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二人きりのファミリーカー

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どこからどう見てもその車は彼のもので、僕のものではなかった。
シートが深く沈む、ゆったりとしたファミリーカー。或いは黒く染まったボディがつやつやして光るBMW。
けれどそれはただの夢であって、彼の車は小ぢんまりとした黄色い車体だった。ナンバープレートも黄色く、足が伸ばせる夢のドライブには程遠かった。

「ねえ曽良くん、音楽何がいい?」

「いりません」

周囲に音符を飛ばしながら、信号待ちの時間を待ってましたというように彼は積み重なったCDを物色した。けれど僕の返事にがっかりしたように肩を落とし、どことなく真っ青なため息を吐いた。

「ドライブだよ。曽良くん。ドライブだよ」

「何言ってるんですか、出勤でしょ」

黄色い軽自動車。音楽がかかっていないが、風が欲しくて窓を開けたせいで妙に騒がしい黄色い軽自動車。
運転席と助手席に座る男は二人ともそれぞれスーツと制服を纏っている。
閻魔さんは暑い、と言いつつもジャケットを脱がずにシャツをジャケットごと捲りあげてハンドルを握る。僕もはじめそうしていたが、彼が同じように腕を捲りはじめたので、なんとなく居心地が悪くなって袖を降ろした。

そのせいか、暑くて苛々する。
窓を全開にして、窓枠に肘をついて外を眺めた。
大学生らしき、洒落た男の人が自転車でが走り抜けて行く。すぐに信号が変わって、車がそれを追い抜かす。

「ねえねえ、よく男性の運転でバックがときめくって言うじゃない。曽良くんは俺にときめく?」

信号で進んだばかりだというのに、後ろに車がいないからといってギアを入れ替える閻魔さんを見て、思わず腕を抓った。

「馬鹿やってないで運転してください、ただでさえ遅刻なんですから」

また拗ねるかなと思っていたけれど、閻魔さんも時計を見てやばいと思ったらしく、焦ったようにアクセルを踏んだ。

「あんた、今日朝一でプレゼンだって言ってませんでしたか」

「…そうでした」

彼の会社は北にある。僕の高校は東で、逆方向とは言わないまでも、遠回りになるのは知っていた。
彼の会社は聞いたこともない会社だったけれど、どうも絵に描いたような競争社会であるらしく、彼はいつもそろそろクビかもと喚いていた。
彼に足りないものは実力なのか、やる気なのか。どっちも相まってのことだろうが、成績はいつも下位であるらしく、以前本気でふろしきに布団を来るんでいた。

非常に分かりにくいが、彼も時々落ち込むことがある。
そう、例えば、昨夜とか。
いつもは偶然を装って家に向かう僕をこの黄色い車で攫って行くのだけど、彼は落ち込んだとき、それをしない。
それ、とは、車でかっさらうことではなく、偶然を装うこと。
彼は素直に言う。待ってた、とか、会いたかった、という言葉を。