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ちょこ冷凍
ちょこ冷凍
novelistID. 18716
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赤とブルー

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「これ勇人の?」
 今日も二十一時までみっちり扱かれくたくたになって帰宅したオレがまずは風呂、と荷物を担いだまま脱衣所に向かい、汚れた衣類を下洗いが必要な物とそうでない物に分けていると引き戸を開けて姉貴が顔を覗かせた。
「そう……だけど、って言うか! いきなり開けるなって前にも言ったよね!?」
「はいはい、ごめんごめん。……でもさー、急にそんな事言い出すなんて怪しいなあ。もしかして、彼女でも出来た?」
「どこにそんな時間があるんだよ……」
 オレの抗議を適当に聞き流し、柔らかく洗われたタオル類をラックに仕舞いながらからかい混じりの視線を向ける姉貴の言葉に脱力すると、それもそっか、と納得されてしまい、それはそれで何というか……悔しい気もする。
「てっきり女の子からのプレゼントだと思ったのに」
 そう言って、きれいに畳まれた真っ赤なTシャツを掛けた左腕を伸ばされると言葉が出なくなった。
 それ、は。
「……自分で買ったんだよ」
「へえ。勇人にしては、珍しい色を選んだね」
 後はやっておくからそのままにしておいていいよ、と有り難い言葉を残して居間に向かった姉貴の背中に向かって感謝の意を告げてから、どこにそんな時間があるんだよ、とさっきと同じセリフを心の中で呟いた。聡いようでいてどこか抜けている人で助かったと胸を撫で下ろす。
 チームメイトから貰ったと、何故か素直に言う気にはなれなかった。
 浴室に入り、勢い良く出したシャワーが温まるのを見計らって頭から突っ込む。また思い出してしまった昨日の練習後の出来事も埃混じりの汗と一緒に流してしまいたいのに、一向に脳内から消える気配が無い。
「やっぱちょっと、変だったよな……」
 誰にも相談できない違和感をタイルを打ち付ける水音に乗せて吐き出すと、余計にそれが膨らんでしまった気がして慌てて湯を止めた。頭を泡だらけにしながら、体を思い切り擦りながら、オレが考えていたのは阿部の事ばかり。
 何でこんなに引っかかるんだろう。
 何が、正解だったんだろう。

 昨日はオレの誕生日で、だからと言って特に誰にも告げていなかったし夏大前、しかも梅雨入り直前の貴重な晴天の下でハードな練習メニューをこなしている間にそんな事は頭からすっかり抜け落ちてしまったので、オレだけおにぎりが一つ多い理由も握ってくれた本人に告げられるまで気が付かないぐらいだった。
「カントクと私から、ささやかながらプレゼントです」
 おめでとう! とにこやかに笑い、すぐにお茶を汲みに戻った篠岡の背中をぽかんと見つめていると、もしかして自分の生まれた日を忘れてた訳じゃないよね? と半ば確信気味に微笑んだ西広に突っ込まれた。
「練習前までは覚えてたよ」
「じゃあ今は本当に忘れてたのかよ!」
 信じられねー! とゲラゲラ笑う田島を横目に、そういやオレも今年は親に言われて思い出した、とフォローしてくれた巣山が明日の昼休みに何か奢ってやるよと一つ目のおにぎりを飲み込んでから約束してくれる。そうやって散々盛り上がっていたって次の日の補食の具が懸かったゲームのような体力づくりのメニューに夢中になってしまえば、ついさっきの会話の内容などまたどこかに飛んでいってしまうのも仕方が無かったんだ。

 練習が終わり狭い狭い部室の中で着替えていると隣にいた阿部が視界から消え、足元に転がったエナメルバッグの中をごそごそと漁っているのに気付く。なんか忘れ物でもしたのか、それとも自転車の鍵を落としてきたか。なかなか着替えようとしない阿部に並んでトランクス一枚の状態でしゃがみ込み、どうした?と声を掛けた。
 親切とお節介の境界線を見分けるのは上手いつもりだったし、正直な所、これから探すなんて言われたら一緒に帰る身としては放っておく訳にもいかないから手伝った方が早く帰れるな、ぐらいの気持ちからの行動だった。それだけだったのに。
「ん」
 スタッフバッグの中から何かを取り出した阿部が、それをそのまま差し出してきた。訳がわからなくて戸惑っていると、待つのが苦手な阿部はなかなか受け取ろうとしないオレに業を煮やしたらしくオレのカバンを引き寄せ、何も言わずにそれを突っ込んだ。
「えっ? 何?」
「やる。まだ一回しか着てねーし、洗濯してあるから」
 オレの顔も見ずにそう言い、阿部は立ち上がってユニフォームを脱ぎ始める。衣類である事がかろうじてわかるぐらいに小さく畳まれたそれを広げると、阿部の持ち物らしいシンプルな、それでいて阿部らしくない色のTシャツであると判明した。
 あ、そっか、誕生日プレゼントって事か。予備のTシャツを持ってきているのが几帳面な阿部らしい。
 本当に言葉の足りない奴だよな。三橋だったら、絶対気付いてくれないぞーと想像してみたらキョドる三橋と短気を起こす阿部の姿が容易に想像できてニヤケてしまう。何だよ、と怪訝そうな表情で上から見下ろす阿部にありがとなー、と告げ、せっかくだからとそれに袖を通すと困惑した声が降ってきた。
「何も今着なくたっていいだろ……」
「やー、元通りに戻せる自信が無くて」
 あんまり得意じゃないんだよね、こういうの、と立ち上がり、やっぱ阿部の家の匂いがするな、と正直な感想を告げると一瞬目を丸くしてから、阿部が頭を掻き毟った。
 ん? 今ちょっと、変な事言っちゃったか? と思ったものの、発言を訂正するのも余計に気まずくなりそうなので誤魔化しついでに今日自分が着てきた青いTシャツをぐしゃぐしゃと丸めようとすると、それを引っ手繰るように奪われる。
 そのまま、阿部が自分の顔をすっぽり覆う。
「あー、確かにおまえの匂いがする」
「やめろって! それ今日オレが一日着てたやつだから!」
「別に気にしねー」
「オレが気にするんだよ!」
 飄々とオレのTシャツをもう一度鼻を近付けようとした阿部から取り返そうと手を伸ばすと、体を反転されてよろけてしまった。返せ! やだね、と中途半端な格好のままやり合っている間に他の部員の帰り支度はとっくに終わり、ついに花井が怒声を発する。
「いつまでもふざけてねーでさっさと着替えろ!」
 大きな音を立てて閉められたドアの向こうにうっすらと見える広い背中に向かい、はーい、と揃えた声が二人きりになった部室の中に響いた。続きは着替えを済ませてからだと落ちているジーンズを拾い足を入れた瞬間、違和感を覚える。
「阿部! 何でオレのTシャツ着てんだよ!」
「あ? 交換した」
「交換って……誕生日プレゼントじゃなかったのかよ」
「そのつもりだったけど、気が変わった」
 少しも悪びれる様子を見せない阿部は、そのまま上からシャツを羽織ってボタンを留めてしまった。白の下に透ける青は、阿部の方がよっぽど似合っている気がする
 エナメルバッグを背負い部室のドアノブに手を掛けた所で首もとに何かが当たって今度は何だと後ろを振り向くと、頬に触れたのは阿部の硬い黒髪。首の感触は鼻先のようだ。
 言葉も出ないぐらいに驚き、それでも何とか距離を取ろうと身を捩ると顔を上げた阿部の真っ直ぐ過ぎる視線が刺さった。
「混ざってる」
「な、何が……?」
「お前とオレの匂い。多分今、同じなんじゃねーの?」
作品名:赤とブルー 作家名:ちょこ冷凍