兄弟ごっこ
「じゃあ、ミカン食べさせてください」
「はいはい」
丁寧に筋を剥かれた瑞々しい果実が唇に押し当てられる。艶やかな薄皮で唇をなぞり、僕の唇をこじ開けていく。押し込むようにミカンを口内に渡し、指先が促すように口蓋を撫でていく。
「あまぐり、ください」
「はいはい」
皺の寄った飴色の実を口に押し当てられた。僕はその皺一つ、一つを確認するように舌で舐めていく。小さな実は舐め辛く臨也さんの指先を知らずに舐めてしまう。
指先ごと木の実を口に含んで、吸って舐めて、べたべたにしてしまった整えられた指先を僕は吸い上げた。
「キスしてください」
「…………。はいはい」
一瞬戸惑った臨也さんの顔が僕の視界を塞いだ。少し薄くて硬い唇が僕の唇と重なり、甘酸っぱい味で胸がいっぱいになっていく。
「恋人ごっこするよ?」
そう微笑む臨也さんに、僕も笑って応える。
「ごっこでいいんですか?」
それには応えずに、臨也さんは僕を強く抱き締めた。たぶんそれが答えだと思う。
【終】