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間違えてしまった。

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その日の北風はまだ11月だというのに真冬のように寒くて、俺は黒いコートに顔を埋める様に肩を上げて歩いていた。
両手は薄手の黒の手袋をして、コートのポケットに手を突っ込んで、出来る限り肌の露出を避ける。
それでも僅かに出た顔や、コートの隙間から冷たい風が入り込んで俺は身震いした。

『寒い日は生姜湯が良いんですよ。』
耳元で優しい声がする。
『身体の中から温まりますから。』
その声は穏やかに続けた。

俺はその言葉になんて返したんだっけ。
思い出すことに集中したら、少しは寒さも忘れられるんじゃないかと、俺は意識を集中させた。



「ふぅん。」
「…臨也さんてば、話聞いてないでしょ。」
パソコンに向けてた視線を帝人くんに向けると、じとっとした目で見られていた。
「聞いてる聞いてる。」
適当に返事を返して、俺はぐっと背筋を伸ばした。
パキパキッと背中の骨が音を立てる。
帝人くんは小さくため息を吐いた。

「俺、生姜ってあんまり好きじゃないんだよねぇ。」
俺がちゃんと返事すると、帝人くんは俯いてた顔をあげる。
そして首を傾げた。
「辛い物嫌いでしたっけ?」
「いや?」
「じゃぁ、どうしてですか?」
「香りが、さ。」
帝人くんはふむ、と、少し考えてから
「じゃぁ、香りが余りしなければ大丈夫ですか?」
と、言った。

「たぶんね。」
俺はまた適当に答えてパソコンに向かった。



公園を通ると、強い木枯らしのせいで枯葉が舞っていた。
歩くと地面に落ちたそれがクシャ、クシャと、音を立てる。
裸になった木と、色取り取りな遊具、誰も居ない静かな公園は、ミスマッチしていてどうにも寂しくなる。

ただでさえ、寂しくて仕方無いのに。

その後帝人くんが用意してくれたのはミルクティーだった。
もちろん生姜入りの。
ほんの少しいつもと違う香りは確かにあったけれど、気になるほどのものじゃない。
俺は礼を言って飲んだ。その時の帝人くんが嬉しそうにしていた顔は今もはっきりと思い出せる。
だから少し後悔した、もっとちゃんと、有り難がればよかった、と。

『風邪、引かないで下さいね。』
また、声がした。
『また遅くまで起きてるんでしょう?』
俺より年下のくせに、まるで母親のようだ。
否、俺の母親よりもよっぽど慈しんでくれたけど。

人間ってのは愚かだから今、此処にある幸せには気が付けない。



「臨也さん、今日はちゃんとベッドで寝て下さいよ。」
「…ああ、誘ってるんだ?」
ニヤリと笑ってそう言うと、一気に帝人くんの顔が赤くなる。
「ちっ、違っ…。」
わかってる。心配してくれてありがとね。
なんて、心で思って口にも出さないで。
「まぁ帝人くんがそんなに熱心に俺を欲しがってくれるなら、今日は頑張っちゃうよ。」
「い、臨也さんっ。」
帝人くんの手を握って引き寄せる。
帝人くんの手はとても暖かかった。

だけど、その後繋がった唇はもっと熱かった。

作品名:間違えてしまった。 作家名:阿古屋珠