ねた。
『だが、帝人はどうしたんだ?私たちのことは覚えているのに、何故臨也のことだけ忘れているんだ?』
「さあ、そもそも帝人君はここに運ばれてきた時、結構な怪我だったからね。頭も打っていたようだし、一部の記憶くらい飛んでいても不思議じゃないかもね」
「何で俺なんだよ」
 苛々しながら臨也は言った。新羅は「まあ記憶障害がどの程度なのかは後で俺が調べておくよ」と医者の顔で告げた。「臨也は忘れられるだけのことをしたじゃないか」とも。
「でも今まで自分のしてきたこととかは把握していたようだから、やっぱり臨也のことだけ忘れたのかもね、迷惑かけてごめんなさいって言っていたし」
「きちんと調べろよ」
 唸って新羅を睨みつけながら、臨也は脅しつけた。セルティが『帝人が困るような事を忘れてなければいいが』という心配する。それすら、臨也が忘れられているという状況が些事であるかのようで、酷く腹立たしかった。
 そして、恐らくそれが事実である事が何より不快だった。
 新羅は剣呑な様子の臨也をみてまた笑った。それも当然の事だ。一度捨てたものに対して執着をみせる行為は滑稽でしかない。
「別に帝人君が君のことを忘れたっていいじゃないか!君の彼の観察はもう終わったんだろう?彼は君のことを忘れた方が幸せだよ、きっと」
『帝人がお前のことを忘れたのは、自業自得だ』
「セルティが四文字熟語を使ってる!いつも使っていたかいがあった!セルティは本当に……」
「とにかく、記憶障害の程度のこと、また知らせろよ」
 いちゃいちゃし始めたカップルをこれまた不快に感じながら、臨也は新羅の家を出た。
 とにかく、全てが腹立たしくて仕方なかった。今この瞬間、静雄にたいする憎悪が薄れるほどに帝人が憎らしかった。

作品名:傷痕に花束 作家名:RM