依存症
欲しがっている言葉をあげれば彼が自分に依存するのがわかっていたから。
「アーサー」
呟いた言葉に気づいたのかうっすらと目を開ける。
「…ん、どした?」
ぼんやりとしているのか声に力がない。
彼は優しいから自分の怖い夢に震えるよりも目の前の俺の心配をしてしまう。
「愛してる」
怖がっているのは俺の方だ。
ぎゅっと抱きしめて不安を消そうとする。
本当は抱きしめて欲しいのかもしれない。
「どうしたんだよ?」
背中に回された手がゆっくりと撫でてくれる。
「…怖い夢でも見たのか?」
怖い夢を見たのはアーサーで、俺は怖い現実に押し潰されそうなのだ。
「仕方ねぇな、お前が寝るまでこうしててやるよ」
暖かいアーサーの手がゆっくりとまた背中を撫でる。
抱きしめた腕の力を少し抜いて、もう一度頬に口づけた。
アーサーの唇が俺の唇に触れ、ゆっくりとした動作で離れていく。
「おやすみ、フラン」
瞼を閉じてから先に寝息を立てたのはやはりアーサーだった。
彼の過去を塗り潰して全部自分だけにしてしまいたい。
良い夢も悪い夢も出てくるのは自分だけでいい。
その唇が紡ぐのは俺の名前で、囁くのは愛の言葉。
その綺麗な瞳に映るのは俺だけ。
それ以上の幸せがあるだろうか。
「アーサー」
音にもならない程の声で愛しい者の名前を呼ぶ。
愛してる愛してる愛してる。
依存させたくて依存しているのはきっと俺の方。
突き放すときは俺の目をえぐって。耳と鼻を切り落として。唇を縫って。すべて
の皮膚を剥いで欲しい。
感覚に君が触れてしまえば、狂ったように求めてしまうから。
「アーサー」
…愛してる。
end