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怪盗と名探偵/詰め合わせ

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本文:結婚しようぜ!



鼻頭真っ赤にしてマフラーに顔突っ込んで学ランで、お前は犬か!とかなんとか言ってやろうかとも思ったんだけどもあまりにアホ過ぎたので新一は気がつかない振りを徹底して快斗の前を通り過ぎた。俺を見つけてニコニコ顔だった快斗も、目の前を黙って通り過ぎられて流石に笑顔が強張る。
「いやいやいやいや」
2人の間が3m開いた所で必死の形相で快斗が追いかけてくる。
「新一くん、それはないでしょう!」
思いっきりワイシャツの詰襟を掴まれて、うっ、と低く新一は言葉を詰まらせる。いらっときた表情で振り返ればそこにはやはりお前は犬か!と言いたくなるような快斗がにへらと笑っている。(あー、もう……)。
「あれ、新一、風邪引いてるのか?」
「……俺によく顔が似た男が校門の前で張ってるって言うから用心して顔を隠してきたんだよ、バーロォ」
「へーえ。新一って変装が随分下手糞なんだな」
最後の方は聞きたくもなくて快斗の手を払うとまた新一は前のめりで歩き出した。快斗がその横を踊っているかのような軽い足取りで付け回す。
「なーなー、メールみた?」
ぴったりと新一の足が止まった。まるで一本の棒みたいに。快斗がおろおろと新一の顔を覗き込むと、素晴らしい勢いで快斗の頬めがけて剥き出しの右手が飛んできた。夜の怪盗よろしい反射神経で受け止めると、快斗は苦笑いしてそれをそっと元の位置に戻した。反応はない。
「新一?」
「お前な……!」
大げさに振り上げた左手に大げさに身を縮ませる快斗。俺はもうどうにでもなれと、(むしろどうにかなっちまえばいいと)そのままそれはわなわなと下ろされた。震えている。新一の何か怒りに触れたことは間違いない、と快斗はやはりおろおろするしかなくて。静かに百面相でもやってみせたら睨まれた。マスクからはもちろんその鋭い眼光しか見えないわけで快斗が冗談めかしてヒッ、と悲鳴を上げる。
「出来もしないことをさも出来るかのように装って宣言するのは止めていただきたい。ついでに言うなら俺はそういう奴が大嫌いだ。ありもしない感情を前提に話を進めるなんてナンセンスだと何度言ったらわかるんだ」
言い出したらきりがないと思った。さすがにこの歳で涙を流すなんて、そんな馬鹿な真似を大嫌いなこいつのまでさらすような俺じゃないけど、しかし。
「泣いてんの?」
「泣いてねーよ」
「そう、よかった」
「よかったの意味がわからねえよ」
ずずっと無意識に鼻をすすっていた。あーあ。こんな寒い中立ち話してるからもしかしたら俺本当に風邪ひいたかもなんてじわじわと後悔の念が押し寄せる。やはり蘭の練習が終わるまで待っていればよかっただろうか。そうしたら彼女がこのへんてこな男など無言で片付けてくれただろうに。
「そもそも出来ないと思われてるのが癪だ。だって新一も俺のこと好きって」
「あ、あれなしな。半ば脅しとしか思えねえから。フェアじゃねえもん」
「男に二言はないって!」
「二言どころか前言撤回だから安心しろ」
快斗を突き放そうと思ったら不思議と力が湧いてきて、自然と歩みも速くなる。やはりこんな奴を相手にしているより早く家へ帰って暖房を入れて温かい部屋でホームズでも読むべきなのだ。そうに決まってる。結論が出ればあとは行動のみだった。くるっと振り返ると快斗をむんずと掴んでそのまま押し戻す。
「さあいい子だから帰りなさい、お兄さん忙しいの」
「新一!」
さよならあ、と気前よく手を振ってやって全力で新一は駈け出した。ようやく快斗も諦めがついたのか、追ってくる気配はない。しかし、背後で聞こえるバカみたいな声は。

「俺は新一と本気で結婚するからな!怪盗には二言はねえぞ!」
あーもう嫌だ。ああいうのって背筋がむずむずするんだよな。本当に早く家に帰って、工藤新一は、ホームズ。あいつはルパンでも読んで少し勉強し直すべきだ。