夜を歩く
確かにその通りだと言ってから、先を急ごうと口にする。吸い込まれそうな闇色が揺れたような気がした。ひくり、と、頬が動いた。ああ、これは彼のいつもの顔だ。苛立ちと、多分――悲しみ、諦観、か? ぎゅっと唇がひきむすばれた。いったいどうしたというんだ。
うつむいた彼の頬に、さらりと黒髪が流れた。再度顔をあげたとき、彼は微笑みを浮かべていた。そうですね、先を急ぎましょう、と。そう言って彼は歩き出す。
いくらか話をした。いつもよりもずっと彼は人なつっこく、こちらの提案を積極的に聞いてくれるように見えた。先ほど彼に感じたものは、誤りだったのだろうか。やはり、彼の考えは分かりづらい。彼の口元には、あえかな笑みすらも漂い続けたのだ。
その後ほどなくして彼は牙をむき、とても厄介な相手に変貌した。