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ちょこ冷凍
ちょこ冷凍
novelistID. 18716
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芝桜

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 グルグルと思考を巡らせ、ゆっくりと顔を上げた。栄口はカップを置くと、何故か得意満面な顔でニイッと白い歯を見せている。こんな場面でも動揺が顔に出ないのは、長年の捕手経験の賜物だった。キャッチャーやってて良かった。半ば強引に薦めてくれた親父、マジありがとう。
「いいよ、オレ付き合うよ」
「はっ!?」
「阿部がここまでしてくれてるんだからね」
「……本気かよ」
「まあ、どうせ休みは暇してるし」
「暇だからって……。そんな適当な話じゃねーだろ」
「あ、いや、きっかけは声掛けてもらったからだけど、やるからには真面目に取り組むよ?」
 何となく、話が噛み合っていない気がした。
「……ちなみにお前、何て聞いてるんだ?」
 恐る恐る訊いてみると、え? シニアのコーチ、足りないんでしょ? と小首でも傾げそうに栄口が目を丸くする。
 あ、その付き合うか、そうか、そうだよな、と独り言ちると、どうしちゃったのー? 変な阿部! と大笑いされた。
 どうしちゃったって、お前に恋しちゃってるんだよ。そうだよ、だいぶ前からどっか変なんだよ。ワリーかよ!
 言えたらどれだけスッキリするだろう。一度笑い出すとなかなか止まらない栄口が腹を抱えて目尻に涙を浮かべている姿を睨み付けながら、すっかり冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
「お前、まさかその格好で練習に参加するつもりじゃねーだろーな」
「えっ!? 今から!?」
「ったりめーだ。早く着替えてこい」
 時間ねーぞ! と追い立てると、相変わらず阿部はヒドい! と文句を言いながら栄口は自室のある母屋へと駆けて行く。散らかったテーブルの上を片付け、ごちそうさまでした、と店内に声を掛けると、栄口の姉ちゃんが奥から顔だけひょっこり出した。
「ありがとうございました! 勇人をよろしくね」
 行ってらっしゃい、と手を振って見送られる。うちでは絶対あり得ない、栄口家特有の応対にうっかり触れてしまいくすぐったくて仕方が無かった。
「お待たせっ! オレも車出す?」
「いいよ。乗ってけ」
 ユニフォーム見当たらなかったから今日はジャージで勘弁して、と助手席に座った栄口がシートベルトを締める。
「オレ、走れっかなー」
「なっさけねー事言ってんじゃねーよ」
「野球なんて、もう随分やってないからさー」
「また一から始めればいいじゃねーか。……一緒に」
 栄口が、視界の端でオレを凝視していた。
 運転していて良かった。こんな事、目を見て言えるか。
「……そうだね。オレ達は、そうやって来たんだもんね」
 お、もう咲いてるんだ、今年もそんな季節かー、と土手沿いを眺めながら栄口が呟く。
「後でここまで走りに来るか」
「楽しむ余裕、あるかなー」
 今の内に見ておこう、と栄口が窓に張り付くの横目で見遣り、バックミラーを確認したオレは右足をそっとブレーキペダルに移した。
作品名:芝桜 作家名:ちょこ冷凍