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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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純愛シンドローム

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「おぅ、真っ暗。笑ってる時でも顔が引き攣ってたCぃ。忍足、本心みせねぇし」
と言って、慈郎は笑う。他人のことには無関心かと思っていた慈郎も、本当は勘の鋭い友達思いの子やった。
自分から心を開いて行けば、相手も心を許してくれるということもわかった。

自分が誰も愛せなかったから、誰からも愛されてないと思ったのかも知れない。
愛は与えられるものではなく、与えるものかもしれないと思うようになった。
でも、わからない。純粋な愛の存在……

「あ・跡部。どないしたん?生徒会もう終ったん」
「あぁ、お前の図書委員会はどうなんだ」

全校一斉委員会活動の為、珍しく今日の部活動は休みになっていた。
氷帝の全生徒はいずれかの委員会に属して活動をするのが決まりになっている。
委員会決めの時、忍足は本を読むことが好きだし、それほど他人と関わりがなさそうだという理由で、自ら図書委員を希望した。

跡部はというと、一年にも関わらず既に生徒会の副会長という重責にあった。
「図書委員会はもう終わったんやけど、俺は本の修理しとったんや」
「お前一人でか?」
「あ、うん。せっかく部活も無いし。皆どっかへ行きたいみたいやったから、俺が引き受けたんや」
「人がいいな」
「人がいいわけやないよ。俺がやりたかったんや。俺本の修理好きなんよ」
「まあ、そういう事にしといてやろう」
「ほんまやもん」
言ったことは嘘では無かった。耳鳴りが聞こえそうな静かな図書室も好きだし。

本の修理と言っても表紙を外して装丁し直すという面倒な作業では無く、破れている箇所にそれ用の補修テープを貼るくらいである。
破れたところへ目を移すと、嫌でも文章が目に入って来る。
ひょっとしたらここを裂いた人物は、そこに書かれている文章に目を奪われ、
早く先を読みたくて慌ててページを捲ろうとして破ってしまったのかもしれない、とか考えてしまう。
そんなどうでもいいことが忍足には楽しかった。
それが唯一他人と自分を結ぶ数少ない接点になっていたなど。当の忍足自身も気付いていなかったに違いない。

人との関わりは避けていたが、心の奥底ではきっと。人を恋うていた?……

「これでいいのか?」
隣の席に座った跡部が手伝ってくれるらしい。綺麗にテープが貼ってある。
「ええよ。それにしても跡部って手先も器用なんやな」
「当前だろ。俺にできねぇことなんてないんだよ」
当たり前のように言って、跡部が笑うもんだから、つられて自分も笑ってしまった。

こんな時を持てるなんて以前に比べたら夢のようだった。
「あっ?そうや。跡部なんでここへ来たん」
「お前を迎えに来たんじゃねぇか」
「はっ?俺」
自分に指を差して問うと、決まってんじゃねぇかと笑われた。
「さっさと終わらせて、帰るぞ。今日はもう校内へ残ってる者はほとんどいねぇぞ」
「あ、うん。もうそないな時間?」 

時間が経つのも忘れて、単純作業に熱中していた。
部活ではいつも、跡部と最後まで打って帰るから。
それが慣習のようになっているから、迎えに跡部は来てくれたんやろか。
上目遣いに跡部の方を見たら跡部もちらりと視線をよこす。
目が合ったら頭をぽんと軽く叩かれて言われた。

「よそ見しないで、真面目に仕事しろ」
「ええやん、減るもんやないし。顔みるぐらい」
思わず口から出た言葉に自分でびっくりする。

冗談言えたんか。自分が。関西人なのに冗談も言えん奴だと。そう思われてた。
「そんなに俺の顔が好きか」
くっくっと笑いをかみ殺して跡部が問う。
「あぁ、お前の顔好みやねん」
そう言うて自分も笑った。
こんな会話が何も比べるものが無いほど、楽しい。

今のこの時が永遠に続けばいいと本気で思った。

「終わったぞ、俺の分」
「あっ、俺も終ったわ。その本を棚に直したら帰ろうか」
「あぁ。お前のとこに寄ってもいいか?もう家にほ忍足のところに寄って帰ると連絡したけどな」
選択肢の無い問い。でも嬉しいかもしれない。自然と笑みが零れる。
「ええで、もう連絡してしもうたんやろ。断られへんやん」

「断る気があんのかよ」
「どうやろな」
「忍足」
意地悪く答えてやると、焦った顔の跡部があった。

跡部はかっこええけど、三枚目の部分も持ち合わせている。

もしかするとそれは、自分だけが知っている跡部の別の顔かも知れない。
補修の終わった本を手にして、所定の位置に戻していく。最後の一冊は棚の一番上に。
でもそこは背の高い自分が手を伸ばしても届かない。
近くから踏み台を持って来て、その上に乗る。

「これで終わりや」
そう言って、本を納めると踏み台から勢いよく降りようとしたのがまずかった。
バランスを崩してよろめいた。そのまま足を踏み外した。危ない。そう思ったとき。
またもや、跡部が。自分の身体を受け止めてくれた。

「あとべ!」
「痛ぇ」
さすがの跡部でも、いくら細身とはいえ、自分とほぼ同じ体格の忍足を支えるのは難しかった。
忍足を抱え込んだまま床の上に転んでしまった。

「あ・あとべ!大丈夫か?怪我せえへんかった?」
跡部が怖い顔をしていたから。
「どこが痛いんや!」
慌てて跡部の上から離れようとした。

その時。

「どないしたん?」
跡部から離れようとした身体を跡部の腕が抱きしめた。
「……跡部」
そのまま跡部の胸の中に抱きしめられた。
安心できる優しくて暖かな胸の中で、ゆっくりと瞳を閉じると。初めての感覚を唇に感じた。
ほんの一瞬、唇に触れただけのキス。

「俺がお前を守ってやる」
「跡部」
息もできないくらいぎゅっと抱きしめられて、真摯な瞳で見つめられた。
身体が小刻みに震える。
「まだ身体に触れられると怖いか?」
「怖わない、跡部なら怖わない。これは条件反射みたいなもんや」
「無理しないで、いいんだぜ。ゆっくりと治せばいい」
「もう一度試してくれへん」
「いいのか、お前に触れても」
「ええに決まっとるやろ」
あの時から、女が、いや人間が怖くなった。誰からも愛して貰えなかったし、誰も愛せなくなった。
愛というものが信じられなくなった。そんなもの
寂しい人間の作り上げた幻に過ぎないと。純粋な愛などあるわけが無い。そんなもの欲しくない……
 
唇に自分とは違う熱が触れて、解け合っていく。
図書室の冷たい床の上に座っているのに。身体の深部が熱を持ち始めたのがわかった。

「好きだ。忍足」
「俺なんかでええんか?」
「お前こそ、俺でいいのか?」
「たぶん、跡部じゃないとあかんと思うんやけど」
ぎゅっと抱きしめられて、もう一度唇が触れ合う。
啄ばむような優しいキス。そのキスが段々と深いものに変わっていった。

跡部の背中に回した手に力が入る。
歯列を割って入って来た跡部の長い舌に自分のそれを絡め取られて、思わず自分でも恥ずかしい声が口の端から漏れた。
「あ、……ぁん……んっ」
知らないうちに、跡部のブレザーに皺を作るくらい握り締めていた。
「……ぅうん」
「お前を大事にする」
「……ァ……アン」

キスだけで、全身が痺れたように感覚がない。
囁かれる言葉を、霧のかかったようなあやふやな頭の中で何度も反芻していた。
作品名:純愛シンドローム 作家名:月下部レイ