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【APH】菊さん分裂2【本田菊】

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にこり、微笑む顔は昔と何一つ変わらない。
 己を呼ぶ声も、どこか起伏を欠いた独特な抑揚。それは耳に良く馴染んだ、おとうとの、声だった。
「――に、ほん?」
 だから。
 だから、中国にはこの状況が理解し難かった。



「――で、これは一体どういう事あるか」
 半ば無理矢理といった体で、二人がかりで日本の家の離れに押し込められた中国は、粗茶ですが、と自分に緑茶を運んできた日本を一瞥してから――目の前に居る『日本』を、見た。日本と揃いの色をしたその目には疑いと困惑ばかりが滲んでいた。
 そんな中国に、『日本』はふふ、と笑んで、目の前の湯呑を手に取った。
「まぁ、そう急がずとも良いではないですか」
「そーゆー訳にもいかねぇある。どう考えてもおかしい事が起こってるあるよ!?」
 中国の目の前には、一人しかいるはずの無いおとうとが二人存在しているのだ。どう窘められようと落ち着くことなど出来ない。
「とにかく。説明して欲しいあるな」
 ふんぞり返る中国に、『日本』は小さく溜息を吐いてから、そうですね、と目を日本の方へ向ける。すると日本は『彼』の方へと自分から近づいていき、結果、まったく同じ顔が二つ、並ぶ事になった。
 実に、妙な光景である。
 自分は夢でも見ているんだろうかと思って、胡坐をかいた足を密かに抓ってみる。確かに痛みを感じて、あぁ、これは夢でも何でもなく、現実なのだ、と中国は軽く意識を手放したくなった。
 そんな中国の心境を知ってか知らずか、『日本』は口を開いた。
「……この子は。きくは、私が生み出してしまった存在です」
「……生み出した?」
「はい」
 頷く『日本』の表情に翳が差す。それに釣られてか、日本の表情にも僅かな変化が見られた。まるで双子のようだ、と、中国は思った。
「先の、貴方との諍い――勿論、貴方も覚えていらっしゃるでしょう?」
 憂いを含んだ『日本』の声に、中国は静かに頷く。
 忘れることなど出来る筈もない。まだ記憶にも新しい、大切に大切に育ててきたおとうとの、反抗。月夜の晩、すらりと長く煌めく日本刀の輝きを思い出し、中国は背に負った傷がじくりと疼くのを感じた。
 『日本』もどこか痛ましそうに顔を歪めて、瞼を伏せる。
「私は勝利こそしましたが、矢張り、大きな戦争でしたし――それなりの傷は、負いました。その後も、色々といざこざがありまして――正直。もう、疲れてしまったんですよ」
 開かれた眼には、後悔の念。
「疲れて……疲れきって。もう、国であることを放棄してしまいたいと、浅はかな私は、願ってしまったんです」
 何度も何度も続く他国との争いに、もう心が悲鳴を上げていたのだ。と、『日本』はどこか浮世離れした口調で語り続ける。
「そして、ある日――そんな事を願いながら眠りに就いた、晩。私は夢を見ました。自分の中から、『国』という魂が、抜けていく、夢を。感覚的なものだったけれど、自分の中にあった『国』という証明が、根こそぎ抜き取られていったようでした。
 ……そして、その、次の朝。目覚めたら、この子が、居たんです」
 『日本』は苦しげに眉根を寄せて、そっと、日本を抱き寄せた。日本は気遣うような視線を自分と全く同じ容貌をした人物に向けている。
 中国は目を細めて、数秒の逡巡を見せた後に、口を開いた。
「――つまり。お前はもう、『国』ではないってことあるか?」
 その問いに、『日本』は静かに頷く。否――既に、日本では、無い。『日本だったモノ』だ。
「それでも、ひとになれた訳ではありません。きっと、『国』で無くなった以外は今までと何一つ変わらない。年を取ることも、出来ず。永遠の時を生きる事になるのでしょうね」
 悲しげな口ぶりに、中国はどう言葉をかけてやったら良いのか分からなかった。それは日本も同じなのか、あにうえ、と悲しげに呟いて、そっと目を閉じた。
「……私は、現実から逃げて、この子に辛い役目を押し付けてしまったんです」
 見た目も――きっと、さっきまで中国が気付けなかったほどなのだから、中身もそう変わりはしないのだろう新しい日本に、全てを押し付けてしまったことを辛く思っているのだろうか、『日本だったモノ』の瞳に薄く涙が光るのを、中国は確かに見た。
 どうして『彼』の願いが叶ったのかは、分からない。中国だって幾度となく『国』であることをやめたいと思った事はあるけれど、『彼』のように自分の分身が現れた試しなど無いからだ。だからきっと、誰にも、新しい『国』が現れた理由など分かりはしない。
 二人のおとうとの姿を見て、中国は、暫く黙ったままだったけれど、
「――それで」
 がしがしと乱暴に頭を掻きながら、中国は二人を見ないままで尋ねる。
「どうして我に、そのことを言おうと思ったあるか?」
 お前のことだから、何か考えが合っての事あるね? と、目で問いかければ『日本だったモノ』は頷く。
「この子は……いわば、戦うためだけに、生まれたようなものです。戦の続く時代にしか、まだ適応出来ていない。どうやら私の記憶を持っている訳でもないようですし。
 ……ですから、どうか、お願いです。この子に、色々な事を教えてやって欲しいのです。私が自ら教えたくとも、まさか、私とこの子が、揃って外を歩くことなど出来はしない、増してや他国と会うことなど出来る筈など無い。ですから、どうか」
 頭を下げる『彼』に対し、中国はどう返事をしたら良いものか、と迷った。
 この際、唐突で、不可思議な現象だとしても、目の前に二人のおとうとの存在があると言う事は認めよう。というか認めざるを得ない。それは良いが、『彼』の申し出は、中国としてはすぐには了承しかねるものだった。
 『彼』の言うように、今は戦争の続く時代だ。きっとこれからも数多くの戦争が繰り広げられる中で、自分たちは、味方になって敵になって、裏切ったり裏切られたりを繰り返すのだろう。そんな状況下では、『彼』の願いを叶えてやることは到底無理な話なのだ。きっと、『彼』もそれは分かっている。分かっていて尚、長年自らを育ててきてくれた中国を信頼して、頭を下げているのだろう。
 中国はなかなか頭を上げようとしない『彼』と、新しく生まれたと言う、日本を交互に見やり、はぁ、と重く息を吐いた。
「……今すぐには、無理ある」
 その声に、『彼』が顔を上げる。
「けど――いつか。平和な時代が、来たら。叶えてやっても良いあるよ」
 ぶっきらぼうに言えば、彼の表情が、僅かに輝きを取り戻した。
「本当、ですか?」
「本当ある。というか――この先、我とお前が手を組むような事があれば、そのときにでも、色んな事を、教えてやるあるよ。
 ……昔に、お前に色んな事を教えていた時の、ように」
 昔、竹林で出会った子供。その子はもう随分と大きくなってしまったけれど。
「そいつは、身体ばっか大きくて、中身はまだまだらしいあるからなぁ」
 新しく生まれたばかりだという日本は、確かに、まだまだ子供なのだろう。姿かたちばかりが大人で、きっと中身は、昔の日本、そのものだ。
 中国が口元に緩い弧を描いて日本を見れば、彼は少しだけ不安そうに中国を見返してきていた。