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【臨帝】ネコミミ事件。【腐向】

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朝起きて寝癖を直そうと鏡を覗いたら、僕の頭から猫耳が生えてました。

「な、なんだ、これー?!」

なんでこんな物がくっ付いてるのか判らないけど、とにかく外そう。…と思って引っ張ったら。

「い、痛っ!」

耳を引っ張った時の頭皮の痛みや、三角耳の先端に感じた痛みに僕は小さく悶える。
やけにお尻の辺りがスースーするなって思って手を当てたら、パジャマのズボンが破れていてそこから黒くて長い尻尾が伸びていた。

「ど、どーなってんの、これ…?!」

これから学校に行かなきゃ行けないって言うのに、この尻尾が邪魔をして制服のズボンが履けない。何とかしてズボンの中に納めようとしてみても、尻尾の付け根が痛くてたまらず、僕は白いYシャツを一枚着ただけの姿で途方にくれていた。
そんな時、コンコン。と突然ドアをノックする音が聞こえて驚き、身体をびくん!と硬直させる。ついでに尻尾や三角耳も、ピーンと張り詰めていた。

「…!」

当然こんな姿で人前に出られるわけが無い。
けど居留守を決め込んでも、コンコン、コンコンとドアを叩く音は鳴り止まない。

「しつこいなあ…!」

僕は仕方なくドアの向こうから、対応することに決めた。ドアを閉めたまま息を吸い込んで、声をかける。

「はい、どちら様ですか?」
「おっはよーございまぁす!帝人くぅん!」
「…臨也、さん?」
「きゃはっ!正解でぇす!」

聞こえてきたのは、朝から聞きたい類の声じゃなかった。
チャットでなりきっている甘楽さながらのぶりっ子口調で話しかけてくる臨也さんに、大きな溜め息を吐く。

「何の用ですか?帰ってください」
「え~っていうか、玄関開けて下さいよぅ!」
「ちょっと、具合が悪くて。だから帰って下さい」

僅かな沈黙が流れた後、聞こえてきた発言に僕は驚いた。

「生えちゃったのかな?猫耳と、しっぽ」
「…え!」
「おっはよ。帝人君」

慌ててドアを開けた先に居た臨也さんはニッコリと爽やかな笑顔を浮かべて、軽く手を振ってみせる。
そんな姿はイケメン俳優に匹敵するほどカッコイイと思うけど、拭えない胡散臭さが漂う。

「思ったとおりだ。すっかり猫だねぇ~!」
「あの、臨也さん、僕が何でこうなったか知ってるんですか?」
「う~ん、帝人君可愛いねぇ~!本当に可愛いよ!人と猫のコラボレーションがこんなに素晴らしいなんて!人って本当、愛しいよ!」

アハハハ!と乾いた笑い声を上げ僕の頭をぐりぐりと撫でている臨也さんは、凄く楽しそうだ。

「やめて下さい、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃないですか…!」
「じゃあ…こーされると、どうかなあ?」
「え…」

ぐしゃぐしゃと頭を乱していた長く綺麗な臨也さんの指先の動きが、優しいものに変わった。
毛並みを整えるように猫耳を撫でられて、耳の付け根をマッサージされて。何故かそれが気持ち良くて堪らなかった。
臨也さんの優しい手つきにウットリしてしまった僕は、その指先に身を任せていたけど。

「しかし、エロい格好してるねえ~帝人君」
「へ…?」
「白いYシャツ一枚に猫耳・猫尻尾装備だなんて素晴らしいよ!」
「あ…!」

僕は自分の状態を思い出し、恥ずかしくて顔を熱くさせた。

「仕方ないじゃないですか、尻尾生えててズボン履けないんですから!」
「へえ、じゃあパンツも履いてないの?」
「尻尾が出てる部分に穴が開いちゃった状態ですけど、履いてます!」
「なんだ、残念だなあ」
「な、何が残念なんですか、もう…!」

母親譲りで色が白い僕は、少しの熱でも頬が真っ赤になってしまう。
きっと今も、顔が真っ赤になってるんだろうなと思えば余計恥ずかしくなって、臨也さんから視線を逸らした。

「照れちゃって可愛いなあ」
「からかわないで下さい…!それより、僕がどうしてこうなったか知ってるなら、教えてください!」
「そうだよね~なんで猫耳とか尻尾が生えたか、気になるよねぇ?」
「当たり前です!」
「早く元に、戻したいよね?」
「…臨也さん、やっぱり何か知ってるんですよね?」

猫が獲物を見つけて機嫌を良くしたように、臨也さんは不敵な笑みを浮かべた。
余裕に満ちた妖艶な微笑は、ひどく綺麗なもので。
僅かの間だが臨也さんの顔に見惚れていた事に気づいた僕は、男を綺麗だと思うなんてどうかしていると軽い混乱を覚えた。
慌てて小さく頭を振り思考を正した僕は、臨也さんを部屋に招き入れる。

「どうぞ。相変わらず何も無い部屋ですいませんけど」
「んじゃ、お邪魔しまーす」

臨也さんは何の連絡も無く、いきなり家に来ることがある。
美味しいお菓子持って来たから。お腹空いたから夕飯食べさせて。
今日は休みだから、デートしに行こう?
そして――逢いたくなったから。

理由はだいたいそんな感じだ。
地味な男子高校生である僕を、どうしてお金持ちでカッコイイ臨也さんが構ってくるのか不思議で仕方が無い。
何度理由を聞いても、答えは何時も同じだった。

『人が好きだから。だから人を知りたい。今一番、君の事が知りたいんだ』

人について独自の価値観を持ち、人間の研究をしているらしい臨也さんはかなり変わった人だ。
情報屋なんて危なそうな仕事をしているのも、高収入も魅力ではあるが人間を研究するのに都合が良いからだそうだ。
親友である紀田君から近づくなと散々言われていたから、僕は臨也さんを警戒していた。

でも臨也さんは僕が気に入った。だから僕を知りたいと言ってくっ付いてくるようになったのだ。
酷く言えばストーカー紛いにくっ付いてくる臨也さんに僕は困っていたけど、でも最近では気を許すようになっていた。
本気かどうか知らないが、『帝人君可愛い。好きだよ』なんて言われている内に満更でもなくなってしまったのだ。

望んだ事とはいえ、田舎から出てきて都会で暮らす僕は、一人の時が寂しくて仕方ない時があった。
今僕が居なくなっても、この街は僕を必要としないだろう。そう思えば言い様の無い虚しさも抱えた。

そんな時、僕の心を温めてくれたのが臨也さんだった。
冗談ばっかり言って僕をからかうし、セクハラおやじモードで身体を触ってくるし。
でも臨也さんは僕と一緒に居たいと、僕を知りたいと言ってくれる。
今だけかもしれないけれど、この人だけは僕を必要としてくれるんだ。
だから僕は臨也さんをたまにウザイと思う時もあるけど(だって僕にも予定ってものがあるのに、臨也さんはお構いなしでくっ付いてくるから)僕を必要と言ってくれる大事な人だと、思っていた。

「よっこいしょー」
「臨也さん、おじさんみたいですよ」
「帝人君から見たら、おじさんかもねえ~って、まだお兄さんだけどね」
「はいはい」

臨也さんは部屋の隅にあるミニテーブルに向かうと、黒いクッションを壁際から引っ張り出しその上に座り込んだ。
何度と無く来た事がある狭い四畳半のボロアパートの中なんて、何処に何があるか。勝手を知っているのも当然なのだ。

僕は台所で湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れる準備を始めた。
白いマグカップを出してコーヒー粉をスプーンで掬い、カップの中にさらさらと降りかける。