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【APH】あったかも知れないひとつの物語【独伊】

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ドイツ、大好き!
 耳の奥で反響する明るい声。
 瞼の裏に残る、柔らかな笑顔。
 それは、
「――さようなら、ドイツ」
 銃声と、凍りついたような笑みにかき消された。


(あったかも知れないひとつの物語)


「……イタ、リア」
 己の身体から流れ出る血が、コンクリートを黒く染めてゆく。
 睡魔にも似た感覚に侵される思考と、粉塵の所為ではっきりとしない視界。冷えた唇でその名を呼ぶけれど、それは虚しくも瓦礫の崩れる音にかき消された。
「(あぁ――死ぬ、のか。俺は)」
 それは、この状況下においては自然と浮かんでくる考えで、けれどもドイツは死というものに大した感慨を抱かなかった。それどころか、喜びにも似た感情を確かに覚えていた。
 は、は、と短い呼吸に反応するように、膝の上の体温がピクリと揺れた。
「……、イタリア?」
 ドイツが首を動かして下を見れば、ドイツの膝に頭を載せて横たえているイタリアがいた。ドイツの傷口に頬を寄せていた所為で白い頬は赤く染まっていたけれど、浮かべられている笑みは皮肉なほどに無邪気なそれだ。
 しかしイタリアの唇から漏れるのも、ドイツと同じような荒い吐息。彼が抑えている腹の辺りには、じわりと赤黒い液体が染みていた。
「……ド、イツ……」
 漸くと言った様子でその名を呼ぶイタリアは、血に塗れた手をドイツの頬に伸ばした。触れた掌からぬるりと生温い感触が伝わってきて、ドイツはその不快感に顔を顰める。
「――死ぬんだね、俺たち」
 あのイタリアからは考えられない、ぞっとするほど空っぽで冷たい声。感情という感情をすべて排除した、それはとても生きている者の声とは思えなかった。
 ドイツは頬に添えられているイタリアの掌にそっと自分の手を重ね、あぁ、と掠れた声で答えた。
「……そ、か。そうだよ、ね……」
「何だ。お前は、こういう結末を望んだんじゃないのか?」
「そりゃ、そうだけど」
 イタリアは指先を軽く動かしながら、虚ろな瞳を細め言葉を紡ぐ。
「……ドイツ、は。これで良かった、の?」
「ふん……問いもしないで撃ったくせに、よく言う」
 揶揄するつもりで言ってやれば、イタリアは素直に「そうだよね、ごめん」と唇を動かした。けれどもその声は酷く弱々しく、ともすれば今にも消えてしまいそうなほど。ただでさえ白いその肌も、血を失くした所為で青白くなっている。
 また瓦礫の崩れる音がして、ドイツの目の前でコンクリートの壁が崩壊した。
 ドイツは思い溜息を吐く。
「どちらにしろ、これで終わりだ」
「……ん」
 イタリアに両脚を撃たれて殆ど身動きが取れない状態の上、退路は完全に断たれてしまった。何を思ったかイタリアが銃弾の埋まった腹に指を突っ込んだが、それを察したドイツに手を取られる。
「……何を、しているんだ」
 眉根を寄せて問いかければ、イタリアは矢張りがらんどうな声で言う。
「ん……こうした方が、早く死ねるかな、て、思って」
「馬鹿なことを考えるな」
「ここまでやった俺に、今更そんなこと、言うの?」
「そう言う問題じゃない」
 ドイツが咎めるような声で言えば、イタリアはどこか悲しそうに視線を彷徨わせる。
 そんなイタリアの手をぎゅっと握り締めて、ドイツは手首の辺りに唇を寄せた。
 びくり、とイタリアの身体が震えたけれど、それには構わず華奢な掌にべったりと付着した血を舐め取るように舌を這わせた。
「ドイツ……」
 切なげに名を呼ばれて蒼穹の瞳を向ければ、イタリアが潤んだ目で見上げてきていた。
「俺の血なんて、不味いよ?」
「そんなことはない」
 言って、ドイツはイタリアの指先を咥える。口腔で冷えた指先が痙攣するようにぴくりと動いた。そうは言っても血など本当に美味い訳もなく、舐める度に味覚と嗅覚を刺激する錆にも似た味や匂いは吐き気を感じさせた。
 ドイツはすっかり綺麗になったイタリアの指を離して、そっと囁くように言う。
「俺は、お前と少しでも長く共に居たい」
「……」
「だから、先に一人で逝こうなんて思うな、馬鹿者が」
 血の匂いが、思考を侵す。
 恐らくもう真面な判断など下すことが出来ないのだろうと考えながら、ドイツはそっとイタリアの身体を抱き起こした。
「ッ――!」
 途端、イタリアの表情が苦悶に歪む。未だ血の止まらない腹の傷口を強く押さえるイタリアを膝の上に座らせて、ドイツはその額に、頬に、優しいキスをした。
 それは切ないくらい優しい口吻けで、イタリアは自分でも知らぬうちに涙を流していた。
「ぅ……ドイツ……、」
 浅く弱々しい呼吸の合間に、イタリアが緩く唇を動かす。ただ愛するその人の名前を呼んで、ぎゅっとドイツの軍服を握り締めた。
「……イタリア。大丈夫だ。怖くない」
 あやすように言って、ドイツは重く響いた音にまたどこかで大きな崩落があったことを知る。この建物も、もうそう長くは保つまい。
 けれどこういう終わり方も良いものなのだろうな、とドイツは思考する。
 永遠を生きる事も不可能ではないこの命。だからこそ、終わりというものが酷く恋しい。どれだけ焦がれても決して訪れることのないものなのだと諦めかけていた‘終わり’を、大切な人の傍で迎えられること――それはドイツにとって、これ以上ない至福に思えた。
 いつからそんな風に思うようになったかはもう忘れてしまった。
「(永遠をいきたいだなんて、願わなかった)」
「(欲しかったのはただ、大切な人と迎える、最期)」
 それが今、手に入る。
 自分の心も大切な者の心も、他の誰の許にも行かずに、本当に二人きりで迎える終焉が。
「――なぁ、イタリア」
「な、に?」
「さっき、俺はこれでよかったのかと訊いたな」
「――ん」
「あの質問に対する答えは、jaだ」
 言えば、イタリアが目を瞠った。
「俺はこんな風に終える事を、いつからか願っていた。大切な人と一緒に迎える最期を、な」
 語るドイツの顔は、今までに見せたことのないような優しい微笑で、イタリアはぽろぽろと大粒の涙を零しながらも「じゃぁ、」と呟いた。
「俺のしたこと、怒って、ないの?」
「あぁ」
「俺のこと、好きって、こと?」
「当然だ」
「う、裏切ったのに、俺」
「それでも好きなんだ」
 そこで、イタリアが縋りつく力を強くして、ぐしゃぐしゃの顔のままで続けて問うた。
「おれ……俺っ、ドイツに喜んで、貰、えたの……?」
「――あぁ」
 確信を持って首肯すれば、一拍置いてイタリアの顔が綻んだ。
 久々に見たイタリアの心からの笑顔に、ドイツの心も穏やかになる。
「俺は、もう生きることに疲れてしまったから」
 繰り返される戦争、血も、涙も、もう見たくない。
 昔に一度死に掛けたこの身体と心は、もうボロボロで。
 疲れてしまったんだ。
 死にたいと願うようになったんだ。
 思い残すことはない。
 大切な人に、再び、出逢えたから――好きだって、言うことが出来たから。
 そうしてその人の手で、終わりの幕開けが告げられたのなら――。それはドイツにとって完璧すぎるくらい完璧な終わり。
「お前の手で死に向かうことが出来て、嬉しい」
 それはきっと歪みすぎた愛情だけれど。