再び星はやってくる【アニカビ第2期署名支援】
そうなのかぞい? と分かったような分からないかのような顔を見せつつもデデデが、行っていいと手を振ったため、一礼してメタナイト卿は退室した。
そして自分で食べたいものは選びたい、というカービィの希望で食事の内容はカービィとフームのふたりで決めることになった。
「それにしてもフームはだいおーと接し方変わったんだね」
カービィが歩きながらそう言った。
子どものころ、彼女は大臣の娘でありながら大王を呼び捨てにするなど全く敬意を表さなかった。
ましてや恭(うやうや)しく『陛下』だなんて臣下の礼を取ったりする姿などはじめてカービィは見た。
「最近気づいたのよ。陛下…ううん、デデデはきっと『認められたかった』のよ」
呼び方を子どものころのそれに言い変えて自分の考えを話す。
「認められたかった……」
「そうよ。子どものころは分からなかったけど、だんだんあのひとの心の内が読めてきたの」
我儘(わがまま)で横暴(おうぼう)で自分勝手な大王。
でもそれは“自分をもっと見てほしい”という幼く、見ようによっては無邪気(むじゃき)な願いからだったのだ、と語る。
「だからそういうのをうまく汲(く)んであげて、みんなのためになることをすれば誉められるっていうのを教えてあげたら、ちょっとずつ大王は変わっていったの」
ほほ笑んでカービィと顔を合わせる。
「きっともっと、もっといい方向にこの国を持って行かせるわ」
「すごいなぁ、フームは」
すっかり大臣さんだ、とからかうように言ったあと、ぽつりと一瞬だけ真顔(まがお)になった。
「でもフームは先生か作家さんになると思ってた」
その言葉にフームが小さく口を開きかけたが、
「そうだ! パーティじゃ、ボクお肉が食べたいな!」
とまたくるりと表情を変え、子どもっぽいことを口にしたため、それきりこの話題は流れてしまった。
あらかた食材も決め、あとの配達や調理はワドルディ達に任せればよい。
フームは自室に戻って一息つく。
カービィはカブーに会いにいくと言っていた。
一緒に行こうか、と訊(き)いたらやんわりと断られたのを思い出す。
急にこの村に彼が戻ってきたことに実は秘密があるのではないか、と心がざわめく。
と同時に彼に対して疑いを持つ自分が嫌になる。
『フームは先生か作家さんになると思ってた』
私の中の彼がずっと小さな赤ん坊だったのと同じように、彼の中の“私”もあのころのままだったのだろうか。
そしてお互いその面影(おもかげ)を引きずっているのかもしれない。
けれど……。
引き出しから一冊のノートを取り出す。
「夢を忘れてなんかいないわ、カービィ」
そう言ってボロボロの――それは何度も取り出しては書き出して見なおしたせいであろう――冊子を愛(いと)おしそうに抱きしめた。
「えーそれでは星の戦士、カービィ殿、そしてメタナイト卿のご帰還を祝して、乾杯(かんぱい)」
村長、ただ代替わりはすでにしてあるが、が音頭(おんど)をとると会場は和やかなムードに包まれた。
今ではもう親となった、イロー、ハニー、ホッヘの三人がカービィに子どもを見せる。
丁重(ていちょう)にお断りしたはずなのだがカワサキは手製の料理を持ち込んでいた。相変わらず彼の腕(うで)は上達していない。
だがカービィはおいしそうに頬張(ほおば)る。
ブンはメタナイト卿に自分の武勇伝(ぶゆうでん)を語って聞かせ、ソードとブレイドにもそれを証言させている。
それをメタナイト卿は楽しげに頷(うなず)いて聞いていた。
そのほか皆思い出を語らったり、幼子(おさなご)が“語り継がれた”英雄に駆け寄ったりし幸せな夜を過ごした。
翌日、パーティの前に修理はすませておいたのだろう、カービィとメタナイト卿は朝食を終えてすぐ別れの挨拶に来た。
「もう行ってしまうの?」
「ああ、私たちはまだ旅の途中なのだ」
いつまでも立ち止まってはいられない、とメタナイト卿は返事をした。
「そう…じゃあ引き留めるのは悪いわね」
フームが無理に笑顔を見せる。
星の戦士たちの見送りに宇宙艇の前に大勢のひとが集まった。
「それじゃぁ、フーム」
「ええ」
カービィは丸い手を差し出した。
「楽しかった」
「わたしもあなたに出会えて本当に良かった。あなたのこと絶対に忘れない」
そう言ってフームもその手を握(にぎ)り返す。
「カービィ、そろそろ」
「…うん」
宇宙艇の運転席に座るメタナイト卿に促され乗り込もうとする。
「さようなら、カービィ」
カービィに声をかける。
「さよなら、フーム」
彼が手を振ってそれにこたえると、窓が閉まりコーっと音を立て宇宙艇が持ち上がり発進する。
ププビレッジのみんなの姿が小さくなり、見えなくなるまでカービィは手を振り続けた。
「ありがと、運転してくれて」
「何、構(かま)わない」
また操作を間違えられて墜落してしまったら困るしな、とメタナイト卿が冗談めかせて言ったあと、
「名残は惜しめたか?」
とぽつりと尋ねた。
「……うん」
窓の外を見たまま頷(うなず)く。
星の戦士とポップスターの住人、特にフーム達のようなキャピー族はあまりにも生きる長さが違いすぎる。
何百年という単位がそれほど長くはない星の戦士とたった百年も未知の歳月となる彼らとでは、この宇宙の中でまた出会えるという保証はない。
特に自分たちは最前線で宇宙を駆(か)け巡(めぐ)る身だ。再びこの星を訪れることができるかも分からない。
だからこそカービィとメタナイト卿はどうにか回る星の順番や滞在日数などを調整してこの星に立ち寄ったのだ。
これが彼女たちの顔が見れる最後の機会だと。
「大丈夫だよ」
顔をメタナイト卿には見せずに力強く、ただ僅(わず)かに語尾(ごび)を震(ふる)わせながら言葉を発した。
「ボクはあのププビレッジでの日々をずっと覚えてる。そして“みんな”もきっと忘れないでくれる。
だからボクは戦い続けるよ。“みんな”の笑顔のために!」
宇宙艇は広い広い宇宙の向こうへと飛んで行った。
そして“星のカービィ”というタイトルの小説がある女性の手によって書かれることになるのだが、それはまたもう少しだけ未来のお話である。
作品名:再び星はやってくる【アニカビ第2期署名支援】 作家名:まなみ