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臆病者の恋

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「お前は、・・・・いや、やっぱ何でもねぇ」
逸らされる視線。けれど、手の力は強いまま。
ふと香るのは、四木の時も嗅いだ煙草の匂い。
けれど静雄のそれが帝人には馴染み、ああこれだと無性に愛おしく想った。
「静雄さん」
優しいひと。
貴方は悩まなくていい。
僕なんかのことで、苦しまなくていい。
貴方は貴方の想うままでいい。
だから、
「僕は、静雄さんのこと、好きです」
「・・・竜ヶ峰」
「好きですから」
(後悔するよ)
囁く声に帝人は瞼を伏せる。
違う、違うよ臨也さん。
僕はきっと後悔はしない。
するとしても、それは僕じゃない。
僕じゃあ、ないんだ。











「勿体無いな」
零れた声に、少女は男を見上げた。
「何か言った?」
「いいえ」
何でも。そう言って、歩くよう促す男を訝しげに見つめながらも、素直に帰路へと向かう。
その少女の背中を見つめながら想うのは、まだあどけない顔に底知れぬ蒼い眸を持つ少年のこと。
(勿体無い)
男はもう一度、今度は心の中で呟くと、くつりと嗤った。
それが、少年に対してか、少年が愛する人間に対してか、――それとも己に対してかなのかは、男にしかわからない。
作品名:臆病者の恋 作家名:いの