コップに喩えると?
ロックオンをか?
……んぅ、そうだな……。
あんま良い言い方ができないんだが、鉄の器のようだと思うぞ。頑丈で冷静だろ。そのくせ熱伝導がいいから、すぐ熱くなる。まあ、若いしな。本質が変わっちまうことはないから心配要らねぇし。
けど、鉄のコップは使ってると錆びるんだよな。錆びは、治んねぇんだ。そこからじわじわ侵食しつづけて、何の予想もなしに穴が空いちまうことがある。
あいつもどっかが錆びてて、いきなり壊れちまいそうで、たまにヒヤヒヤする。
え、ラッセ?
ラッセは……、……湯呑み、かしら……。
大きくて落ち着いた色合いの……ち、違うわ! お爺さんなんかじゃなくて!
……ラッセって落ち着いてて、なんだか安心するの。マイスターとは違う意味ですごく重要な位置にいるのに揺るがなくて、でも頑固っていうわけじゃなくて。頼りになるし、ラッセが一番みんなを見ているような気がするから。
だからね、近くにいると気分が落ち着くの。温かくて、ほっとするの。
コップかー。そうねー、フェルトはマグカップじゃないかな?
私はカラフルなのが好きなんだけど、フェルトなら白黒のドット柄とか、黒猫の絵柄とか。シンプルだけど可愛い感じで、あと、ちょっと大きいやつ。
えー、だって、可愛いじゃない! 今度買いに行こうかな♪
……本当はね、もちろんそれもあるんだけど、幼い子がパパ達のマグを使ってるイメージなのよね……。大人ぶってるとかじゃなくて、無理にでも背伸びしなきゃいけなかったんだって感じ。
いじらしくって、愛しいのよ。
クリスは、そうだなー、ティーカップかな。
花柄で、ピンクとか黄色とかの女の子って感じの綺麗な奴。おんなじ柄の受け皿もあってさ。ああ、それとっ、こう、左右に取っ手がある奴だと思うよ。
そうそう、稀にあるじゃん、両手で持つタイプの。……スープカップじゃないんだって。あるんだよ?
うん、まあ珍しいから選んだのもあるけど、そうじゃなくって、……なんかさぁ、あれって片手だと不恰好じゃん。で、両手で持ってるのって、優しく見えるじゃん。大切なんだって感じがして、なんか、あったかくなるんだよ。
そうだな、喩えるなら、リヒティは縁の浅いカクテルグラスだと私は思うよ。
いや、似合う似合わないではなくて……。どう言えばいいかな……。
何も入っていないカクテルグラスはな、面白味もないし寧ろ地味だ。守秘義務があるから詳しくは言えないが、リヒティは自分をそんな存在だと思っている節があるんだ。彼の場合は中がないのではなく、外を繕っているんだが。
わからないだろうな。まあ、平たく言えば、自分をわかっているが故に苦しんでいるんだ。信じられる中身、自信が欲しいんだよ。
一つでも中身を得たカクテルグラスは綺麗だぞ。彼だって今は空だが、きっかけさえあれば変わるだろうさ。
モレノは切り子だな。ウィスキーと氷を入れて飲むような、ちょっと大きめの切り子のグラスだと思うぜ。
はははっ、医者ってのは人間相手だからな、人の言いたくないような事までわかっちまうんだと。特に酒飲んで、酔っ払ったときが一番口が開くんだとよ。で、それを聞いている振りしていれば勝手に治ってくれるそうだ。
切り子の模様ってよ、そんな吐露を引き出すために出来ているんだって気がしちまうだろ? だからすぐ酔うのに、あいつは酒豪のフリして飲もうとするんだよ。氷と酒精に隠して、あいつは医者やってんのさ。
お猪口、かしらね。
……ちょっと、そんなに変かしら。私にしてみれば、イアンは猪口のイメージが強いのだけれど。
……あら、ひどいわね。……だって、考えてもみて。温厚でいつも笑っていて、機械関係でとても頼りになって、些細な、ホントに些細なことですぐに喜んでくれる。ほろ酔いで幸福そうな目をされたときなんか、なんだか理想の父親みたいじゃないの。
お猪口って酔うための物じゃないの。会話をするか、そうじゃなかったら会話を聞くか、それが第一なのよ。
飲むのが第一の若い人じゃ、こうはなれないわ。もちろん、私を含めてね。
スメラギさんですか?
ええっと、その、曇りグラスかな……?
あ、その……、飄々としてるイメージがあるから。酔いながら戦術考えたりしてて、本当は酔ってないんじゃないのかって思うんだけど、やっぱり酔ってて。何でも適当にしてて、でもいつも自分の中には踏み込むなって顔をしてる。そこを聞かれたくないんだなって思うから僕は聞かないけど、みんなが聞いても、いろいろと湾曲したことを返されて結局よく分からなくなっちゃうから。
水を注がれて曇りが取れるじゃない。そうしたら見えるのにまた見えないくなって、なんか悔しいなって、そんな感じ。あはは……何言ってるかわかんないよね……。
アレルヤ・ハプティズムを喩えるなら、無地のマグカップだ。
マグカップというのは相応しくないかもしれないな。無地、または素焼きの陶器だ。皹の入ったものかもしれない。
お互いを嫌っておきながら、何だかんだといって、彼らはお互いへの依存が強い。だからお互いの気性に耐えられるよう簡単に壊れてしまわないものがいいが、完全なものでは落ち着かない。自分たちが完全ではないからだ。そして中途半端なものを持つことで自分を補おうとする。
そのため、選ばれるものは形のバリエーションがあり、尚且つ好かれないようなものなのだ。ガラス細工の精巧さは受け入れられず、模様の相違が出たらと思えば、色をつけるのも怖いのだろう。彼らは本当の意味で分かり合っていないのだから。
俺の判ずるところでは、彼らは無地のマグカップだ。
ティエリアは、シャンパングラスみたい。
細長の、フルートシャンパングラス。
イノベーダーでありながら、私たちと対立して、イオリアの計画に抵抗しようとする様子は、投げ捨てられようとしているガラスに思える。美しい容姿はその分脆くある。色を混ぜたガラスは総じてその不純により歪で、細く薄い形のために壊れやすい。
なのに彼の周りには彼を気に入り守るかのように他のコップや物が乱立する。細く、薄く、お互いにぶつかるか、さもなくば倒れれば砕け散るというのに、倒れない。
……迷惑なこと。私はそれが羨ましいとも思っているのだから、なんて目障りなこと。
アニューは騙しグラスだろうな。
知らないのか? プラスチックのコップに細工がしてあってよ、二重になっていて、二枚の間に水が入ってんだ。……そうさ、普通のコップとしても使えるんだけど、ガラスの中にある水は取れない。一度知っちまえば引っ掛からないんだぜ。でも、また騙されるんだよ。取ろうとしてよ。取ろうとするのが間違いだと思って止めても、……どうしてだろうな。
水を取りたいなら、コップを壊すしかないんだ。けどよ、壊したら水はこぼれちまって、結局残らないんだ。
いつだって、届きそうで届かないんだよ。
ロックオンさんですか? どちらで……ああ、ライルさん!