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夜を歩く

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彼は頭一つ分ほど背が低かった。つるりとした黄色い肌を見ているだけでは、とても彼の年齢を想像することはできないだろう。控えめな顔のパーツのせいか、それともそれを積極的に動かそうとしないからか、彼が何を思っているのかはひどく読み取りづらい。気詰りなのか、気にもしていないのか、それとも怯えているのか、喜んでいるのか。今もまた、斜め下に視線を向け無言で歩くその姿からは、彼がどう思っているのかさっぱりわからなかった。多分、彼とこちらの間には、埋めがたいほどに大きな通信規約の差があるのだろう。時々、彼は苦しそうに眉を寄せていて、その時だけは、こちらにも彼が何を考えているのか理解することができた。通じない、理解しがたい、彼はそう苛立ち困惑していた。
 正直なところ、彼はこちらと肩を並べる存在であるなどとは思っていない。民族衣装がスーツと靴になりはしたものの、やはりまだ違和感がある。伝わらない苛立ちを抱えている限り、多分彼はずっとそうだろう。彼はこちらのルールに従うべき存在ではあるが、こちらに属する存在ではない。ただ――他の国に比べ、彼が優秀――いや、油断できない相手であるということを忘れてはいけない。従兄弟から借りたみたいなスーツ姿であり、御婦人をエスコートするさまがおけいこごとみたいであっても、だ。彼とほぼ同じ時期に接触を開始した他の国は、スーツの着こなし以前の姿なのだ。曲がりなりであっても、こちらに向かって握手の手をさしのべ笑みを浮かべてみせることができるというのは、驚くべき能力だ。
 甘いお菓子も、ぴかぴかの玩具も彼を釣るには至らなかった。神の言葉も、彼はそう言う存在もいると受け入れて放置しただけだった。彼が邪教を主張してこれば、また事態も違ったかもしれないのに。
 不意に彼は足を止め、顔をあげた。そして、珍しいほどまっすぐに、こちらの目を見た。つややかな唇が小さく動くのをただ眺めた。
「――月が綺麗ですね」
 音が言葉に変化し、その意味を理解するまでに少しかかった。
 空を仰ぎ見る。確かに彼の言う通りだった。欠けることない白光が中天に浮かんでいる。惜しみなく与えられる銀色の光で、ランプすらも必要がないほどに、あたりは明るい。
 相槌をうつさまを、黒い瞳が瞬きもせずに見守っていた。
作品名:夜を歩く 作家名:東明