春の目覚め ・2
どう動くか。
自分の銃はフランスと取り合ってる状態で、後ろに銃を構えたアメリカがいる。
シャイセッと口の中で呟くが、焦りの感情は表から消していく。代わりに道化じみたへらへらとした笑いを浮かべた。
「あーあ、だっせぇな。俺様ともあろうものが」
「降伏、したらどうだい?」
勝利を確信した不敵な笑みのまま、しかし、アメリカは固い声でそう言う。
「君たちの被害状況を見させてもらってるよ。この一年では、俺たちにやられた数よりも、君んとこの上司の命令で粛正された数の方が多くないかい?」
「……」
「こんな状態で戦い続けるのって、ナンセンスだと思うけどなぁ」
「――……、」
アメリカの言葉を最後まで聞くことなく、プロイセンはフランスに膝蹴りをお見舞いして沈めたかと思えば、そのまま後方のアメリカに向かって回し蹴りを放つ。しかし、アメリカはそれを容易く片腕で受け止めてしまった。
やはり、力はドイツと同等かそれ以上か。
足を捕まれるなどのヘマをする前に足は素早く引き戻す。
「ちょ…なんでいつもお兄さんばかり酷い目に合ってるの…」
足下からフランスが恨めしそうに訴えれば、即座に「お前が弱いからだろ」とイギリスが切り捨てた。
「容赦ねぇな、お前ら」
フランスから取り戻した拳銃を確認しながら、プロイセンはわざと面白がるような口調で呟く。イギリスが無言で眉根を寄せて睨んできた。アメリカはプロイセンから照準を外さないまま、しかし、引き金からは指を離している。
そんな彼らに対して、やはりプロイセンは感情を読ませる事なくヘラヘラと笑って見せるだけだった。
「何でお前らがムキになってんだよ?」
「てめぇ、いい加減にしろよ。明らかにおかしいだろ、今の戦況はよ!?」
「大英帝国様に心配される覚えは無ぇって言ってんだろ」
「そんなに滅びたいのか、てめぇは」
「だぁからぁ、お前に心配される覚えは無いってぇの」
「何が、心配される覚えはないだぁ!? 開戦前、てめぇんとこの上司の動きを封じようと俺らに接触を図って、戦争回避に走り回ってたのは、誰だよ!?」
「覚えてねぇ。忘れた」
「っざけんなよ、てめぇ…!」
「プーちゃん、何をそんなに殺気立ってるのかな? 何を焦ってんの?」
プロイセンに殴りかかろうするイギリスを止めながら、フランスが穏やかな口調のまま、声音だけを凄ませてそう言う。
「だぁから、てめぇらに教えてやる謂われはねぇんだよ」
「本当、そろそろいい加減に態度を改めないと、お兄さんもブチギレそうよ?」
言い方は穏やかだが、目が全く笑っていない。そんなフランスを眺めながらプロイセンはこの状況からの抜け道を探ろうと必死に思考を巡らす。
今この場で戦闘に入るつもりないという態度。しかし、ドイツと会うまではプロイセンを離してくれるつもりもなさそうだ。
どう考えても終局を迎えているのだろうこの戦い。これ以上やり合うのは避けたいとでもいうようなイギリスの言動。
何を焦っているのだろうか、この男は。
先ほどから先走りたがるアメリカを制する役回りばかりを引き受けているなと思い当たる。
アメリカの何を押さえたいというのか…。
「…ま、さか…」
引き攣った声が澪れ落ちる。
思い当たる事と言えば、それしかない。
もう、すでに、アメリカは完成させたということか、あれを。
ドイツがこの国の上司たちが造ることに執着し続けてきた、あの兵器を。
あの上司の人種迫害政策のおかげで、有能なドイツ人科学者たちはアメリカへと大量に亡命を果たしている。
技術の、知識の流出は分かりきっていたことだったのに、そんな事には頓着せずに、ひたすら人種選別に躍起になっていた上司たち。
ドイツよりも先に完成させなければ、と連合側も必死に開発を急いでいることは分かっていた。
あれを、アメリカはすでに完成させてしまったということなのか。
イギリスの妙な焦りは、使用を回避させたいからなのか、どうなのだろうか。イギリスはどういうつもりでいるのか。
そして、アメリカは、どの段階であれを使いたがっているのか。
この状況下で、あれを使われれば、完全にドイツは死滅する。
初めにあれの開発を考えたのは、この国、ドイツだ。想定される威力も把握済みなのだ。
ちくしょう、どうする!? どうすればいい?
そもそも、ドイツは、ヴェストはどこにいる!?
焦りだけが渦巻いていく。
「くそっ…。ちくしょう!」
この状況下の打開策が、全く見えない。
「あーもう。年寄りは回りくどいから嫌なんだぞ。プロイセン、手っとり早くタイマン勝負しないかい?」
いきなりアメリカがそんな発言をした。
一瞬、タイマンの意味を国力でか、ここにいる人としてのアメリカとプロイセンとの勝負ということなのかを計りかねて、プロイセンは即座に言葉が出て来なかった。
「誰が年寄りだ! お前は黙ってろ!」
「年寄りじゃないからね! こんな眉毛と一緒にしないでくれる!?」
「年寄りはお前だろ、このクソヒゲ!」
しかし、またもイギリスとフランスの口喧嘩なやり取りで場の空気がすり替えられた。
どこまでを本気でやっているのか、見定めるのも難しい。
つまんないんだぞ、とアメリカが構えていた銃をクルクルと回し、そのまま腰のホルスターに仕舞ってみせる。
「上手いな、お前」
せっかくイギリスがすり替えてくれた空気に乗っかって、プロイセンもわざとどうでもいいことに感心してみせた。
アメリカは素直に誇らし気に笑う。
「当たり前だよ。ヒーローはこれくらい出来ないと格好つかないじゃないか」
まだ素直で、若い。だからこそ、加減を知らない怖さもある。それをイギリスは懸念しているだけなのか。
あのイギリスに限って、ドイツやプロイセンの為に走り回ってるなどとは有り得ないだろう。
今すぐに戦闘開始ということにはならない、ということだけは判断出来るとし、プロイセンは静かに視線をイギリスたちから外す。空を見つめ、ふぅっと大きく息を吐いた。
ドイツを探し出す以外に、動きの取りようがないらしい。しかし、どうやって探せばいいというのか。
頼むから、無事でいろよヴェスト…。
そう胸の内で呟き、ゆっくりと斜め前方に視線を向けた時、プロイセンは全身の血の気がざぁっと引くのを感じた。一瞬だが、足が強ばって動かないかと思うほどに。
イタリアが、必死にこちらに向けて銃を構えていた。明らかに銃を持つ手が震えている。苦手なイギリスがいるせいだろうか。
「プロイセンまで、やらせない!」
「なっ…!? イタリアちゃん! バカ、やめろ!」
プロイセンと僅かの差で感付いたイギリスが、素早い動きで銃を構えた。イタリアに照準を合わせ、引き金に指を掛ける。
完全に考えるよりも先にプロイセンの体は動いていた。左足を大きく蹴り上げてイギリスの手の中にあった拳銃を弾き飛ばし、アメリカの襟首を掴んで引き倒しながら体を沈め、そのままフランスへと足払いを掛ける。引き倒されたアメリカとバランスを崩したフランスがイギリスの上へと倒れ込んでいた。
「うっわぁ!?」
「ひぎぇあ!?」
「ぎゃ!」
自分の銃はフランスと取り合ってる状態で、後ろに銃を構えたアメリカがいる。
シャイセッと口の中で呟くが、焦りの感情は表から消していく。代わりに道化じみたへらへらとした笑いを浮かべた。
「あーあ、だっせぇな。俺様ともあろうものが」
「降伏、したらどうだい?」
勝利を確信した不敵な笑みのまま、しかし、アメリカは固い声でそう言う。
「君たちの被害状況を見させてもらってるよ。この一年では、俺たちにやられた数よりも、君んとこの上司の命令で粛正された数の方が多くないかい?」
「……」
「こんな状態で戦い続けるのって、ナンセンスだと思うけどなぁ」
「――……、」
アメリカの言葉を最後まで聞くことなく、プロイセンはフランスに膝蹴りをお見舞いして沈めたかと思えば、そのまま後方のアメリカに向かって回し蹴りを放つ。しかし、アメリカはそれを容易く片腕で受け止めてしまった。
やはり、力はドイツと同等かそれ以上か。
足を捕まれるなどのヘマをする前に足は素早く引き戻す。
「ちょ…なんでいつもお兄さんばかり酷い目に合ってるの…」
足下からフランスが恨めしそうに訴えれば、即座に「お前が弱いからだろ」とイギリスが切り捨てた。
「容赦ねぇな、お前ら」
フランスから取り戻した拳銃を確認しながら、プロイセンはわざと面白がるような口調で呟く。イギリスが無言で眉根を寄せて睨んできた。アメリカはプロイセンから照準を外さないまま、しかし、引き金からは指を離している。
そんな彼らに対して、やはりプロイセンは感情を読ませる事なくヘラヘラと笑って見せるだけだった。
「何でお前らがムキになってんだよ?」
「てめぇ、いい加減にしろよ。明らかにおかしいだろ、今の戦況はよ!?」
「大英帝国様に心配される覚えは無ぇって言ってんだろ」
「そんなに滅びたいのか、てめぇは」
「だぁからぁ、お前に心配される覚えは無いってぇの」
「何が、心配される覚えはないだぁ!? 開戦前、てめぇんとこの上司の動きを封じようと俺らに接触を図って、戦争回避に走り回ってたのは、誰だよ!?」
「覚えてねぇ。忘れた」
「っざけんなよ、てめぇ…!」
「プーちゃん、何をそんなに殺気立ってるのかな? 何を焦ってんの?」
プロイセンに殴りかかろうするイギリスを止めながら、フランスが穏やかな口調のまま、声音だけを凄ませてそう言う。
「だぁから、てめぇらに教えてやる謂われはねぇんだよ」
「本当、そろそろいい加減に態度を改めないと、お兄さんもブチギレそうよ?」
言い方は穏やかだが、目が全く笑っていない。そんなフランスを眺めながらプロイセンはこの状況からの抜け道を探ろうと必死に思考を巡らす。
今この場で戦闘に入るつもりないという態度。しかし、ドイツと会うまではプロイセンを離してくれるつもりもなさそうだ。
どう考えても終局を迎えているのだろうこの戦い。これ以上やり合うのは避けたいとでもいうようなイギリスの言動。
何を焦っているのだろうか、この男は。
先ほどから先走りたがるアメリカを制する役回りばかりを引き受けているなと思い当たる。
アメリカの何を押さえたいというのか…。
「…ま、さか…」
引き攣った声が澪れ落ちる。
思い当たる事と言えば、それしかない。
もう、すでに、アメリカは完成させたということか、あれを。
ドイツがこの国の上司たちが造ることに執着し続けてきた、あの兵器を。
あの上司の人種迫害政策のおかげで、有能なドイツ人科学者たちはアメリカへと大量に亡命を果たしている。
技術の、知識の流出は分かりきっていたことだったのに、そんな事には頓着せずに、ひたすら人種選別に躍起になっていた上司たち。
ドイツよりも先に完成させなければ、と連合側も必死に開発を急いでいることは分かっていた。
あれを、アメリカはすでに完成させてしまったということなのか。
イギリスの妙な焦りは、使用を回避させたいからなのか、どうなのだろうか。イギリスはどういうつもりでいるのか。
そして、アメリカは、どの段階であれを使いたがっているのか。
この状況下で、あれを使われれば、完全にドイツは死滅する。
初めにあれの開発を考えたのは、この国、ドイツだ。想定される威力も把握済みなのだ。
ちくしょう、どうする!? どうすればいい?
そもそも、ドイツは、ヴェストはどこにいる!?
焦りだけが渦巻いていく。
「くそっ…。ちくしょう!」
この状況下の打開策が、全く見えない。
「あーもう。年寄りは回りくどいから嫌なんだぞ。プロイセン、手っとり早くタイマン勝負しないかい?」
いきなりアメリカがそんな発言をした。
一瞬、タイマンの意味を国力でか、ここにいる人としてのアメリカとプロイセンとの勝負ということなのかを計りかねて、プロイセンは即座に言葉が出て来なかった。
「誰が年寄りだ! お前は黙ってろ!」
「年寄りじゃないからね! こんな眉毛と一緒にしないでくれる!?」
「年寄りはお前だろ、このクソヒゲ!」
しかし、またもイギリスとフランスの口喧嘩なやり取りで場の空気がすり替えられた。
どこまでを本気でやっているのか、見定めるのも難しい。
つまんないんだぞ、とアメリカが構えていた銃をクルクルと回し、そのまま腰のホルスターに仕舞ってみせる。
「上手いな、お前」
せっかくイギリスがすり替えてくれた空気に乗っかって、プロイセンもわざとどうでもいいことに感心してみせた。
アメリカは素直に誇らし気に笑う。
「当たり前だよ。ヒーローはこれくらい出来ないと格好つかないじゃないか」
まだ素直で、若い。だからこそ、加減を知らない怖さもある。それをイギリスは懸念しているだけなのか。
あのイギリスに限って、ドイツやプロイセンの為に走り回ってるなどとは有り得ないだろう。
今すぐに戦闘開始ということにはならない、ということだけは判断出来るとし、プロイセンは静かに視線をイギリスたちから外す。空を見つめ、ふぅっと大きく息を吐いた。
ドイツを探し出す以外に、動きの取りようがないらしい。しかし、どうやって探せばいいというのか。
頼むから、無事でいろよヴェスト…。
そう胸の内で呟き、ゆっくりと斜め前方に視線を向けた時、プロイセンは全身の血の気がざぁっと引くのを感じた。一瞬だが、足が強ばって動かないかと思うほどに。
イタリアが、必死にこちらに向けて銃を構えていた。明らかに銃を持つ手が震えている。苦手なイギリスがいるせいだろうか。
「プロイセンまで、やらせない!」
「なっ…!? イタリアちゃん! バカ、やめろ!」
プロイセンと僅かの差で感付いたイギリスが、素早い動きで銃を構えた。イタリアに照準を合わせ、引き金に指を掛ける。
完全に考えるよりも先にプロイセンの体は動いていた。左足を大きく蹴り上げてイギリスの手の中にあった拳銃を弾き飛ばし、アメリカの襟首を掴んで引き倒しながら体を沈め、そのままフランスへと足払いを掛ける。引き倒されたアメリカとバランスを崩したフランスがイギリスの上へと倒れ込んでいた。
「うっわぁ!?」
「ひぎぇあ!?」
「ぎゃ!」