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ハッピーエンドしか望まない

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俺はお前が好きで、でもお前はあいつが好き。
そんであいつには彼女が居て、俺たちの想いはいっそ笑えるぐらい一方通行だ。
なのに、お前があいつを忘れないから、俺の片恋にも終わりなんてないんだ。







キレたら見境無い俺を見捨てなかった帝人。
だからなのか、帝人の前だとあまりキレることもなくなり、キレたとしても帝人は仕方がないなぁと俺を許した。
帝人の傍はただただ心地好くて、手放したくないなと頭の片隅で思ってはいた。
そんな帝人を好きだと自覚したのは、帝人の恋を知ってからだ。
(気持ち悪いよね)
そう言って、帝人は俺の好きな綺麗な蒼い眸を歪ませて笑った。
(気持ち悪いでしょ、男なのにさ、同じ男を好き、なんて)
でも、それでも好きなんだ。
どうしよう、静雄。
そう言って、微笑んだ顔のまま帝人は泣いた。
俺は何にも言えなくて、でも気持ち悪いとかそんなの感じなくて、その時想ったのは、ああ俺はこいつのことが好きなんだと、家族とか友達とかそんな温かく優しいものじゃなくて、どろどろとした、熱くて苦くて、いわゆる性欲を伴ったそんな想いで。
涙を滑らせる頬に舌を這わせ、哀しみの息を吐く唇を唇で塞いでしまいたかった。
この時も俺は泣いている帝人に、欲情していたのだ。
それから俺の片想いは始まった。
不毛な一方通行の恋。
無駄に一途でけなげな帝人は、あいつに好きな奴ができてそいつと結ばれても、哀しみ一つ面に出すことなく、良かったねと綺麗な顔で祝福したくせに、変わらずあいつを想った。
そして俺もまた、笑いながら泣く帝人を、想った。
諦めるとかそんなの考えもしなかったし、思い付かなかった。
まるで呼吸するかのように、俺は帝人を想い、恋をしていたんだ。








****



「正臣、結婚するんだって」
成人しても帝人と静雄の縁は切れず――切らせなかったと言ったほうが正しいかもしれない――、お互いが借りているアパートの行き来をするぐらいの仲だった。それでも肩書きは友人のままだけれど。
視力が落ちてきたんだと、最近眼鏡を掛け始めた帝人は見慣れぬ顔で笑った。
「招待状、静雄のところにも届いてなかった?」
「あー、届いてるかもな」
「かもって、ポストぐらい確認しなよ。・・静雄らしいけど」
大方、毎日夜遅くて確認も面倒で通り過ぎてるんでしょとため息交じりに言われ、その通りだった静雄は口を噤んで顔を逸らした。
静雄の様子に呆れたように、けれど仕方がなさそうに笑う帝人はよくよく静雄を理解している。
自分はまだ帝人を理解しきれていないのに。
「・・・出席するのか?」
「ん?」
「結婚式」
レンズの向こうでふわりと睫毛が伏せられた。
その眸が想う先を静雄は嫌というほど知っている。
「・・・・うん、行くよ。友人の門出だもの、祝ってあげなきゃ」
「なら、俺も行く」
「ならって・・・・、僕が行かないって言ったら行かないつもりだったの?」
「ああ」
「・・・・静雄ってある意味自由だよね。僕基準で決めてどうするの」
そう言われても、静雄は帝人が行かなければ行く気がしない。
薄情だとか、友達甲斐の無い奴だと思われるかもしれないが、仕方の無いことなのだ。
だって、静雄と正臣を繋ぐものは帝人しか無かったのだ。
帝人が居るからこそ、静雄は正臣を認識して、おそらく正臣もまた帝人が居たからこそ静雄を認識しているはずだ。
それぐらい、静雄と帝人は共に居る。不毛な想いをお互い抱えたまま。
「ていうか、静雄スーツ持ってるの?」
「・・・・多分」
「頼りないなぁ。ちゃんと用意しときなよ、さすがに式ではバーテン服は駄目だからね」
「じゃあ、一緒に探してくれよ。俺のクローゼットはお前のが詳しいだろ」
「・・・誰のせいだと」
「世話好きなお前が悪い」
「ぐうたらな静雄が悪い」
ぽんぽんと飛び交う軽口もずっと変わらない。
何もかも変わらないのだ。
このままでぬるま湯のような関係に浸るのもいいのかもしれないと思う反面、それ以上もと望む自分がいるのも事実だ。
あの日あの時、泣く帝人に欲情したように、静雄はずっとそういった欲望を抱えていた。
傍にいる事は当たり前になっても、時折苦痛に思うこともあるのだ。
例えば、彼のシャツから覗く項に噛みついてみたい、とか。
(でも、嫌われたくねぇし)
それだけが静雄の欲望を抑えつける枷だ。
嫌われたくない。
あの蒼い眸が2度と静雄を映すことが無くなるなんて考えたくも無い。
そうなるぐらいなら、この不毛な恋に浸ることも厭わないのだ。
傍にいられるだけでいいとか、綺麗事めいたこととは違う執着。
「不毛だ」
「・・・?何か言った?」
「や、別に」
否定して、静雄は珈琲を淹れなおす帝人をじっと見つめる。
静寂がこの空間を満たしても、気まずいとは思わないほどずっと一緒にいる2人。
どんなものにも終わりはくるというけれど。
その終わりが、出来れば自分の望むものであればいいと、静雄は思う。
思って、想って。
静雄はずっと帝人に恋をしているのだ。
ふいに、帝人が静雄を見た。
レンズの向こう、蒼い眸が揺らいだ。
きゅっと寄せられた眉間の皺に、静雄は珍しそうものを見たと瞬く。
「何だ、どうかしたのか?」
「・・・どうかしたは、静雄でしょう?」
はあっとため息を吐く唇に見惚れる。
そうしたら、「あのね」と帝人が呟いた。
「そんな目で、見ないでよ。・・・・居た堪れない」
そんな目とはどんな目だなんて、静雄は聞かなかった。
聞けなかったというのが正しいかもしれない。
心臓が耳元で鳴っているかのようにどくどくと煩かった。
よく見れば、眼鏡に隠された目元が微かに赤く染まっていた。
帝人は気付いていた。
知っていたのだ。
静雄の欲が孕んだ視線の意味を。
静雄の気持ちを。
ごくり、と唾を飲み込む。
支配するのは、驚愕と、期待と、僅かな恐れ。
静雄はがたりと椅子から立ち上がる。
その音に俯いていた帝人の肩がびくりと揺れた。
「帝人、そっちに行ってもいいか?」
「・・・・駄目って言っても、来るんでしょ」
「ああ。でも、帝人には逃げられたくない」
薄い唇がきゅっと結ばれて、ふっと綻ぶ。
無性にその唇にキスをしたくなった。
「・・・いいよ」
言われるがいなや、静雄はその足の長さを生かし、一気に帝人の元へと歩み寄る。
縮まった距離、見上げる蒼い眸、薄く赤く染まった頬、濡れる唇。
ああ、と静雄は腹の底で渦巻くものを拳を握ることで押し殺す。
「――帝人、俺はいつから気付いていたのか、聞かねぇ。ただ、一つだけ教えろ」
「・・・・うん」
「お前はこの距離を許すのか」
手を伸ばせば触れられる距離。
静雄が欲しくて欲しくて、けれど失くせなくて縮められなかった距離を、許してくれるのか。

「―――うん」

眸を遮る眼鏡をそっと取り外す。
その指が無様に震えてるのすら、もうどうでもよかった。
揺らぐ蒼い眸に、静雄の理性は消え去った。

「っ好きだ。好きなんだ帝人お前が、俺はずっと、好きだったんだ・・・!」

縋るように華奢な身体を抱きしめる。
触れたくてたまらなかった温もりが今胸の中に在るというだけで、静雄の心は歓喜で溢れていく。
細い腕が背中に回る。