愛について
「狙うなら」
すげー! そしたらオレ、応援に行くよ! とまだ受験してもいないのに、栄口は目を輝かせて食いついてくる。
仕方が無い事とは言え、栄口の思い描く大学生活には当然の如くオレの姿は存在しないらしい。自分の言動一つで、隣に座る人間が簡単に浮上したり突き落とされたりする事をいい加減認識してくんねーかな。
それでも内心の落胆を表情に出すのはあまりにも情けないように思えて、簡潔に返答していたオレの耳に今度はトーンダウンした栄口の声が響く。
「阿部はホント、野球一筋だよなー」
「そうでもねーけど?」
だって、何か他に夢とか目標でもあんの? と真面目に尋ねられたら、もう白状するしか選択肢なんて無い。
責任取れよ、と心の中で呟いてから、一つ深呼吸をして栄口の方に向き直った。<br>
「お前と一緒に暮らす、とか」
視線を逸らさずに言い切れば、栄口は声も出ないと言った様子で口を開けたままオレを凝視している。
「言っとくけど、前から考えてたんだからな。別に梶山さん達に影響された訳じゃねーぞ」
だって、そんな急に……と口ごもる栄口に、嫌ならいいけど、と全てを投げ付けてやった。
「阿部は、自分勝手だ」
遠い将来、もう一度申し出る時に、オレは耳まで色付かせてぶっきらぼうに恨み言を呟くこの栄口の表情を思い出すのだろう。
目の前の窓にぶつかる水滴にみぞれが混じり始めた。
そろそろ出た方が良いとはわかっていたが、俯いてしまった栄口が気付くまで、もう少しだけ一緒にいたいと黙っていたオレは言われるまでも無く自分勝手な人間だ。
栄口のオレに対する評価は、今までも、これからも、きっといつだって正しい。