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年に一度の願い事

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「おまえら昼飯食い終わったら生物小屋に集合な!」

突然食堂に現れた竹谷は実技の授業がなかったにも関わらず土で汚れた制服で、多くの生徒がいる食堂でたった3人に向けた言葉をこれでもかという大声で叫びばたばたと飯も食わずに走り去っていった。

おかげで僕たちめっちゃ目立ってるじゃん、八左ヱ門のばかやろう考えなし。

「何だったんだ今の」

僕の隣に座る三郎は明らかに嫌そうな顔をして、一端置いた茶碗を再び手に取った。

「てっきりまた生物委員の仕事でいないのかと思ってたけど違ったのか」

兵助は器用に三郎のお盆に箸を伸ばし、少しずつ冷や奴を削っては口に運んでを繰り返しながら三郎に答える。これで気づかれないんだからすごいものだ。いつもは竹谷のせいにできるけど今日はいないから兵助の仕業だって後々バレバレだと思うんだけど。

「とりあえず食べ終わったら行ってみようか」

「ああ」

「仕方ないな」

なんだかんだ、みんな先ほどの竹谷の眩しいくらいの笑顔が気になっているんだろう。やたら嬉しそうだったから、僕たちに何か見せたい者があるに違いない。それが変な幼虫だったり雛だったり、子犬だったりすることも珍しくないのだけれど、僕たちは結局毎回懲りずに竹谷の見せたいものを見に行くのだ。

「ごちそうさま」

ガタガタと3人ほぼ同時に箸を置く。比較的食べるのが遅い僕と兵助に三郎がペースを合わせてくれていたみたいだ。竹谷がいれば二人でさっさと食堂から出ていってしまうけど今日は3人だから、気を遣ってくれのかただ単にひとりが寂しいのかはわかんないけど。兵助はそんなことに気づく様子もなく平然と三郎今日は食うの遅いね、と言って三郎に軽く頭を叩かれていた。

「竹谷が見せたいのって何かな」

「俺もう変な色したちょうちょ見せられてもすげーって言ってあげられる自信ないよ」

「てめ、兵助おまえ今までそんな気が利いたことしたことあったか?」

生物小屋に向かおうと長屋の廊下を歩いていると、生物委員の下級生たちとすれ違った。彼らは竹谷とは違いきれいな制服のままで、これから昼食に向かおうというところらしい。幼い1年生から少しとっつきにくい3年生の後輩まで、にこにこと穏やかで嬉しそうな表情をしているように見えるのは気のせいか。僕たち3人は顔を見合わせて、ちょっと期待を持ちながら少し足を早めた。

あの小屋を曲がれば生物小屋。なんとなく無言でそっちに向かっていた僕たちは、小屋の向こうから大きな物音と叫び声を聞いた。


ガターン

「いってー!!」


叫び声の主は僕たちのよく知る、先ほど食堂で大声で僕たちを呼んだ張本人だった。思わず3人で走り出し、慌てて小屋を曲がって生物小屋へ向かった。

「竹谷!?どうし・・・」

目に飛び込んできたものがあまりに意外だったものだから、僕たちはすぐに足を止めてしまった。

大きな大きな、鮮やかな緑色をした葉竹。それには折り紙や花などを使ったかわいらしい装飾が施されていた。そして結びつけられた数枚の色とりどりの紙きれは、風に乗ってそよそよとなびいていた。

僕たちは無意識に笹を見つめたまま、止めていた足をゆっくり動かし竹に向かって歩いていた。

「でかいだろ!俺が山で取ってきて、孫兵たちが飾り付けしてくれたんだ」

笹の下で転がっていた竹谷がむくりと体を起こした。隣に梯子が倒れているところを見ると、先ほどの物音は梯子が倒れて竹谷が落ちた音だったらしい。上の方にもたくさんの装飾が付けられているから、きっとそれをくくりつけている途中だったんだろう。それにしてもあの高さから無防備に落ちたにも関わらず笑顔で起きあがる彼には呆れさせられる。

「この輪っかは孫次郎と三治郎が作ってくれたんだ。きれいだろ!あの上の方のなんかほわっとしたやつは孫兵が作ったんだ、さすが3年生だよなぁ。花は一平と虎若が取ってきたやつ」

竹谷は幸せいっぱいとでもいうような緩んだ顔で、同じ色が何度か連なってしまっている輪っかと、何をモチーフにしたのかわからないふわっとしたやつと、センスがいいとは言えないアブラムシだらけの花たちの説明をし始めた。

三郎は葉竹のてっぺんをじっと見上げ、兵助は興味津々な様子で葉竹の下の方や飾りに触れながら葉のにおいをかいだりしていた。僕はというと、竹谷の話を聞きながら生物委員の後輩たちが書いたらしい短冊を少し拝見させてもらおうと、流れるようになびくそれをひとつ手にとって裏返した。いかにもあの子らしいお願い事だなぁとこぼれる笑みを隠すことなく、そっと元のように短冊を戻した。

「はちの短冊はないのか?」

兵助が尋ねると、竹谷は待ってましたというようにそれぞれ桃色、水色、黄緑色、黄色の色が付いた紙を4枚取り出し、歯を見せて笑った。

「今から書くの!お前らと一緒にな」

ほらほら、と有無を言わさぬ強引な態度で持っていた紙を配り始めた。三郎は自分に桃色が割り当てられたことに不満そうであったが、拒否することなく素直にそれを受け取った。水色の紙を受け取った兵助はすでに願い事を考えているようで、視線を上に向けながら何か考えている。僕も黄色い紙をありがとう、と言って受け取り、願い事を考えに入った。竹谷は始終嬉しそうににこにこしていて、誰よりも早く筆を持ち何かを書き始めた。


作品名:年に一度の願い事 作家名:ニック