二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

あなたがさいきょう

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 



平和島静雄は悩んでいた。
端から見れば「なんだそれ」と失笑するような悩みかもしれないが、それでも静雄にとっては深刻な悩みだった。
大事な大事な、家族以外で初めて心から大切にしたいと思った存在を、いつか傷つけてしまうかもしれないという苦悩。
どうすればいいのかわからない。わからないが、どうにかしなければならない。
人間追い詰められると、本人以外は思わず首を傾げてしまうような行動を取る事がある。この時の静雄がこれだった。彼は、相談相手に新羅を選んでしまったのだ。
「『相談がある』って事はなにかしらそこに至る要因があるんだよ。本気で解決したいと思うんなら、具体的な内容を言って貰わないとどうしようも無いんだよね」
「言いたくねぇ」
「君が僕を信用してないのはそれはもう嫌という程知ってるけど、幾らなんでもただ付き合いが長いってだけじゃあ深心配慮に長ける僕でもわからないって事はわかって貰えるかな? セルティならもっと君の感情の機微を読み取って何かしらアドバイス出来たかもしれないけど、あいにく今は外出中でね。そうそう聞いてくれよ、セルティったら昨日さ、」
「聞きたくねぇ」
「自分の話は言いたくないし、僕の話も聞きたくないんだね。まったく君って奴は本当に冷たいよね。それに比べてセルティの優しさはまるで女神、いや妖精だからその表現は正しくないんだけど、まさに完璧な存在だよ! 今日だって、」
「うぜぇな…」
「――どうせ帝人くん絡みなんでしょ? 更に洞察を深めるなら、具体的内容を言えないとなると必然的にそっち方面の話だよね」
「……」
「あ、図星?」
間違ってはいない。寧ろ正しい。
が、やっぱり人選を誤ったと思い静雄は否定も肯定もしなかった。今この態度を見ても、どうやら掻き回すだけで終わりそうな感じがひしとする。
最初からトムに相談すべきだったと、静雄は溜め息を吐いた。相談してどうなるものでもないのだが、少なくともよけいなストレスは溜めずに済む。
「え、ちょっ、帰るの? せっかく来たんだからもう少し詳しい所を赤裸々に寧ろ根掘り葉掘り聞きたいたたたたごめんなさいもげるもげる首もげる首!」
ギブギブと押さえる首を放してやって、静雄はソファから立ち上がった。酷いなもう、と詰る声を無視してドアに手を掛けると、ノブを握るより先に扉がすっと後ろに開く。
「え? …静雄さん?」
『なんだ、来てたのか』
「また怪我したんですか…?」
心配そうな声を漏らした帝人が、痛そうに顔を歪めた。手当てだけで着替える間のなかったシャツが、白い包帯の隙間から真っ赤な色を覗かせている。
もとはと言えば、仕事中相手が苦し紛れに振り回したハサミが二の腕に刺さった、ただそれだけだった。
普通の人間なら大騒ぎになる傷も、静雄にとっては些細な怪我だ。刺さったハサミを抜いて血留めさえしておけば数時間で傷口は塞がって、だからいちいち新羅の所に来るほどの怪我でも無かったのだ。行って来いと言ったのは会社の先輩だが、多分恋人のことがなければこの程度の怪我では来なかったはずだ。
新羅に相談してみようなどと思った1時間前の自分を、叶うものなら思い切り殴り飛ばしてやりたかった。彼に相談して解決する問題などほぼ皆無だと、なぜあの時に気付かなかったのか。
「…出来るだけ、無茶はしないでくださいね」
帝人はいつも、喧嘩をするな、とも、怪我をするな、とも言わない。押し付けではなくただ心配してくれている、その気持ちが静雄には嬉しい。嬉しくて、愛おしくて、…だから大事にしたいのに。
「ああ、わかってる。今日のも別に大した傷じゃねぇんだ。トムさんが、」
「手当は口実で相談に来たんだってさ。静雄が、なんと、この僕に!」
『「ええっ!?」』
止める間もなく新羅が呟いて、意味あり気に笑うその顔を静雄は殴ってやりたいと思った。実行に移さなかったのは、ドアの前にいた静雄の手が単に新羅に届かなかっただけだ。
が言葉の効果は絶大で、驚きを顔に張り付けたまま帝人はセルティに促されてソファに腰を落ち着けてしまった。
となると、静雄も帰る訳にはいかない。ここで彼を残して帰ったりすれば、新羅になにを吹き込まれるかわかったものじゃないからだ。
ソファにちょこんと収まった帝人が、向かいの新羅と隣の静雄を不安そうに見上げる。その気持ちを代弁するかのように、セルティが被ったままのヘルメットを45度ほど傾けた。
『静雄が新羅に相談だなんて…、なにか殴り込みの予定でもあるのか?』
セルティが打ち込んだ文字に、帝人が同意を示すようこくこくと首を縦に振る。
なにぶん気の短い静雄の事だから、仕事の関係で怪我をした事など帝人が知るだけで既に片手を越える。が、わざわざ事前に医者を確保しておく必要があるとなると、対象は非常に限られてくる。
「それって新宿在住のあの人ですか。それとも人ラブを訴えるストーカーとか? 後は、某チャットのネカマくらいしか思いつかないんですけど…」
「ていうかそれ全部同一人物だよね、帝人くん」
新羅のツッコミに対して、帝人は困惑を貼り付けたまま首をそっと傾げる。
「人物っていうか、ムシですけど」
「うん、まあ君のそういう面って僕は嫌いじゃないんだけどね。ないけど時々静雄が哀れに思―――ったりする必要無いよねうん全部気の所為ですごめんなさいちょっマジ怖いから止めて帝人くん怖い怖い!」
「なんの事ですか?」
『「……?」』
静雄やセルティの見る限り、帝人はにこにこと人懐っこい笑みを浮かべている。新羅が焦る理由がわからず顔を見合わせていると、つまりね、と話が反らされた。
「静雄は、帝人くんがつらそうだから性衝動を抑えたいんだって」
「おまっ、新羅!」
「……、え?」
大変だね、と笑顔で言われて、きょとんと目を丸くしたあと帝人の顔が真っ赤に染まる。首まで赤くして上目遣いに静雄を睨む姿は年相応に可愛らしいが、睨まれた本人はブンブンと首を振った。
「俺はお前が心配で、」
「だからって、新羅さんに言う事ないじゃないですか! というか一体何を言ったんですか!!」
「いや、言ってねぇ! ホントに何も言ってねぇ!!」
「3回いったら気絶したとか我慢させたら泣き出したとか、まあそんな類の事は、」
「静雄さん!?」
「ひとっ言も言ってねぇだろ、テメェ!!」
「―――聞いてないから安心してね、って言おうと思ったんだけど」
「……ッ」
カマを掛けられた、もしくは当てずっぽうにハマったのだと気付いて、帝人がソファに沈み込む。静雄の位置からでは黒い頭しか見えないが、多分これ以上もないくらい真っ赤になってるのだろう。
「み、帝人……」
「静雄さん」
「―――お、おうっ」




作品名:あなたがさいきょう 作家名:坊。