【臨帝】ネコミミ事件。【腐向】
そうしている内背後から視線を感じて振り返ると、テーブルの上に頬杖を付いた臨也さんが、僕をじっと見つめているのに気付いた。
「なんですか?」
「いや~子猫ちゃんな帝人君がYシャツ一枚で台所に立つなんて、良い眺めだなって思ってね!」
「そうですか。本当に変態ですね」
「はは。褒めてくれて有難う」
相変わらずのセクハラ発言を軽く受け流し、僕は臨也さんの前に白いマグカップを置き正面に座り込んだ。
Yシャツの隙間から下着が見えそうで気にかかり、滅多にしない正座をする事にした。
「帝人君さぁ、正座なんてして疲れない?もっと寛げば良いのに~」
とニヤニヤしながら臨也さんは告げる。僕が正座した理由を完全に見抜いてのことだ。
「寛いだら見えちゃうじゃないですか」
「見えても全然構わないけど?だってパンツでしょ?」
「臨也さん相手だと、なんか生理的に嫌です」
「うわ、帝人君ひどぉい!」
「ところで、どうしてこうなったか早く教えて下さい」
「昨日、栄養ドリンク届いたでしょ?プレゼント当選おめでとう御座いますって。アレ送ったの、俺なんだよねぇ。中身は新羅特製、猫耳が生えちゃうお薬ー!って訳」
ニッコリと微笑みながら悪びれもせず告げた臨也さんに、僕は溜め息を吐いた。何となく感づいてはいたが、やはりこの人の仕業だったのかと。
只純粋に何かのプレゼントが当ったんだと喜んで、怪しいドリンク剤を飲んだ昨日の自分を叱り付けてやりたいがもう遅い。
「なんでこんな事するんですか?」
「猫耳萌えという嗜好を、試してみたくなったんだよねえ」
「それだけの為に、こんなことを?」
「しかし、理解できたよ。猫耳萌え!帝人君に猫耳は、本当に良く似合うねぇ~あ、尻尾も似合ってるよ?」
「褒められても全然嬉しくありません」
僕を玩具と思っている臨也さんに、何を言っても無駄だ。彼は何時だって自分の興味が赴くまま好きに振舞うのだから。
「治し方知ってるんですよね?早く治して下さい」
「知ってるけど、本当に良いの?」
「当然です、勿体ぶらないで早くしてください」
「治す為にはね、俺とエッチしないといけないんだけどっ!」
「……はい?」
相変わらずのセクハラ発言に、僕の表情が強張った。一体何を言うんだ、この人は。
「もう、からかわないで下さいよ~」
「あのドリンクには俺の血がちょっぴり入っててさ。解毒剤が俺の体液なんだよね。ああ、猫化して半日以内に治さないと…一生そのまんまなんだって。だから、やるしかないねっ!」
「ちょっと、臨也さん…?!」
楽しそうに笑う臨也さんが僕の肩に手を掛けたかと思えば、視界がぐるりと回る。
畳の上に押し倒されたと気付いたのは、僕を見下ろす綺麗な顔が頭上にあったからだ。
臨也さんは畳の上に片肘をつきながら僕に覆い被さってくる。
細身で力なんてそんなに無さそうな臨也さんだが、案外と鍛えているみたいで。
僕が広い胸を押して抵抗した所でビクともしなかった。
「や、やめて下さい、臨也さん…!」
「だって猫人間じゃ困っちゃうでしょ?俺は可愛いからそれで構わないと思うけどね」
「本当に、する気ですか…?」
「大丈夫、初めてだもんね。優しくするつもりだから」
「つもりって何ですか?!」
「良い子にしててね?帝人君」
三角の耳に軽く噛み付かれて、ビリっとした感覚が走る。薄い耳を何度も齧られているうちに快感を覚え、身体の奥が熱くなってる自分に気付いた。
そして臨也さんは本気で僕とエッチな事をしようとしてるんだと、理解した。
「ほ、本当にするんですか?臨也さん…」
「だってしないと治らないよ?」
「で、ですけど…あ、っ!」
臨也さんが僕の首筋に顔を埋めてきた。いつもふんわりとさせている香水の匂いが強く感じられて、胸が熱くなる。
こんなに近くに今、臨也さんがいる。僕にこれから、触れようとしている。そう意識させられた僕は混乱していた。
想像も出来なかった状況に混乱した僕を置き去りに、臨也さんは僕の肌を滑っていく。
首筋に軽いリップ音を立てながら小刻みなキスを落とすと、今度は鎖骨に齧り付かれた。
ガジガジと噛み付きながら、ちゅっと鎖骨や肌を吸われて。臨也さんがキスをする度に僕の身体がおかしくなっていく。
全身が疼いてしまい、もっとして欲しいとまで思ってしまうのだ。
もどかしいキスじゃ物足りない。もっとダイレクトな刺激が欲しいのだと。
鎖骨を齧っていた臨也さんの口が、その下へ降りようとしていた。
Yシャツのボタンを外され貧相な胸板を晒されると、綺麗な顔立ちが胸元に傾けられる。
しかし――これから行うのは身体の不調を直す為だけのセックスなんだと思った途端、心が急速に冷たくなっていた。
臨也さんは本気で僕を好きなんかじゃない。僕と言う玩具で遊ぶだけだ。セックスだってその一環なんだろう。それが酷く、悲しかったのだ。
「やっ…臨也さん、や、止めて下さい」
「え?言ったでしょ~エッチしないと、本当に猫人間になっちゃうよって」
「…それでも、いいです」
「え?」
「僕で遊んでるだけなら、こういう事するの止めて下さい。…本気じゃないのに、こういう事しないで下さい」
自分で言っているうちに、何故か泣きたくなってしまった。
これじゃまるで、僕が臨也さんを好きみたいじゃないか。
こんな胡散臭くて、怪しくて、危なそうで。セクハラ三昧してくる悪い大人なのに。好きになっちゃいけない人なのに。どうして僕は――?
気付いた。気付いてしまった。
臨也さんに求められてるんじゃなくて、僕が臨也さんを求めて居たんだと。いつしか臨也さんを待つ自分が居たんだと。
こんな事、知りたくなかった。よりによってこんな状況で。
きっと臨也さんは人間は平等に好きだよ?例外を除いてね。
なんて理解不能なことを言い、僕の気持ちなんて受け入れないだろう。
判っている。この片思いは何時までも報われないと。
だからこそ、中途半端に触れて欲しくなかった。抱かれたらきっと、忘れられなくなってしまうから。
それならずっと猫人間で居てやるとまで思っていた。正直これから先どうやって生きていこうかと思うけど。
「あのさ~帝人君」
「なんですか?」
「本気ならこの先、してもいいのかなぁ?」
「え…?それって、どういう意味ですか?」
「人はラブだけど、構いたくなるのもこーゆー事したいって思うのも、帝人君だけなんだよね。本気で」
飾り気の無い告白だからこそ、それが本心だと良く判る。
両想いだと思っていいんだろうか。だってあんなの、告白されたも同然だ。
そう思ったら僕の胸がきゅんと甘く疼いて感動に包まれた。
臨也さんが僕だけにしか向けない好意があると判って。それだけでもう、充分だった。
「判りました。じゃあ本気って事でお願いしますね」
と僕は、緊張から声を震わせて臨也さんの背中に手を回していた。
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行為の最中に、実はエッチなんてしなくても薬の効果がその内切れると暴露されて。
遠慮なく脇腹を殴らせて頂き、セックスは中断させた。
だって、初めてなんですから。ちゃんと順序を守ってからにして下さいね。と抗議をしたけれど。
作品名:【臨帝】ネコミミ事件。【腐向】 作家名:かいり