二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
中野コブクロ
中野コブクロ
novelistID. 12635
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

11/28新刊?サンプル

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 


「……………」
 そんなのは、あんまりだ。
 自分と彼は、友達などではなかった。先輩と後輩で、その間にある二年間が埋まる事はない。何をどう頑張ったとしても、絶対にだ。
 学校の誰からも理解されなくても、彼の存在があるから大丈夫だった。彼が待っていてくれる。その気持ちがあるからこそ、勉強も苦にはならなかった。
 けれど、彼にとってはきっとそうではない。
 トムにはトムの世界があって、静雄はその世界のどこかに少しだけスペースを割いているだけの存在でしかないのだ。
 けれど、自分には彼しかいなかった。
 家族以外では彼だけが静雄の理解者だった。
 静雄の世界の大きな部分を彼が占めているのに対し、彼の中の自分の存在はどれ程ちっぽけなものなんだろう。
 そう思うと、たまらなかった。
 たまらなく惨めで、悲しかった。
 寂しかった。
「…………ません」
 小さな静雄の声に、え? と笑みを浮かべたままの彼が短く聞き返す。
「……同じ高校には、行きません」
 ひく、と喉が引き攣った。
 漏れた声は弱く、小さかった。苦しくて、上手く声が出せなかったのだ。
 不意に吹き付けてきた風が頬に冷たく、その時ようやく自分が泣いている事に気が付いた。
 トムの目が、驚きに見開かれる。
 堪えきれず、静雄は顔を伏せて小さく嗚咽を漏らした。
 あんなに会いたかった彼の姿が、今はこんなにも胸に痛い。
 人前で泣くなんて、どれくらいぶりの事だろう。みっともないし恥ずかしいとも思うのに、頬を伝い落ちていく涙は止まらなかった。
「…静雄……」
 ぼやけた視界の端で、彼の手がこちらに伸ばされるのが見えた。
 その手を避けるように一歩下がり、ぺこりと頭を下げて踵を返す。
「ちょ…っ、おい、静雄……!」
 慌てたようにそう呼び止めるトムの声を振り払って駆けだした。
 そのまま足を止める事なく家に駆け戻り、着替えもせずに自室のベッドに潜り込む。痛む胸を守るように、ベッドの中できゅっと身体を縮こめた。
 ─────もうやめよう。
 彼を追いかけるのは、もうやめにしよう。
 自分に言い聞かせるように、何度もそう胸の内で呟く。こんな事で傷付いているなんて、トムにとっても理不尽な事であるはずだ。わかっている。彼は何一つ悪くない。悪いのは、自分なのだ。
 彼という理解者を得られた事が嬉しくて、ついついそれに縋ってしまった。勝手に縋って勝手に傷付くなんて、我ながらなんて身勝手なんだろう。
 良き先輩として接してくれていた彼に、自分は何を望んでいたのだろうか。トムが卒業してしまってからも、まるで崇拝でもするみたいに彼の事ばかりを考えていた。
 トムのくれた言葉に縋り、余計な事など何一つ考えず今日まで過ごしてきたのだ。彼と自分との間にある距離にさえ目を向けず、ただひたすら待っているというトムの言葉だけを胸に抱いて。
 震える手で、前髪をくしゃりと掻き回した。
 ここを、撫でてくれた。
 以前までと少しも変わらない笑顔を浮かべ、事あるごとにそうしてくれていた時と同じ手付きで、痛んだこの髪を撫でてくれた。
 嬉しかった。嬉しいのに、悲しかった。彼との距離になど気付かなければ、今もまだその感触をただ『嬉しい』と感じていられたのだろうか。
「………っ…」
 でも、自分はもう気付いてしまったのだ。
 彼の気持ちと自分の気持ちとに、明確な違いがある事に。
 静雄にはトムしかいないけれど、彼はそうではないはずだ。数多くの友人がいて、もしかしたら付き合っている彼女などもいるかもしれない。彼を取り巻く世界と自分の世界との違いを、一体どんな言葉で表せば良いのだろう。
 わからない。
 わからないのに、考えれば考える程胸は締め付けるように痛んだ。涙が溢れ、みっともない嗚咽が喉の奥から溢れ出てきて止まらない。
 この痛みや息苦しさは、どうすれば治まってくれるのだろう。人よりずっと早く怪我や傷が治る自分の特異体質は、こんな痛みすらもすぐに消してくれるのだろうか。
「……っ、ふ……、ぅ……」
 そうだといい。
 いつものように、気が付けば跡すら残らず消えてしまっている傷口のように、こんな痛みもすぐに消えていってしまえばいい。
 そうすれば、少しだけ強くなれるような気がした。
 誰にも縋らず、期待せず、一人で立っていけるだけの強さが得られるような気がした。
 そのためにも、痛む胸の理由はこれ以上考えない方が良い。何故かはわからないけれど、そう直感した。突き詰めて考えていけば、きっとロクでもない結論に行き着いてしまうだろう。身体の奥底に眠る防衛本能のようなものが、そう静雄に予感させたのかもしれない。
 そして静雄は、その予感に従う事にした。
 熱心に勉強する事もやめ、彼の言葉も極力思い出さないようにした。トムと知り合う前の状態にまで戻っただけの事だ。そう自分に言い聞かせながら、日々を過ごした。
 そうする事で、いつか記憶も薄れてくれるだろうと祈るように思いながら。