Thanks for your Birthday!
コートのポケットに両手を突っ込んだ臨也さんが僕の方に向き直り、ふっと小さく笑った。深夜に近づき気温もだいぶ下がって、吐く息が白くなる。そんな中で、
「それでも俺は、君が生まれてきて、こうしてここにいることを嬉しいと思った。初めて、誰かが生まれたことに感謝したいと思えたんだよ」
どうして、こう
人とかけ離れてる、到底理解できないと思わせた後で、こんなでっかい爆弾を落としてくるんだろう、この人は。
僕を見下ろすその表情が、苦しいほど切なくて、愛しくて、泣きたくなるなんて。
僕を祝う気がない?関係ない?どこが! 僕はこんなにも全身全霊で祝われたことなんか、今まで一度だってない。
今日僕は朝からたくさんの人に、誕生日を祝ってもらえた。ものすごく嬉しくて、新鮮だった。でも
生まれてきてよかった。そう思えたのはたぶん、今がはじめて。
「生まれてきて、俺の隣で16歳を迎えてくれてありがとう」
だから「ありがとう」だったのか。臨也さんの言葉はいつも肝心な語句が抜け落ちていて分かりづらい。でも、今だけはそれでいい。
こんな恥ずかしいほど嬉しいこと、僕がわかっていれば、それで。
嬉しさとか恥ずかしさとかくすぐったさとか、そんなものが一気に頭の中でぐるぐる回って、とてもじゃないけど臨也さんの言葉に返せる答えなんて思いつきもしなかったので、僕はそのまま一歩前に出ると、コートの胸にぽすっと頭をあずける。ポケットから出された片手が、軽く頭を撫でてくれた。
これまでさして興味なかった、自分が生まれた日。その意味に改めて気付かされた日。吐く息がより白くなって周りの空気を汚す。腕時計の針が、12時をまわって
僕の特別な一日が、終わった。
作品名:Thanks for your Birthday! 作家名:和泉