仮面ライダー:BLACK BRAVE
~プロローグ~
---ある年の冬。
夕方のもう日が沈みかけたときのこと、自転車を猛スピードで走らせる少年が一人。
住宅地から少しはずれた一軒家である我が家の自転車置き場に自転車を止めると、かごの荷物を持ち家に入る。
この少年の名はユキト。学校では目立つわけでもなく、地味でもなく、それなりに充実した毎日を送っているごく普通の中学三年生である。後にある巨大な組織を相手に戦うことになる少年なのだが、今はそのようなことは知るよしもなかった。
「ただいま・・・」
ユキトは玄関をくぐり驚きを隠せなかった。その原因はユキトの目の前の光景にあった。
そこには今まであったはずの家具が全部無くなっていた。部屋の角におかれていたテレビも、その前に置かれ家族と一緒に入っていたこたつも、そのこたつとは別におかれた食卓も、すべてなくなり、家は建てられた当初の何もない姿へと変わっていた。
「え・・・なんで・・・」
しばらく理解のできないでいたユキトだったが、突然ドアの開く音がし、振り返るとそこには見知らぬ黒いスーツの男が一人。手には書類と写真のような物を持っている。
「君が、ユキト君だね?」
「は・・・はい。」
ユキトは曖昧に応じると、男は後ろに向かって軽く手をあげると、その背後からさらに数人の黒服の男が現れユキトを取り押さえてきた。二人の男に両手をふさがれ、強制的に外の車へと連行しようとするとユキトはその男に顔だけ向けて叫んだ。
「ちょっと何!どういう事!?」
すると男はユキトの顔に書類を突きつけ言った。書類はどうやら自分の名前や今までの経歴が書いてあるようで、一緒の写真は紛れもなく自分の顔だった。
「まぁ詳しいことは後で話す。今は黙っとけ。」
そう言うと白いハンカチを取り出すとユキトの口元に押しつけてきた。ユキトはその男の顔をみながら最後に両親のことを思い出しながら意識を失っていった。
ユキトが目を覚ますと、そこはだだっ広いグレーのコンクリートむき出しの部屋で、後ろには巨大な青い扉がある。自分の他にも人がいるのか、周りから男女様々な不安の色を隠せない声が聞こえる。
すると不意に部屋が明るくなり、目を覆うと背後の扉が開く金属の重い音が響いた。
慣れない目で顔を向けると、真っ黒な戦闘服に頭蓋骨のような真っ白いマスクをし、小銃を持った戦闘員が扉の前に十人ほど並び、さらに数人の戦闘員に守られながら自分を襲ったような黒スーツの男が出てきた。
「何!?何!?」
「あたしたちどうなったの!?ここなんなの!?!?」
近くの女子が叫び声を上げ、一気に部屋が騒がしくなる。よく見るとどうやら自分とさほど変わらない年齢の人ばかりがいるようだ。
「静かに!」
男が言うが聞こえていないようなのか皆騒ぐのを止めない。すると男の合図で戦闘員の一人が天上に向かい引き金をひいた。
発砲音が連続で鳴り響き、驚いた全員が静まりかえる。それを機に男は再びユキトらにむけて低くハスキーな声で話し始めた。
「今、恐らくこの状況を皆さんは理解できていないでしょう。これよりここに連れてこられた理由、及びこれからの目的を分かりやすく説明します。ここには皆さんと同じ中学生から高校生までの人間しかいません。では、何故此処にあなた達が連れてこられたか・・・。理由は簡単です。あなた達は、売られたのです。」
ユキトは、自分が自分の想像以上にとんでもない状況にいることをここで知った・・・。
「売られた・・?いや意味わかんねぇし」
さっきまで叫んでいた女子が言い出す。
「あなた達はご存じないでしょう。あなた達のご両親が、どれだけ苦労してあなた達を育ててきたかを。そして、それが限界を迎えつつあったと言うことも。
我々はちょっとした金融業をやっております。今の経済的不況、失業者増加の中、我々のところに金を借りに来る人も少なくなかった。そして、借りたものを返さない人も現れた・・・そこで我々は、現金とは別の形で、借りた金と同価のある物を引き渡してもらうことで、話をつけたのです。それが・・・」
聞くのが怖かった。そんなはずはないと信じたかった。だが、本当の事実を知りたい欲望が勝ったのか、知らず知らずにユキトの口から男の言葉の続きが零れ出た。
「俺たちの・・・命・・」
「そういうことです。命とひとくくりにするには、少々語弊がありますがね。では、事情説明はこれで終了とさせていただきます。質問がある方は?」
男が言った瞬間、そこにいる全員が口々に言い出した。
「嘘言うな!!ぜってぇありえねぇ!!」
「あたし達の親がそんな酷いことするわけないでしょう!!」
「やだ!!出して!!ここから出して!!」
もちろん質問どころではない。怒る者、泣き出す者、嘘だと訴えかける者、口々に言いたいことを言っているが、ユキトはそれよりも、今の事実に呆然といていた。そんな馬鹿な。ウチの家族はみんな幸せに、とくに不自由もなくくらしていたはずだ・・・なのになぜ・・・
考え込んだユキトを見抜いたように男がまたはなしだした。
「まだ分からない人がいるようですが、あなた達は先ほど言ったとおり、売られた、もう育てられないと、捨てられたのです。こんな世の中で何時、誰が食いぶちを失ってもおかしくない。だが食べていかねば生きていけないのは当然です。まだ昔ならば、『それでも子供だけは』と自分を犠牲にしてまで子供を守るひともいました・・・ですがもうそんなぬるい世の中では無いんです!子供といえども所詮自分とは別の命。自分と誰かを天秤にかける人などいはしません!・・・強いて言うなら、愛する人くらいでしょう。そうすればまた子供だって作ることは出来ます。そう。捨てられていく子供が後を絶たなかったのはこういうことです。そこに私たちが行く先をつくった!あなた達はそこに行くだけです。他に質問は?」
外道だ。まずユキトはそう思った。ここまで頭の中が人を踏み外した人間がいたとは思わなかった。周りもそう思ったからか、男が話し終えた途端に急に静かになった。顔にはもう声を上げる元気すら残ってないのだろうか。もう死んだような顔をしている。
ユキトはもうこの現状がどうしようもないことがわかると、あともう一つ聞きたいことができ、恐る恐る手を挙げ男が「では君。」と俺を指す。
「これから・・・俺たちどうなるんですか・・・」
「あなた達はこれから此処で私たちのためにしばらく働いてもらいます。食事や住居も保証します。今からそのための“処置”を施させていただきます。」
処置?と思ったとき、男が腕を上げると天上から無数の穴が空き、中から霧のような物が吹き出してきた。再びざわめき始める周りをよそに、戦闘員と男はその部屋を去っていった。追いかけたかったがまず身体が動かない。見れば他の奴らも次々と倒れていき、ユキトも毒ガスでも吸わされたかと思うのが限界で、徐々に眠りの縁に落ちていった・・・。
---ある年の冬。
夕方のもう日が沈みかけたときのこと、自転車を猛スピードで走らせる少年が一人。
住宅地から少しはずれた一軒家である我が家の自転車置き場に自転車を止めると、かごの荷物を持ち家に入る。
この少年の名はユキト。学校では目立つわけでもなく、地味でもなく、それなりに充実した毎日を送っているごく普通の中学三年生である。後にある巨大な組織を相手に戦うことになる少年なのだが、今はそのようなことは知るよしもなかった。
「ただいま・・・」
ユキトは玄関をくぐり驚きを隠せなかった。その原因はユキトの目の前の光景にあった。
そこには今まであったはずの家具が全部無くなっていた。部屋の角におかれていたテレビも、その前に置かれ家族と一緒に入っていたこたつも、そのこたつとは別におかれた食卓も、すべてなくなり、家は建てられた当初の何もない姿へと変わっていた。
「え・・・なんで・・・」
しばらく理解のできないでいたユキトだったが、突然ドアの開く音がし、振り返るとそこには見知らぬ黒いスーツの男が一人。手には書類と写真のような物を持っている。
「君が、ユキト君だね?」
「は・・・はい。」
ユキトは曖昧に応じると、男は後ろに向かって軽く手をあげると、その背後からさらに数人の黒服の男が現れユキトを取り押さえてきた。二人の男に両手をふさがれ、強制的に外の車へと連行しようとするとユキトはその男に顔だけ向けて叫んだ。
「ちょっと何!どういう事!?」
すると男はユキトの顔に書類を突きつけ言った。書類はどうやら自分の名前や今までの経歴が書いてあるようで、一緒の写真は紛れもなく自分の顔だった。
「まぁ詳しいことは後で話す。今は黙っとけ。」
そう言うと白いハンカチを取り出すとユキトの口元に押しつけてきた。ユキトはその男の顔をみながら最後に両親のことを思い出しながら意識を失っていった。
ユキトが目を覚ますと、そこはだだっ広いグレーのコンクリートむき出しの部屋で、後ろには巨大な青い扉がある。自分の他にも人がいるのか、周りから男女様々な不安の色を隠せない声が聞こえる。
すると不意に部屋が明るくなり、目を覆うと背後の扉が開く金属の重い音が響いた。
慣れない目で顔を向けると、真っ黒な戦闘服に頭蓋骨のような真っ白いマスクをし、小銃を持った戦闘員が扉の前に十人ほど並び、さらに数人の戦闘員に守られながら自分を襲ったような黒スーツの男が出てきた。
「何!?何!?」
「あたしたちどうなったの!?ここなんなの!?!?」
近くの女子が叫び声を上げ、一気に部屋が騒がしくなる。よく見るとどうやら自分とさほど変わらない年齢の人ばかりがいるようだ。
「静かに!」
男が言うが聞こえていないようなのか皆騒ぐのを止めない。すると男の合図で戦闘員の一人が天上に向かい引き金をひいた。
発砲音が連続で鳴り響き、驚いた全員が静まりかえる。それを機に男は再びユキトらにむけて低くハスキーな声で話し始めた。
「今、恐らくこの状況を皆さんは理解できていないでしょう。これよりここに連れてこられた理由、及びこれからの目的を分かりやすく説明します。ここには皆さんと同じ中学生から高校生までの人間しかいません。では、何故此処にあなた達が連れてこられたか・・・。理由は簡単です。あなた達は、売られたのです。」
ユキトは、自分が自分の想像以上にとんでもない状況にいることをここで知った・・・。
「売られた・・?いや意味わかんねぇし」
さっきまで叫んでいた女子が言い出す。
「あなた達はご存じないでしょう。あなた達のご両親が、どれだけ苦労してあなた達を育ててきたかを。そして、それが限界を迎えつつあったと言うことも。
我々はちょっとした金融業をやっております。今の経済的不況、失業者増加の中、我々のところに金を借りに来る人も少なくなかった。そして、借りたものを返さない人も現れた・・・そこで我々は、現金とは別の形で、借りた金と同価のある物を引き渡してもらうことで、話をつけたのです。それが・・・」
聞くのが怖かった。そんなはずはないと信じたかった。だが、本当の事実を知りたい欲望が勝ったのか、知らず知らずにユキトの口から男の言葉の続きが零れ出た。
「俺たちの・・・命・・」
「そういうことです。命とひとくくりにするには、少々語弊がありますがね。では、事情説明はこれで終了とさせていただきます。質問がある方は?」
男が言った瞬間、そこにいる全員が口々に言い出した。
「嘘言うな!!ぜってぇありえねぇ!!」
「あたし達の親がそんな酷いことするわけないでしょう!!」
「やだ!!出して!!ここから出して!!」
もちろん質問どころではない。怒る者、泣き出す者、嘘だと訴えかける者、口々に言いたいことを言っているが、ユキトはそれよりも、今の事実に呆然といていた。そんな馬鹿な。ウチの家族はみんな幸せに、とくに不自由もなくくらしていたはずだ・・・なのになぜ・・・
考え込んだユキトを見抜いたように男がまたはなしだした。
「まだ分からない人がいるようですが、あなた達は先ほど言ったとおり、売られた、もう育てられないと、捨てられたのです。こんな世の中で何時、誰が食いぶちを失ってもおかしくない。だが食べていかねば生きていけないのは当然です。まだ昔ならば、『それでも子供だけは』と自分を犠牲にしてまで子供を守るひともいました・・・ですがもうそんなぬるい世の中では無いんです!子供といえども所詮自分とは別の命。自分と誰かを天秤にかける人などいはしません!・・・強いて言うなら、愛する人くらいでしょう。そうすればまた子供だって作ることは出来ます。そう。捨てられていく子供が後を絶たなかったのはこういうことです。そこに私たちが行く先をつくった!あなた達はそこに行くだけです。他に質問は?」
外道だ。まずユキトはそう思った。ここまで頭の中が人を踏み外した人間がいたとは思わなかった。周りもそう思ったからか、男が話し終えた途端に急に静かになった。顔にはもう声を上げる元気すら残ってないのだろうか。もう死んだような顔をしている。
ユキトはもうこの現状がどうしようもないことがわかると、あともう一つ聞きたいことができ、恐る恐る手を挙げ男が「では君。」と俺を指す。
「これから・・・俺たちどうなるんですか・・・」
「あなた達はこれから此処で私たちのためにしばらく働いてもらいます。食事や住居も保証します。今からそのための“処置”を施させていただきます。」
処置?と思ったとき、男が腕を上げると天上から無数の穴が空き、中から霧のような物が吹き出してきた。再びざわめき始める周りをよそに、戦闘員と男はその部屋を去っていった。追いかけたかったがまず身体が動かない。見れば他の奴らも次々と倒れていき、ユキトも毒ガスでも吸わされたかと思うのが限界で、徐々に眠りの縁に落ちていった・・・。
作品名:仮面ライダー:BLACK BRAVE 作家名:天津神