二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【臨帝】いとしき歳月【腐向】

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

「本当に大丈夫?」
「はいっ、だいじょぶ、です!」

深夜になり至急の仕事が入ってしまった為、臨也は漆黒のコートをばさりと羽織ると携帯電話をポケットに突っ込み、ふうと嘆息した。

情報を商売とする以上信頼もセットで提供しなければいけないと重々承知しているが、こんな真夜中に商談を持ちかけるなんて。
自分を棚に上げ、商談相手を常識外れだと疎ましく思った。

そろそろ仮眠を取ろうかと思っていた為出掛けるのが億劫だったが相手が指定したバーは同じ新宿にあるし、相手もそれほど時間は取らせないという。
それに上客の粟楠会絡みの客とあっては無碍に断る訳にもいかず、臨也は渋々と言った心情を包みこんで愛想良く快諾することにしたのだが――こんな時間を態々指定してくる物好きな客を観察するのも一興だと、臨也は気を取り直した。

少しばかり出かけるだけだが、それでも。首がもげそうな勢いでじっと臨也を見上げてくるパジャマ姿の幼子を思えば不安でならない。

今までだったら自分以外の誰かを人間観察時以外で気に留めることのなかった臨也だが、訳あって面倒を見ることになった幼子のせいで、自分が変わった。

大きな飴玉のような目をウルウルさせながら食い入るように臨也を見上げ続ける幼子・帝人は現在5歳。
帝人は子供ながらに達観していてしっかりしているが、夜が更けていくにつれ幼い面を見せるようになり臨也に甘えてくる。

夜になると甘えを見せる原因は親元を離れている不安のせいもあるのだろうが、暗闇から出でる人ならざる存在――幽霊の類が恐いのだそうだ。
しかし帝人は、幽霊やゾンビが恐い恐いと、脅えて泣き出す始末なのに。
ホラー映画は好んで見るし、ホラーゲームもやりたがる。
その上帝人は、仕事の上で付き合いがある首なしライダー・セルティが大のお気に入りらしく。
彼女が姿を見せればベッタリで、仕事中面倒を見て貰うケースもしばしばだ。

だからと言って臨也が白いシーツを被って小さな肩をトントンと叩く嫌がらせを仕掛ければ、わんわん泣き出しお絵かきのクレヨンを振り上げてくるのだから、理解に苦しむ。
非日常を恐いと思いながらもそれに憧れ、触れようとする危うい面に将来性を感じた臨也は、帝人に淡い期待を抱き面倒を見ていた。この子はいずれ、自分を楽しませる存在になると。

しかし臨也にとっての帝人は、人間ゲームの有力な駒候補なだけでは、なかった。
初めこそ素直でない帝人を可愛くないと思ったが、時間が過ぎ行く中で徐々に甘えを見せるようになった帝人を可愛いと思うようになり、今となっては目の中に入れても痛くないと豪語できるほど猫かわいがりをしている、宝物だった。

臨也は悪友の新羅や秘書である波江からその溺愛っぷりを揶揄されるほど、帝人をべったべたに甘やかした。臨也の人となりを知る人間から見たら、気でも狂ったのかと思える程帝人を甘やかす光景に、秘書の波江は苦言を漏らす。

「貴方に本当の子供が出来たら、どうなるのかしら。もっと子煩悩になって気持ち悪くなるんでしょうね」などと告げられたが自分の遺伝子を受け継いだ存在なんて、愛せるはずがないと思う。こんな下種な人間を生み出すことを思えば、吐き気さえする。
帝人を可愛く思う理由は、きっと。ただ無心に自分へ甘えてくるからなのだと思う。

臨也が持つ端麗な容姿に惹かれるわけでもなく、情報屋稼業で得た資財を狙うわけでもなく。
損得無しに自分へ寄添ってくる人間なんて、親以外では帝人が初めての存在だった。

物事の価値を見極められない子供でも小動物でも、臨也が内包する人間性に気付き警戒し距離を取るのが常だった。
目的を果たすためならどんなに残忍な真似をしたって平然としていられる自らの非道な面は、にこやかに笑んでみせた所で隠しきれないらしい。
だから臨也は、子供や小動物を好んで相手にしなかった。
子供といえど愛すべき対象の人間だと思うが、しかし彼らの曇りない眼差しは臨也の心をささくれ立たせた。
澄んだ眸で射抜くような視線を送られれば、自らの非道さを咎められているようで良い気分がしなかった。

しかし何故か帝人は、褒められた人間性ではない、ひねくれた臨也がいいのだと甘えてくる。そんな帝人だから、彼を可愛いと思うのだろう。
いじめられる度に涙を一杯にためて反撃をし気が済んでから、拗ねたように視線を逸らしつつコートの裾を掴み寄り添ってくる。そうして甘える帝人が、可愛くて仕方がなくなっていた。

人一倍寂しがり屋で恐がりの帝人をこんな夜更けに置いていくなんて、初めての事だ。
今まで深夜の仕事が入った際はセルティに連絡を取り預かって貰うなどして、一人にする事態を回避していた。唐突に入った仕事だから仕方ないと思うが、一人にすることがどうしても躊躇われる。
しかし幼いながら聡い帝人は、臨也を困らせるような真似などしない。

「ぼく、だいじょぶですから…いざやさん、おしごとがんばってください!」

枕をぎゅっと抱く腕がかすかに、震えている。
顔中に「こわい」と書いてあるような泣き出す一歩手前の眼差しで、臨也を見上げ虚勢を張る帝人に愛しさが込み上げる。
しかし約束の時間が刻一刻と迫っていたため、臨也は帝人をベッドルームまでつれて行き、布団に寝かしつける事にした。

「おみおくり…」
「いいから。もう寝な。待ってなくていいから。電気もつけておくからね」

臨也は不安に脅える帝人を安心させてやろうと、優しげな手つきで小さな頭をゆっくりと撫でる。
小猫が頭を撫でられ甘えるように頭を擦りつけた帝人は、臨也の指先が招く心地よさにうっとりと目を閉じ、すうと小さな寝息を立てた。

「すぐ、帰るからね」

羽を休め眠る天使の様な愛らしい帝人の寝顔に、臨也は安らぎを感じ怜悧な美貌をふっ、とやわらげた。
そして商談相手の情報を探るべくスマートフォンを片手にしながら寝室を出て階段を下り、事務所フロアの戸締りをして室内照明を落としドアをロックする。

マンションのエントランスを抜ければ、冬の凛然とした夜気が臨也の頬を冷たく撫でてゆく。
凍りつくように底冷えするしんとした深夜の街に、自らが鳴らすブーツの靴音が反響する。
一人分の靴音が妙に寂しく感じられ、思い返すのは帝人の事ばかりで。
人間という存在全てを愛すと言う主張を貫こうにも、これでは矛盾していると苦笑を漏らす。
随分と自分は――あの幼子に、心を持っていかれたものだと。

観念にも似た感情を抱えつつ臨也は、ネオン煌めく歓楽街へ足を向けたのだった。

***

「参ったな。こんなに遅くなるなんて…」

臨也はコートのポケットからスマートフォンを取り出し時刻を確認した後、チッと舌打ちを吐いた。

顔を見てから依頼をしたいなどというくだらない理由の為に呼び出されただけでも腹立たしかったのに、依頼主の中年男性は酒癖が悪く。
バーで数杯の酒を飲み上機嫌になって、くだらない世間話を一方的に続けていた。
帰る素振りを見せれば即座に機嫌を悪くするものだから、始末に悪い。
臨也に出来る事はひたすら酒を勧めまくって酔い潰しタクシーにぶち込むことだけだった。