ケイーレン/係恋
「ねぇねぇ、サクラちゃん。カカシ先生ってば、付き合ってる人いるのかな」
「えー、いないんじゃない」
「なんで言い切れんの?」
「だって、あのカカシ先生よ?平気な顔してエロ小説子供の前で読む大人よ?普通の女の子はまず、ひくわね」
「でも本に書いてありましたよ、変態と天才は紙一重だって」
「いや、それバカと天才の間違いじゃ・・・」
新7班がカカシについて、あれこれと話していると、後ろに完全に気配をたったヤマトが影を落とす。
「なにコソコソ話してんの」
「あっ!ヤマト隊長、いいところに来たってばよ」
満面の笑みで駆け寄り素朴な疑問を問いかける。
「カカシ先生って彼女とかいんの?」
「彼女は・・どうだろうね」と、ナルトから視線を逸らせ何故かソワソワしだした。
「絶対いないですよね〜!」と断言するように語尾を強めるサクラ。
「いるんじゃないですか、案外近くに」
ボソリとサイが呟くと、「えっ!ドコだってばよっ!」とナルトがキョロキョロと辺りを見回す。
ココにいます。目の前に。
ニコリと作り笑顔をヤマトに向けるサイに、こちらも引きつる笑顔で応戦する。
「サイ、後で少し話そうか」
「今、ここででも構いませんが」
ボクがかまうんだよ!と口から飛び出しそうになる言葉を飲み込み、喰えない年下をニッコリと睨みつける。
「いいから、ちょっと・・」
サイの服の裾を引っぱり、ナルトとサクラから引き離し耳打ちするように小声で囁く。
「いつから知ってるの」
「なにがですか」
すっとぼけるサイにヤキモキしながらも問い詰める。
「ボクとカカシさんが付き合ってること」
「・・・やっぱり」
「は?」
「まさかと思ってカマかけてみただけなんですが、自分でも正直驚きです」
自分で掘った穴に自ら落ちるという失態に涙しそうになるのを堪えて、「そうかい」と平静を装いサイの肩にポンと手をのせる。
ぺらぺらしゃべるタイプではなさそうだが、こうゆう噂はどこからともなく広まっていくものだ。
釘をさすように低いトーンで恐怖による支配顔でお願いする。
「じゃあ、このまま知らないふりできるよね」
「ええ。別に興味ありませんし」
言い方にカチンときたが、ここでいらぬコトを言い機嫌を損ねたら元も子もない。
下手に出て笑顔でお礼を言いナルト達のところに戻ろうとすると、無感情な声で無神経な一言を言われた。
「あ、男性同士の恋愛ってタブーなんですかね」
ハッキリと言葉にされると何故か心臓がぎゅっと痛んだ。
付き合いはじめたのはつい最近のコトだ。
ほとんどカカシを拝み倒すような形で付き合っていただいたわけだが・・・未だ恋人という実感がなかった。
馴染みの飲み屋ののれんをくぐると、ちょうど焼酎のグラスをあけたカカシが「よっ」と右手をあげ手招きした。
「遅くなりました」
「いやいや、ちょうど俺も来たとこよ」
「そうですか。ボクも同じものを」
店員に注文し、カウンターに座るカカシの隣に腰を下ろすと、ヤマトのいつもと違う様子にすぐ気がついた。
シュンと元気のない横顔をじっと見つめる。
「なんかあったのか」
「・・・バレちゃいました。ボク達のこと」
「そーか」
「うっかり口を滑らせてしまいまして」
「お前が口滑らすなんてめずらしいね、どーしたの」
優しい口調で言われると、カカシを好きになって良かったと人目もはばからず、抱きつきたくなる。
ぐいっと半分ほど焼酎を胃に流し込むと、愚痴るようにカカシに話しだす。
「サイになんですがカマかけられてしまい、まんまとハマりました。その後サイの奴なんて言ったと思います?『別に興味ないですから』だすよ。あ、ですよ」
「ん〜、まぁしょうがない」
空腹にアルコールが染みたのか、すでにろれつが怪しいヤマトをあやすように苦笑いする。
「ナルトとサクラには?」
「あの2人は大丈夫です。特にナルトは」
「驚くほど鈍感だからなぁ、アイツ」
一通り居酒屋でたわい無い話しをして時間を過ごし、店をあとにする。
月明かりが見事にきれいな夜で、今にもかぐや姫が帰っていきそうだ。
そんなことを思いながらヤマトと夜道を歩いていると家に着いていた。
「じゃ、また」
そっけない言葉が寂しかったのか、ヤマトがカカシの手を掴んできた。
「あの、カカシさん今日でボクたち付き合って1ヶ月です」
「え、そうなの?」
そうなのって・・・この温度差。
"付き合って"のところを強めに言ったつもりだったが、やはり落ち込む。
「明日、ボクの家でなんていうか、御馳走させてください」
「いいよ、無理しないで」
「いえ、ボクはただカカシさんと・・」
一緒にいたい。
ふと、今日言われたサイの言葉を思い出してしまい、最後の言葉だけが出てこなかった。
掴んだ手に自然と力が入り、爪がカカシの手のひらにグッと食い込む。
強く握られた手と、何故か痛そうな顔をしているヤマトを見つめる。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
ニコッと三日月のような弧を描く笑顔に魅せられてホッとした。
もうすぐカカシが来る。
嬉しくなるキモチを押さえきれず顔がにやける。
カカシの好物を用意し今か今かと待っていた。
トントンとドアを叩く音がして、すぐさま玄関へと行きデレた笑顔でカカシを迎えようとすると、その笑顔は途端に険しいものとなった。
「お邪魔しま〜す!!」
元気よく入ってきたのは金髪と桃色の髪と黒髪、その後にのそりと銀髪が姿を現す。
「いや〜、途中でばったり会っちゃって、冗談で来る?って聞いたらみんな行くって」
「笑えないです」
「あ〜美味しそうだね」
話題をテーブルの上の料理へと即座に切り替え、ヤマトの不穏な空気をスルーする。
「すげぇってばよ、これヤマト隊長が作ったのか?」
「もちろん、作ったよ」
君らには作ってないけどね。
心のなかで毒づくヤマトにおかまいなしに、料理を平らげていく3人。
「今日はなにかあったんですか?」
サクラが女特有の鋭い勘を発揮し、ヤマトとカカシを見比べる。
「いや何もないよ。な、ヤマト」
いや、ある。女々しいとか思われていそうだが、付き合って1ヶ月なのだ。2人で甘い時間を過ごしたかったのに、なんだコレは。
いい歳して、すねたくないがこの状況は多いにすねるところだろう。
「記念日だよ。カカシさんと2人で過ごしたかったのに」
いきなりの暴露に、口にしていた料理を吹き出しそうになるカカシ。
「ヤ、ヤマト!何か飲みたいなぁ」
ヤマトの肩を掴みひきずるようにキッチンへと連れていく。
キッチンの奥に2人しゃがみこみ、小声でヤマトの機嫌をとる。
「今度、俺んちでもう一回やろう。ね?」
「もう、いいです」
「そんなこと言わないでよ」
めずらしく困り顔のカカシに、もう少し困らせてみたくなりちょっと無茶なお願いをしてみる。
「キスしてください。そしたら許します」
「キスって・・ここで?」
「はい」
じっと見つめるとフワリと頭に手がのせられる。
そっと唇が触れた先は鼻の頭だった。
「今はこれで我慢してちょーだい」
「・・・はぃ」
キスして欲しいとねだった自分が、耳まで真っ赤になってしまい顔すら上げれなかった。