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ちょこ冷凍
ちょこ冷凍
novelistID. 18716
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無駄な面取り

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そんなイベント小学生で終わったって言ってんのに、付き合ってるんだから一緒に過ごすのは当たり前だとしつこく食い下がる水谷は練習後にわざわざ反対方向にあるオレの家までついてきた。オレは疲れてんだよ、ねみーんだよ。
「ねーいずみー。怒ってる?」
「別に」
「じゃあ何でこっち向いてくれないの?」
「呆れてんだよ」
 何それ、やっぱ怒ってんじゃんと口を尖らせて、水谷は目の前のケーキにフォークを刺す。わざわざこんなもん買いやがって。
「だいたいオレはチョコレートのが食いたかったのに、お前勝手に生クリームのに変えただろ。結局自分が食いてーだけじゃねーか」
「これ以上ニキビが増えないようにってオレの優しさがどーしてわかんないの?」
 余計なお世話なんだよ! という言葉の代わりに素早く立ち上がって暢気にケーキを頬張っている水谷の側頭部に膝蹴りを食らわせると、ちょっと! 今、脳が揺れた! と大袈裟に喚く。
 オレは今日、十六歳になった。
 水谷と付き合い出して、まだ二ヶ月。

 散々文句は言ったけど別に甘いもん嫌いなわけじゃねーし、と目の前の白い三角柱を平らげる。腹が減ってたし、これはこれで旨い。コンビニもバカにできねーな。
「ごちそーさま」
「どういたしまして」
 とっくに食べ終わってた水谷がそう笑ってから、あー! と叫んで項垂れる。
「うっるせーな……。なんだよ」
「あーん、ってやれば良かった……」
 せっかく二人きりなのにー! と本気で落ち込む水谷に、ほらよ、と豪快に開けられた袋からポテトチップを摘んで差し出してやると、まだ不満そうにしながらそれでも口を開けた。
「……泉が食べさせてくれたかと思ったら、いつもより美味しい気がする」<br>
「そーか、良かったな」
 付き合い始めて知ったけど(いや、何となく予感はしていたか)、水谷はこういう恥ずかしい事を臆面も無く口にする。それはもう、オレにはぜってーできねーとある意味尊敬すらするほどに。
「いずみ」
 あ? と向けようとした視線は、水谷に辿り着く前に止められた。唇に柔らかい感触が与えられるのと同時に、仄かにじゃがいもの香りが漂う。
「今日は誕生日だからさ」
 まだ慣れない不意打ちの愛情表現に息を呑んでいる所へ更に耳元で囁かれ、思わず固まってしまったオレの体を水谷はどこで覚えたんだと聞きたくなるぐらい簡単に背後のベッドへと引き摺り上げた。そのまま覆い被さると、珍しく切羽詰まった表情でオレを見下ろしている。
「もうちょっと、いい?」
 股の間に片膝なんか置いて、最初から逃がすつもりなんてねーくせに。
 それでも了承を得ようとする小賢しさが腹立たしくて、重力に逆らわない癖のある髪を掻き上げてやってからオレの顔の横で上体を支えている水谷の腕を撫で上げた。
「好きにすれば?」
 途端、弾かれたように圧し掛かられ、オレの挑発にまんまと乗った水谷が余裕無く首筋に顔を埋めてくる。いずみ、すき、と呪文のように唱える声と初めて知る感覚に意識を流されたくなくて、必死に水谷の服を掴んで耐えた。

 マウントポジションを取ると水谷は一気に服を脱ぎ捨てる。上半身の裸なんて見慣れたはずなのにそれだけで体温が上がり、汗ばむのを感じて同じように自分の服を取り去ろうとすると、待って、と水谷に止められた。
「それはオレがやるから」
 は? と疑問と抗議が混ざったオレの声を無視して、水谷はオレのトレーナーの裾を少しだけ上げると、露わになった臍に唇をつけ、そのまま腰まで移動させる。
「ちょ……くっ……すぐってー」
 返事もせず、水谷は少しずつオレの肌を露出させながらそれを追うように柔らかい熱で触れていった。身を捩って抵抗しようとしても、オレより少しだけ成長の早い体で押さえつけられて思うように動けない。
「ん……な、それ……楽しいのかよ」
「うん」
 だってほら、と右胸の突起を優しく吸われると、体が跳ねた。その反応を見て、悪戯っぽく笑った水谷が今度は舌を見せつけてからそこに触れると、生暖かい感触と共にさっきの比じゃない気持ち良さが脳まで駆け巡る。
「は……」
「いずみ……エロい」
 同時に左側を手のひらで擦られれば、疼く腰を止められなくなった。何だこれ。女でもねーのに。
「あ……つ……」
 鎖骨までたくしあげられた服がいい加減邪魔くさくなって片手で緩く拘束された両腕を降ろそうとすると、それに気付いた水谷が行為を止めた。脇から手を入れられ、乱暴に頭を抜かれる。
 乱れた髪を整えるように撫でられてから水谷にきつく抱き締められた。無駄な肉の無い水谷の体は硬くて、それなのに触れ合う素肌の心地良さに自然と腕を回してしまう。
「すき」
「お前、さっきからそればっか」
 だって他に言いようがないんだもん、と不貞腐れるように呟いてから、もう黙って、と口付けられた。徐々に気分が盛り上がってきたのか、もうこれ以上開けられないぐらいに口を開かされて舌を絡め合う。
 うまく息が継げない苦しさと垂れてくる唾液の気持ち悪さに髪の毛を掴んで水谷の頭を無理矢理引き剥がすと、乱暴者と不満そうな顔をされた。
「そんなの初めからわかってただろ」
「こういうのはムードが大事なのに」
「悪かったな。お前みたいに慣れてねーんだよ」
「自分だって彼女いたくせにー」
「……健全なオツキアイだったからな」
 そうなの? と目を丸くした水谷が、それならと軽く耳を食んで囁く。
「こういうのは?」
 答えたくなくて黙っていたら、骨の上をなぞるように舌先が動いた。背中までぞくぞくと伝わる痺れと耳の奥に響くくぐもった音に反応して、うんざりするほど甘い吐息が漏れる。
「ふ……あ……ねー……よ」
「ふーん」
 満足そうに微笑んでから、水谷が突然体を起こした。
「今日はここまでー」
「は?」
「お楽しみは取っておく」
「……んだよ、それ」
「だって、泉に飽きられたくないもん」
 オレの額にかかっていた髪を払い、そこに唇を置く。
 上がった熱のやり場に困ったオレが水谷の体を引き寄せると、素直に体重を預けてきた。腿に触れる不自然な感触に思い当たる節があって、さっと撫で上げると小さい呻き声が聞こえる。
「強がってんじゃねーよ」
「もー」
 とにかく今日はダメ! とオレの手を払い除けると、そのまま水谷の指が絡められた。
「我慢するのも大変なんだからねー」
「別にオレはお前と不健全な関係になってもいーんだぜ?」
「……うー」
 オレの肩に額を擦りつけながら、何かと戦っているらしい水谷が恐る恐るといった風に上目遣いで見上げてくる。
「なんだよ」
「……ダメ! 今日は我慢!」
「せっかくの誕生日なのに?」
「だから、オレの誕生日にはリボンつけて家に来て!」
 お前バカじゃねーの? と吐き捨てると、じゃあリボンはいらないから、と論点のずれた懇願をされた。普通セックスの予約を取り付けるか? ムードが大事なんじゃなかったのかよ。こんな恥ずかしい奴、見たことねー。
 心の中でこれでもかと貶しながら、直に感じる体温が名残惜しくてしばらく抱き合ったままキスしたり触れ合ったりしているとふと頭上の目覚まし時計に目をやった水谷がもうこんな時間だ、と呟く。
「帰んな」
「え?」
作品名:無駄な面取り 作家名:ちょこ冷凍