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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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純愛シンドローム

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肌蹴たシャツの隙間から跡部の手が差し入れられて、忍足の白い肌を這っていく。
跡部が好きだ。跡部の傍にいたい。跡部の為ならなんでもできると思う。

それが愛するということなのだろうか?
問いかけても、問いかけても、まだ答えは出ない。

何度も、何度もキスをして。
何度も、何度も好きだと囁いて。
何度も何度も触れられて、抱きしめられた。
 
「忍足、愛してる」
俺もと言いたいんやけど……
愛ってまだようわからへんねん。もう少しだけ待っといてな、跡部。

「俺んち、来るんやろ」
「ああ」
「何か、うまいもん作って食べさせてたるよ」

 



「おい」
「はっ、俺ですか?」
「お前しか、いないだろ」

声を掛けて来たのは、ネクタイの色からすると三年生らしい。
自分と同じくらいの背丈で、どこかだらしなさの漂う少年だった。
二百人もいる部活では余程目立っていない限り目に留まらない。
ちらりとテニス部の先輩かなとも思ったが、どうも違うようだ。

「なんですか?」
「お前、確かテニス部の忍足とか言うんだよな」
「そうですけど」
「そんなにつっけんどんにもの言わなくてもいいだろ。ちょっと付き合えよ」
全身を嘗め回すような陰気な瞳に、鳥肌が立った。

「えっ?俺、用事があるんで失礼します」
「冷たいなあ、忍足くん。来いって言ってんだろ」
早足でその場を立ち去ろうとした忍足の袖を突然掴まれた。

「なに、するんや。離せや!」
「ふーん、そんなこと言ってもいいのかな」

振り解こうとした少年の手に握られていたものを見た途端、全身が凍り付いた。
「これあの跡部くんだよね。氷帝の帝王とか呼ばれてる。跡部財閥の御曹司」
その写真から目を外せなかった。

あの時の図書室での写真。

どうしてこんなものをこの少年が持ってるのかわからない。
跡部の手がシャツの肌蹴た自分の白い肌をなぞり、合わせた唇の端からだらしなく垂れた銀糸がはっきりと写っていた。
恍惚とした表情。
それがあの場に実際いなければ、この後、どういう行為が行われるのかを容易に想像させることの出来る写真になっていた。

「なんで」
「君と跡部くんってこうして愛し合ってるんだ」
卑猥な笑みが少年の顔から毀れた。

「俺が図書室に入ったのにも気付かないほど、君達夢中だったからね」
そんな。あの時、別の奴が図書室にいたなんて。
いや、そう言われれば、あの時何か小さな物音を聞いたような気がする。

「俺に付いて来るのか来ないのか、どうするつもりだ。
返事によっちゃ、この写真のデカイ奴、掲示板に貼っといてもいいんだぜ」
「行けば、この写真返して貰えるんですか」
「あぁ、そうだ」
当然、選択肢は無かった。自分はいい。どんな噂が立とうと。でも跡部は違う。

跡部は今在る全てのものを失う。絶対にそんなことはさせられない。
跡部は自分を守ると言ってくれた。どんなに幸せな言葉なんだろう。

自分だって跡部を守りたい。ひょっとしたらそれが愛すると言う事ではないのだろうかと忍足は思った。
跡部の為なら、自分はどうなってもいい。今度は自分が跡部を守る番だと。

「俺が何したらええんですか?」
「跡部とするようなこと、俺にもさせてくれればいいんだよ。綺麗な顔して。お前、俺の好み」
卑猥な言葉だと思った。気持ち悪くて悲しくて全身が小刻みに震えだした。その手を容赦なく引かれる。

「ちょっと借りてた本、延滞してたから、煩い司書のいねえうちに返しとこうと思ったら、思わずデカイ魚が釣れたよな」
泣きそうだった。でもあの時とは違う。そうすることで跡部が守れるんならそれでいい。
「今はもう使ってない化学準備室のソファー、座り心地がいいんだぜ」
そいつが言うことなんて、もう何も耳の中に入ってこなかった。
 
「座れよ」
そう言って笑いながら少年は跡部と忍足の写真を床にばら撒いた。

何枚も。

重なり合っている手が今は酷く遠くに思えた。
言われるままに、ソファーに腰掛けた。密着するように座った少年の身体が気持ち悪い。
心が伴う行為と、そうでは無い行為。同じ行為でも持つ意味も感覚も違うのだろうと忍足は思った。
それが愛と呼ばれるもの?曖昧なものが徐々に形を露にして来る。

跡部だけを純粋に愛したかった。跡部だけを純粋に愛し続けたかった。

少年の手が忍足のシャツのボタンを一つずつ外していく。
抵抗することも出来ず、震える身体を任せることしか出来なかった。

跡部とは違う手。跡部とは違う匂い。怖い。怖い。怖い。嫌だ。嫌だ。
目をぎゅっと固く閉じて時が過ぎるのを待つしか術はなかった。
露になった忍足の白い肌に少年の唇が掠った瞬間。

『ガタッ!!』

ドアを開ける凄い音が。忍足達のいる部屋のドアの所からした。
「跡部」

「その汚い手を忍足からどけろ!」

少年は驚いて忍足の身体を離す。それほど激しい跡部の感情を表す言葉だった。
「そんな写真で俺を潰せるとでも思ってんのか。
俺はコイツを抱くことに、何の疚しい気持ちも持ってねえ!俺がコイツを好きだから、愛してるから抱くんだよ。
そんな写真いくらでもくれてやる。さっさと持って、今すぐ俺達の前から失せろ!
最後に言っとくが、二度と忍足に手を出すな。わかってるだろうがそんなことをしたら、絶対に許さないから覚えとけ!」

凍て付いていた身体が一瞬で解けて昇華してしまいそうなほど、激しい愛の告白だった。
跡部の気迫にたじろいだ少年は逃げるようにその場を後にした。

「へえお前、こんなに愛されて幸せだな。せいぜい大事にしてもらうんだな。……その写真は返してやるから」
棄て台詞にもならない言葉を残して。
「忍足、大丈夫か?」
「跡部」
傍に来た跡部に抱きついてしまった。

涙がボロボロと頬を伝う。女々しい自分は嫌やけど、どうしても涙を我慢できなかった。

「忍足、お願いだから俺のために傷つかないでくれ」
 先程までの怖い表情からうって変わって、跡部は悲しそうな顔をしてこちらを見た。
「跡部」
「こんなことで俺は絶対にダメになったりしないから。お前と俺の関係を頼むから、引け目に感じないでくれ」
頬の涙を人差し指の背で拭い取ってくれた。

「うん、わかっとる」
「もう、泣くな」
コクリと一度頷いた。
「さっき移動教室に行く時、お前の姿を見つけて追って来て良かったぜ。
お前があんな奴にと思うだけで、どうにかなりそうだ」

「跡部は俺のこと……」

「愛してる」

「……跡部」

「たぶん、自分よりお前のことが大切だ」

自分より大切な人。愛するということの意味。
少しずつだけど、理解できるようになった。
愛というものの存在を信じることができる。

「俺も景吾を愛しとる」

見つめ合って、優しく抱きしめて、熱く口付けて。
全てを与え合い、全てを奪い合う。
その全てが愛。




fin.



作品名:純愛シンドローム 作家名:月下部レイ