milky way
「んー。天気が良かったら、久しぶりに野球でも観に行く? 外野席なら、当日券もあるかなー」
「あるだろ。……もう勝ってもいい頃だな。じゃあついでに中華でも食いに行くか」
「いいね!」
楽しげなプランを連ねるだけで気分が晴れてきた自分の単純さに呆れつつ、体を起こして阿部の顔を覗き込むと、腕を引かれて抱き締められる。
「なあ、さっき何がそんなに面白かったの?」
「さっきって?」
「野球中継観てた時」
そう言うと、阿部はオレの首筋に小さくキスをしだした。
「ちょっ……くすぐったいよ」
「なあ」
「えー……別に大した事じゃないよ。阿部が思った通りの反応したから、嬉しくなっただけ」
不貞腐れたように吐き捨てると、阿部の動きが止まる。その隙にオレも阿部の肩口に顔を埋めようとしたが、きつく抱かれてしまい身動きが取れなくなった。
「阿部、痛いよ」
苦情を言っても、阿部は力を緩めてくれない。仕方が無いので、辛うじて手で触れられる所にある阿部の肩をそっと擦ってみる。野球を辞めて数年、確実に筋肉は落ちてきているはずなのに、それでもオレとは違いがっしりしていた。
多分、阿部は泣いている。
愛想の無さからクールな性格だと思われがちだが、阿部の感情豊かで、少し寂しがり屋な所がオレは好きだった。
素直に甘えてくれる瞬間が、幸せだった。
こんなにお互い想い合っているのに、どうして不安になる事があるのか。安定しないオレの気持ちをいつも原点に戻してくれるのは、皮肉な事に他の誰も知らないであろう阿部のこういう一面だった。
しばらくして、阿部がオレからそっと離れる。こちらをを見ないようにして、少し濡れた顔を拭いているようだった。
ベッドに戻ってきた阿部を今度はオレが引き寄せると、素直に体重を預けてくれる。
決して柔らかくは無い素肌の感触にすら欲情してしまった。
「明日の予定は決まったけど、明後日は? たまにはのんびりする?」
「……お前が何時頃までこっちに居られるかによる」
阿部の声が掠れている事には気付かない振りをして、少し考える。
「日が暮れたら、帰ろうかな」
「道路混むぞ」
「じゃあ、渋滞が解消された頃にでも」
「それじゃ大分遅くなるじゃねーか」
「そうやっていつも気遣ってくれるけどさ、阿部はオレと少しでも長く一緒に居たいとは思わないの?」
阿部が乗ってくるのをわかっていてわざと挑発してみると、その通り乱暴に口を塞がれ、スイッチが入る。
「それにさ」
息継ぎの間に言葉を続けると、その手と唇を休めて阿部が顔を上げた。
「オレ、暗くなってからここのインターに入るのがスゲー好きなんだよね」
「は? ……何で?」
「ここのインターさ、料金所も結構高い位置にあるのに更にグワーッて上り坂になるじゃん。このまま宇宙まで行っちゃえそーって思わない? 空が暗いと、余計に」
「プッ……お前、どんだけロマンチストなんだよ」
「はー? 阿部にだけは言われたくないね!」
バカにされたように笑われた事にムキになって反論すると、いいから集中しろよ、と甘い行為に引き戻される。
一度意識してしまえば、阿部もこの楽しさがわかるに違いない。来週末は夜の内に埼玉に帰って来てもらおう。せっかくだから、星が綺麗に見えるといい。
そう心の中で願ってから阿部の体に両腕を回し、お願いがあるんだけど、と耳元で囁いた。