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傷痕に花束

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気になってしまっては仕方がない。

 元来臨也は好奇心が強いほうだ。そして堪え性があるわけではない。加えて、帝人に対しての苛立ちもある。そもそも、別れてしまった元恋人にどうして気を使う必要があるのだろう。
「大体俺って忙しいんだよねぇ」
 そう、臨也は多忙だ。だというのに、思考の片隅には常に帝人の影があった。ふとした瞬間に思考する対象は帝人だった。鬱陶しいと思うのに時間は掛からなかった。これは恐らく帝人が臨也のみを忘れ去ったことが原因だと思いさらに苛立ちは募った。
新羅は帝人に記憶を刺激する事を禁じたが、忘れてしまった帝人が悪いのだ。忘れられた方としては原因を探るのは当然のことではないか。
――てっとり早いのは記憶を思い出させること。
しかし記憶を思い出させるにはきっかけが必要だ。水面に石を投じて波紋を起こすように、記憶を呼び戻す材料が必要だ。そのためには、まず。
――記憶を失うに至った頭部の怪我をどのようにして負ったのかを調べる。
 方針が決まれば行動は迅速に。臨也はジャケットを羽織ると波江に言った。
「ごめん、波江さん。俺気になることできたから、暫らく仕事お願い。必要なことは紙に書いておいたから。わかんないことあったら電話して」
「人に仕事を押し付けて悪趣味な人間観察する人間なんて死ねばいいのよ」
「今回は違うよ。俺も不本意なんだ」じゃーね、と声がして扉の閉まる音がした。波江は扉の方を見て、息を落とす。
「あんなにわかりやすいのに、どうして本人は自分のことに気付かないのかしら」
 不本意って顔じゃないわよ、という言葉は静かに空気に溶けていった。


 調べ始めてしまえば、帝人が傷を負った経緯など容易に知れた。簡単なことだ。間抜けにも彼は、最後に起きた事件で買った恨みで襲われたようだった。
 臨也は呆れた。帝人は自分が大切だと常々言っていたにも関わらず、こんな事態を彼が予測していなかった事実に。自分の身を守る術は叩き込んだはずだった。臨也が教授したことを彼は覚えていなかったのだろうか。
 明確に指図したことはない。だが、臨也が実際にそうしている姿を帝人は何度も見ているのだ。凡庸な外見に見合わないほど、瞳を爛々とさせて。
「ありがとうございます」
 何度目かに、帝人は言った。臨也は「何が?」と返した。
帝人と付き合うのは大変だった。それなりのアトラクション――非日常――を用意してやる必要があったからだ。臨也の趣味の範囲でまかなう事が出来ればいいが、そうできない時は仕事に少しだけ関わらせたりもした。
 確か、その日は仕事に関わらせたときだったと思う。
 入念に立ち回って情報を操作していると、彼が言ったのだ。ありがとうと。にこりと笑って。
「参考にさせてもらいますね」
「この体験を何かに活かしたいと君が思うなら、君が思う通りにすればいい」
 臨也は微笑して答えた。本音を言えば、高笑いしたい気分だった。わざわざ目の前で立ち回っている臨也の意図の通りに学習する帝人が、自らの思い通りに成長していく様子が楽しかったのだ。
「そうでなければ、わざわざ見せてくれている臨也さんに申し訳ありません」
 そう発言した彼が、何故自衛の手段をとらずに無法備だったのか。
 記憶の切欠を掴むつもりが、新たな謎が増えただけになった。
作品名:傷痕に花束 作家名:RM