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愛より恋よりこの胸を締め付けるもの

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「俺は、こんなんでも、静雄さんのこと、好きでいていいんですか。面倒じゃないですか。疲れませんか」
「面倒でもないし、疲れもしない」
 それ以上は言葉にするのが恥ずかしくて、代わりに紀田の細っこい身体を両腕で優しく包み込んだ。
「そこまで追い込んで、悪かった」
「なに言って、謝るのは、俺の方…」
 腕のなかにいるのは、俺が好きだと言って泣いているただの子どもだった。

 ベッドに身体を並べてからも話し続けていたが、しばらくすると紀田は話し疲れたのか、ことん、と音がしたように眠りについてしまった。俺もつられるようにいつのまにか眠りに落ちた。


 どうしてこんな簡単なことが今までできなかったんだろう。向き合うということが、永久にできないような気がしていた。それはいともたやすく、キスでもセックスでもなく、いくつかの言葉を紡ぎ合うという行為で、俺たちの距離はぐんと短くなった。きっかけは紀田が作ってくれた。途切れそうになったものを紀田が繋ぎ止めて、堅く結んでくれた。今回のことがなければ、俺はずっとだらしないままだっただろう。
 夢のなかに出てきた紀田の顔はとても楽しそうに笑っていて、隣にじんわり染みる体温を頭のどこかで感じながら、俺は言いようのない幸福感で満たされていた。
 互いに穴があるなら、互いに埋めていけるようになれればと、俺は願っていた。今の俺と紀田にとって、それがなにより幸せなことのように思うのだ。