銀沖ログ詰め合わせ
「コレ、アンタにあげやす」
そう言って徐に机の上にゴロンと無造作に置かれた幾つかの物体を見て、銀八はぽかんと教師らしからぬ間抜け面を、まざまざと生徒に見せ付ける事となった。
目線を上へ下へと移動して、そうしてまた上へと戻るという行為を何度かやったところで目の前の栗色の髪をした少年が痺れを切らしたのか、苛々とした態度を隠そうともせず要るのか要らないのか、と目線で問うてきた。
「コレ、どうしたの」
そこで漸く我に返った銀八が、尤もな疑問を何の捻りも無く少年にぶつけた。
机の上には四角い小さなチョコレートが転がっている。一個一個を物色する様に手にとって眺めれば、それは限定ものだった。
「この間の休みに、家族で旅行に行って来たんでさァ」
「うん、」
「で、丁度コレを偶々発見しやして。アンタそういやこういうの好きだったなあって思いだして」
「…それで?」
「気が付いたら、買ってやした」
サラリと告げられた言外に滲み出ている想いに頭を抱えそうになるものの、それは面映ゆいからだと銀八は正しく理解している。
けれどもそれを表立って出すのはどうにも憚られて、誤魔化す様に手元のチョコを転がした。
「お返し、何が良い?」
「いや、何もいりやせん」
珍しく自ら歩み寄ったと云うのに、少年は即座にそれを切り捨てた。
流石にそれには憮然とし、上目で少年を窺うと、別に無欲から言った訳ではないらしい。現に次の言の葉は突拍子も無いものだった。
「今は、何も要りやせん。その代わり、来年の春に、何か俺にくだせェ」
「…倍返しか」
「一年越しですからねィ。期待してやすぜ」
ニヤリ、と猫の様に笑う様は実に腹立たしい。が、その裏に潜むものも十分に理解している所為でどうにも強くは出れない。
銀八は諦めた様に一つ、深い溜息を吐くと、駄々を捏ねる愛しい子供を見る眼差しと同じやわらかさで、小さな苦笑を湛えた。
「りょーかい。来年の春、な。お返しの中身は鍵で良いんだろ?」
end.