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発見、歩み寄り

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 ――何と言うか、子どもだ。完璧。
「……しゃ〜ねぇなぁ」
「染岡、」
「言い出したらきかねぇだろ、我等がキャプテンは」
「――まあ、な」
 それは、この雷門中サッカー部内の暗黙の了解である訳だが……。
(……こんな風に甘やかしてばかりだと、それがますます助長されていく気がする……)
 ――それこそ今更なのかもしれないけれど。
 ふとMFの練習を見ると、向こうは鬼道を中心にちゃんと連携を確認したりパスやドリブルの練習をしていた。
 その中でも鬼道は、さっきみたいに後輩や半田、マックスたちにも的確なアドバイスをしているようだ。
(何か、円堂とは違うタイプだけど――面倒見がいいというか)
「おーい、風丸ー?」
「――ああ、今行く」
 
 そんな風にいつも通り練習が終わって、気持ちはともかく体はすっかりくたびれて。
 全員が着替えて部室で何となく喋っていると、ぐぅ〜……ぐぐぅ〜……なんて大合唱が始まった。
 帰りに雷雷軒に寄って行こう、と誰かが言い出せば、賛成する声があちこちからあがる。
 そんな中、鬼道だけは「後で行く」と言い、部室に留まる旨を告げた。
 何でも、今日の部誌の当番は鬼道だったらしい。
「あれ?今日の当番鬼道一人か?」
「影野が休んだからな」
「一人で大丈夫か?」
「問題ない」
「――ん。じゃあ、後で絶対に来いよ!」
「ああ」
 円堂と鬼道の話が終わり、他の部員たちが「頑張れ〜」「早く来いよ」などなど、他愛もない言葉を投げかける。そのひとつひとつに対して、鬼道は律儀に頷いていた。
 それを意外だとは思わなかったけど。
 何となく新鮮なものを見たような気持ちになるのは、何故だろうか?
 ようやく挨拶(?)が済んだのか、そのままぞろぞろと部室を出る。
 自分も当然その後をついて行ったのだが、途中、校門を出たばかりの所で、ふと足を止めた。
「風丸?」
「――悪い、先に行っててくれ」
「どうかしたのか?」
「大したことじゃない。――少し、忘れ物を思い出したんだ」
「それ位待ってるぜ?」
「いや、すぐに追いつくから先に行っててくれ。それに――」
 俺を誰だと思ってるんだ?と。
 挑発するようにそう言えば、やっぱり気持ちがいい位スカッと笑う円堂がいて、ぐっ、と親指を立てている。
 それに笑って答えて、そこで自分は彼らと分かれて元来た道を走り出した。
 ――行き先は、部室。
 
「鬼道」
「――風丸?どうした」
 忘れ物でもしたのか?という問い掛けには曖昧に笑って、すとんと向かい側の椅子に腰を下ろす。
「?」
「待っててもいいか?」
「何故、」
「いや、まあ――――何となく」
「……」
「――――迷惑、か?」
「……そういう訳ではないが、退屈だろう?」
「そうでもないさ」
 ――よし、会話らしくなってきた。
「鬼道はすごく丁寧に部誌を書くからな」
「……普通だろう?」
「いやいや。――ほとんど全員分、練習で気付いたことが書かれてるからさ」
 良かったところ、改善できそうなところ。
 整った文字で分かり易く、噛み砕かれて書いてある。
 それが嬉しかったから、もっと頑張りたいと思ったんだと、そう言っていた仲間の顔が浮かんできて、自然と口元が緩む。
「……俺は、」
「うん?」
「……お前たちが、ほとんど何も書いていないことに驚いたぞ」
「あー……まあ、そこは――な」
 人間、誰しも得手不得手があるというやつだ、と言えば、鬼道は少し呆れたように笑う。
「不得手な人間が随分と多いようだな」
「――確かに」
 俺も他人のことは言えないのだけれど、と言った所で、ピタリと鬼道の手が止まった。
「終わったのか?」
「ああ」
 言いながら、使っていたシャーペンシルをペンケースにしまって、更にそれをカバンの中に入れて立ち上がる。自分もそれに倣って腰を上げ、そのまま戸口へと向かった。
 扉の鍵をかけた後、鍵はその近くに置いていあるブロックの中に入れる。
 こうしておけば、いつでも、学校が開いてない時でも部室を使うことが出来るという訳だ。
(これに関しても驚いてたよな、そういえば……)
 確かに、帝国ではこんな、適当な鍵の扱いなど有り得なかっただろう。でも、これに関しても鬼道は一度溜め息を吐いただけで、今では特に何も言わずこの慣習に従っている。
 ――音も無く、鍵が穴に落ちた。
「――行くか、ラーメン」
「ああ」
「円堂と壁山辺りが待ちきれずに騒いでるぞ、きっと」
「……そうかもな」
 そして、またちょっとだけ、笑う。
 呆れたような、でもそれだけじゃない笑い方をすると、何となく雰囲気がやわらかくなる様な気がした。
(――――よかった)
 ようやく、少し前に進めそうだ。
 
 《終わり》
やわらかな印象形成
作品名:発見、歩み寄り 作家名:川谷圭