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私を愛したあなたなんて大嫌いだ

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組み敷いて見下ろした先でイギリスが泣くのを、妙に冷めた頭で捉えていた。いつまで経っても幼い顔をぐしゃぐしゃに歪めて、嫌だ嫌だと首を振る。自重を支えられなかったらしい両膝がくずおれたせいで、上半身をシーツに埋めるような状態になっていた。こちらに向けて突き出すようなかたちになっている細い腰を掴んで軽く揺さぶれば、イギリスはされるがまま、シーツを必死に握りしめながら何度も声を上げた。
 繰り返し奥を穿って、細い体を抱き潰して、そうする内にイギリスの声はすっかり嗄れてしまっていた。あ、あ、と洩らす嬌声も既に明瞭ではなくて、どちらかといえば荒い吐息を零す方が多くなってきていた。きっともう、彼は何か言葉にするだけの気力も意識も持たないのだと、ぼんやり思う。
 しばらく黙っていたからか、イギリスは僅かに不安そうな顔で俺を見つめていた。それに気付いた俺はすぐに笑みを形作り、これでもかと甘く、優しい声を出した。イギリス、と繰り返し名前を呼んで、押さえつけた腰はそのままに、上半身を折り曲げる。イギリスの薄い皮膚、浮いて見える背骨へ歯を立てた。びくびく震える体を、腰から背へ、指と舌の先で丁寧に辿っていく。
 尾てい骨の辺りからどんどん上昇した手の平はついに心臓の裏側へと行き着いて、じわじわと互いの体温が合わさっていくのを感じながら、うなじへ軽く吸いついた。イギリスは少しだけ震えたけれど、これといって反発はしなかった。それをいいことに、うなじから首筋、首筋から耳の裏側と、目につくところに次々と痕を残す。
 しばらくそんなことを繰り返してから、くたりと力を抜いたイギリスの体を転がした。少し前から深いところに埋めていた自身を抜き取って、呆けたようなイギリスを仰向けにする。「……ふらん、す?」自身の意識をさらう、苛烈な快感から唐突に解放されて、イギリスは普段の彼からは考えられないような、甘く不明瞭な声を出した。俺はその声を聞き、ぼんやりとした視線を受けて、やわらかに微笑んだ。
 蕩けた意識を好ましく思いつつ、ぐいとイギリスの腕を引く。状況が分からず何度も瞬いているのが可笑しく、くつくつ喉を鳴らす。「ゃ、あ、フランスっ、」途端に慌てた声を出すイギリスの細い体を抱き寄せて、俺の肩へと縋らせた。
 胡座をかいてベッドに座り込んだ俺の膝の上に、がくがく震える萎えた足を折り曲げたイギリスが跨がっている。その肌を覆うものは何もなく、熱にぼんやりと紅潮した皮膚を伝う様々な液体がベッドサイドの照明に照らされている。それまで見つめていたペリドットから視線を下げれば、不健康な程白く肉付きの悪い太腿の内側を白濁が汚していくのが見えた。片手では優しくイギリスの肩を抱いたまま、もう一方の手をその際どいところへ伸ばす。腰から尻の先まで手の平を滑らせて、ぬるりとした液体を拭い取る。
 震えた声に名を呼ばれて顔を上げる。見上げた先には、信じられないという表情のイギリス。咎めるような視線に思わず笑い、いやらしいね、とゆっくり囁いてやれば、イギリスはその小綺麗な顔をくしゃりと歪めて、懇願するように俺を見つめた。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳に、きつく噛みしめられた薄い唇。羞恥にか悦楽にか赤く染まった頬は驚く程熱い。
 目尻を軽く噛んでみると小さく息を飲んで、大仰なくらい背を反らす。その動きに合わせてこちらも体を引き、後ろ手をついて目の前のイギリスを改めて眺めた。だらしなく座る俺の上に、同じくらい仕様のない状態で跨がる淫らな男。片手で俺の肩を掴み、もう一方の手では唇を塞いで、とろりとした瞳でこちらを見つめている。
 媚びるようなその視線に俺はにやにやと下品な笑みを浮かべる。イギリスの目がそろりと見つめてくるのを確かめながらゆっくりと唇を舐める。見せつけるように、煽るように、目の前の彼が焦れればいいとそれだけを考えて行ったその動作は、自分でもはっきりと分かる程あざとかった。
 俺があざといというならイギリスは充分に明け透けだ。隠しようもなく情欲に濡れた気配に笑う。それまで連続して快感を与えられていたのだから、今こうやって唐突に投げ出され、目前にいるのに何もして貰えない、という状況はイギリスにとってかなり辛いのだろう。たっぷりと艶を乗せた瞳で俺を窺っている。
 イギリスの体を上から下まで遠慮会釈なくじろじろと眺め回す。貧相な体はそれでも反応が悪い訳ではない。むしろ中々素直になれないイギリスの精神面から考えれば、彼の体は相当に分かりやすいものだといえた。唯、体がどんなに素直な反応を示しても、彼の唇は大抵すぐには動かない。本当は何でも欲しがっているくせに、イギリスは頑としてそんな自身を示さない。それはきっとなけなしの矜持であり、彼を彼たらしめるものなのだろう。――そう、分かってはいても。
 イギリスの頬を両手で包んで、何度も唇を合わせた。触れ合い自体は子供のようなそれで、ごく軽いものだったけれど、随分焦らされたイギリスにしてみれば充分だったらしい。自分からも両腕を伸ばし、俺の頭を掻き抱いて、一生懸命に舌を伸ばしてくる。けれど俺はそれに対してあまり真剣に相手をしなかった。実際のところ、イギリスが次にどうして欲しいかなんてすぐに分かる。それでも、追い縋る舌をいなし、唇を僅かに離して、動きを止めてしまった。
 不満げな顔をしているイギリスの頬を軽くつつき、そんな顔しちゃって、と小さく笑う。意味が掴めなかったらしく首を傾げる姿を見つつ、静かに腰を抱き寄せた。大して抵抗もせず腕の中におさまった体の、浮き出た鎖骨に甘く歯を立てる。そうして、ぴくりと震えた体を柔らかに撫でながら、上目にイギリスを見つめて囁いた。

「ねえ坊ちゃん、どうして欲しいの?」

 すると途端にイギリスの肩が揺れたのが滑稽だった。堪えきれずに少しだけ声を出して笑う。イギリスは何度も瞬いて、俺の体から手を離し、両手で口元を覆っている。そんなにびっくりすること、と尋ねつつ、その手を静かに外してやった。そしてそのまま彼の胸元まで導いて逃げられないようにしてしまう。
 逃げ道を失ったイギリスは唯ひたすらに、分からないと駄々をこねる子供のような仕草で何度も首を振った。「坊ちゃん、坊ちゃん、どうしたの」俺はそんなイギリスに苦く笑いながら、掴んだ両手をそっと開いて、互いの指先を絡み合わせる。

「何にも難しいことは言ってないでしょう。どうして欲しいか聞いただけ」
「……っ、」
「言ってみて?」
「ふ、らんす」
「俺はいいの。ねえ坊ちゃん、」

 答えて。
 言い聞かせるように囁けば、イギリスは何度も首を振った。駄々っ子のような仕草に、俺はわざと大きくため息を吐く。するとイギリスがぱっと顔を跳ね上げてこちらを見つめてきた。その視線を掬い上げて搦め捕る。

「分からない訳ないでしょう? だって自分のことだもの」
「……っ、やだ、こんなの」
「こんな、……なぁに?」
「っ、」