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【太妹】現と夢幻の狭間で

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自分の目から溢れるこれは、その誰かのものらしい。おかげで、鼻水も止まらない。何て不運。

「いもこ、って何だよ。暗号かなんか?」

まさか名前とは思えない。朝廷には、その音と同じ名前を持つ有名な役人が一人いる。弱冠にして、豪族初の大徳の位を得た類いまれな天才だという。それが目の前の彼のはずはない。其の様な者が、こんな所で呆けてる訳ないし、偏見かもしれないがそもそもこんな美麗な容姿の訳は無いだろう。

「暗号…そう、そうなもんだったかなあ…そっか、そんな事言ってるんだ」

自分には何事か分からぬが、彼はどうやら声の主でも分かっているのだろう。頼りなく眉を下げて笑っていたが、ついに肩を揺らし声を上げて笑い出した。

「馬鹿みたい、馬鹿みたいだ、ほんと、あの人、ばっか、みた…い…だ」

ああ、もしかして、この男は。

いや、もしかしなくても。

「なあ、おま、え…」

彼に手を伸ばしかけたその時、閉じた瞼からつう、と頬から伝う其れに思わずギクリと立ち止まる。
渇いた頬に一筋流れた其れは、一瞬だけ月夜に光って。

『いつまでも泣き虫な奴』

頭の中の声がやけに澄んだかと思えば、目の前には見知らぬ男が経っていた。くすりと笑う彼は、自分が見た事も無い服を着ていたが、どうしてか其れに付いて何処かで聞いた様な気もした。

どうやら自分にしか見えないのか、相変わらずに彼の方は眼をつむったままだ。まるで金縛りにでもあったように動けなくなり、其の者のことを知らせようと出そうとした声も固まる。

それに気付いたのだろうか、薄く透ける彼は己に微笑みながら人差し指を口の前に置いた。
これで、いいと、そう語る様に。

そして、目をつむったまま微笑む彼の栗色の髪を優しく梳いて耳元に唇を近付ける。

『     』

何か呟いたかと思えば、次の瞬間には元のように自分と彼の姿しか其処に無かった。

(今のは…)

「不思議だな、泣いたら全て失くす気がしてたのにな…」
「思い出とか?」
「声とか、温度とか、言葉とか」

やはり聞かずとも、さっきの男は彼の上司とやらではないだろうか。男の様子といい、彼の態度から考えても二人はただの上司と部下という訳では無かったのかもしれない。

「怖かったんです。一つも失くしたくないのに、失くして忘れたくないのに。思い出す時間が減っていって、少しづつ何かが抜け落ちていって、そうやって最後には彼が居た事も忘れるんじゃないかって」

そしてきっと彼は、其れを咎めないだろうと分かってて。

「それだから泣くのが嫌だったのに」

泣いたら甘えてしまう。きっと、忘れてもいいんだと、気持ちが楽になってもいいんだと、そう思ってしまう。

「泣いて、何か失くした?」

そう問えば、彼はゆっくりと首を振ってこちらを向いた。

「忘れてたんです。あの人、凄い馬鹿だったって」

失うどころか。

「増えた気さえ、しますよ」

その時見たのは、現実か幻覚か。

確かに其処には、互いに微笑みながら寄り添う二人の姿が見えたのだと云う。





こういうのを、なんっつたかねえ。
ここらへんが、あったかくなるっつうか、むずかゆくなるっつうか。
なのに、悪くねえなって思っちまうような。
そうそう、ここらへんまで出かかってるんだけどねえ。

「それって」



―そういうのって、きっと…