GUNSLINGER BOYⅧ
「あの、臨也さん・・顔色悪いですよ。どこか具合が悪いところでも・・・、 っ!?」
「・・・・・」
臨也は帰宅して部屋に入るなり体調の心配をしてきた帝人の襟首を掴んで壁に押し付けた。
担当官には抵抗できないよう条件付けされている帝人はされるがまま、驚いたように目を見開いた。
臨也の鋭い視線に怯えたように唇を動かす。
「あ・・あの・・・」
「なんで言わなかったの」
「?」
「誰か他の奴と話したこと」
「平和島さんのこと・・ですか?」
「へぇ、俺を殺そうとした相手にさん付けするんだ。
君ってさ、いくら条件付けが弱いとはいえ、あんまり俺を守る気ないよね」
「そんなことっ」
「言い訳すんなよ!
さっきだって、本気で静ちゃんのこと殺す気なんてなかったんだろ。顔見知りだったんだもんね。闘った後だって自分が殴った静ちゃんの腹のこと心配してたんだろ。見てれば分かるんだよ。そんなんじゃこれからだって信用ならないよね。嫌だな俺、自分の役目も果たす気が無い義体なんかと組んで仕事しなきゃならないんだから」
「す・・み、ません、でも、ほんと、そんなこと無・・・・っ」
「言い訳すんなって言ってんだよ!」
後で思えば、この時の臨也は完全に頭に血が上っていた。
静雄に会ったことや四木にやりこめられたこと。静雄に帝人をけしかけられたこと。自分の知らない事実を知らされたこと。
誰のせいで気分が悪いと思ってるんだ。
誰のせいでこんな思いしてると・・・・っ
半ば八つ当たりのようなものだった。
つまらないいいがかりをつけて彼を罵倒し気付けば思ってもないことまで口走っていた。
「ほんと、君なんかと組んだのは外れだった。期待はずれってやつ?
今からでも新羅に頼んで新しい義体ができたら替えてもらおっかな」
「っ!?」
「安心してよ。そーなったら君にも新しい担当官が来るだけじゃん。よかったね。俺なんかよりずっと担当官に向いてる人だよきっと。条件付けもバンバンやって強い薬も使いまくって、そうすれば君だって痛い思いも怖い思いも今より更に感じなくて済むようになるよ。もちろん他の何も感じなくなるけど。何年か寿命が縮むだろうし」
「や・・・嫌・・」
「怖がることないだろ。どうせ一回終わってる人生なんだから。今だって条件付けに踊らされて大して自分の頭で思考なんてしてないんだし。新しい担当官がつけば俺のことなんて薬と催眠できれいさっぱり忘れるんだ。何も悪いことは無いだろ?
俺は自分の趣味であんまり条件付けはしたくないけどさ、今のまま義体失格でいるよりは君も幸せなんじゃないの?君たち義体の存在意義は出来るだけ多くその手で社会の敵を殺すことなんだから」
「違・・本当、・・僕・・僕は、」
「違わないだろ殺人人形。今俺の言ったことのどこに間違いがあるのか言ってみろよ。言えないだろ?ま、とりあえず、君にはもう飽きたし公社に戻ったら俺の部屋から寮に移ってもらうからね」
そう言って突き飛ばすように放すと帝人は床に尻もちをつきうつむいたまま固まった。
臨也も一気にまくしたてるように話したため息が切れている。
突き飛ばしてから、勢いで我ながらあまりに酷いことを口走ったことに気がついた。流石に言いすぎた。
急速に冷えていく頭でどうしようかと考え、とりあえず起き上がらせようと手を伸ばすと、帝人の身体が小刻みに震えていることに気がついた。
ぽたり、とフローリングの床に滴が落ちる。
「帝人・・くん?」
伸ばした手がぱしっと弾かれた。
顔を上げた帝人と目が合う。
まるでダムが決壊したように、青い両目からぼろぼろと涙がこぼれだしていた。
今までどんなに痛い目に遭っても冷たい態度をとっても泣いたりしなかったのに。
帝人の泣いている姿など見たことの無い臨也は気が動転してどうすることもできない。
帝人は臨也がもう一度伸ばした手を拒絶するように身を引き、立ちあがるとそのまま身を翻してドアの方へ向って駆け出した。
一瞬呆然とした後に追いかけるが、既に飛び出していった後だった。
そのまま外へ出て追いかけたが、いくら臨也の運動神経が良くても義体の足にかなうはずがない。
空からは変わらず、冷たい雨が降り注いでいた。
作品名:GUNSLINGER BOYⅧ 作家名:net