ありがちウィザードリィ ~酒場にて~
「女性? あ、メス、か」
『トキ、その方はフェルパーの盗賊であるシーフだ。もちろん、女性であるからして、メス呼ばわりは失礼よ』
「にゃー」
シーフは一声、鈴の転がるような綺麗な声で鳴き、ふんふんとトキの足元を嗅ぎまわった。そして身軽にジャンプすると、座っているトキの膝に飛び乗ったのだ。
『ほう? シーフはお前の事が気にいった様だぞ? よかったな、シーフは人見知りが激しいので、珍しい事だ』
「トキ、よかったな。人生初めてのモテ期だな?」
ビスがからかうように声をかけてきた。くすぐったいけれど、好かれる事は悪い気はしないもの。ゴロゴロと喉を鳴らしながら膝の上でくつろぐ可愛らしいシーフを見て気が揺るんだのだろう。
『ああ、気をつけろ。盗賊であるシーフは手癖が悪いので、油断すると財布をすられるぞ』
「え……あ!! 俺のお小遣いが!!」
トキはなけなしの300GPをスられて、すっからかんになった。
「トキは相変わらずどんくさいな!」
「はっはっは!!」
ビスは呆れて、シノビは大爆笑した。そしてレンが不思議そうに首を傾げて、くぅんと鳴いた。
『さて、これで紹介も終わり、全員が揃ったな。今日からこの六人でパーティを組む。目指すは迷宮の最下層。それぞれ夢は違えど、生を共にする仲。よろしく頼む!!』
「乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「わんっ!!」
「……にゃー」
今ここに一つのパーティが誕生した。隣り合わせの灰と青春、死を身近に感じながらも訪れるのは生きているという証。
彼らにウィザードリィの神々の祝福があったかどうか、それはまた別の話である。
ロード(君主):人間♀
訓練所にて、初心者ながらいきなりボーナスポイント60を得て上級職ロードに就いた、エリート中のエリート。
昨今の女はロードになれず、中位職のヴァルキリーにしかなれない風潮を嘆いている。
ロードは男のみの職業にあらず、女だって立派にロードをこなしてみせると意気込んでいるため、強気にふるまっているが実は?
女だてらに男に負けない力を欲しているので、扱う武具防具には一種の拘りをもって、一流のアイテムしか装備しない。
防具の中でも特に兜を好み、常日頃から頭をすっぽりと覆う兜アーメットを装備しているため、パーティの仲間すらその素顔を見たことがないのだとか。
トキ(侍):エルフ♂
彼も一応、最初から侍という上級職についてるエリートではある.
しかし、比較的少ないボーナスポイントで侍に就ける種族のエルフであるため、その種族生来の生命力の低さからか、HPがパーティの中で一番低い。
また同じく種族特性上と本人のキャラにより、運がかなり低いため、よく毒に侵されたりマヒったり、首をはねられたりしているのは日常茶飯事である。
エルフという種族特性からいってもかなりの整った顔立ちをしているが、よく死んだり首をはねられている惨状を目の当たりにしているパーティの面々からは、まったく美形と認識されていない悲劇。
信仰心が無駄に高く、その性格は純情にして愚直。いつか運命の赤い糸で結ばれた、可憐で美しい乙女と出会い、人生初の接吻をするのが夢。
シノビ(忍者):人間♂
ボーナスポイントは58と若干ロードよりも劣るものの、彼も訓練所で稀に見る奇跡の殺戮マシーン。
その素手は高レベルの悪魔やドラゴンの首を瞬時にはね、幾度もパーティの危機を救う事になる。
が、偏った職業倫理観とAC低下のため、防具もアイテムも何も装備せず、常に全裸、街中だって全裸、TPO関係なく全裸。
全裸である事を忍者の常識と彼は信じて疑わないが、パーティの特に女性であるロードからの強い要望と、昨今の性犯罪者取り締まりの強化と絵的都合により、最近では褌を着用するようになったが、本人は納得していないようだ。
この褌の装備によりACが上昇してしまっているので、パーティが全滅しそうになった時は、その褌を脱ぎ捨て、真の力(と、ナニ)を解放する。
忍者は全裸がデフォという一部のウィズマニアは、若い女性を忍者にするのが一般的である、というか男で全裸は犯罪よね。
ちなみに老けて見えるが、実は結構、若かったりする。
シーフ(盗賊):フェルパー♀
昨今のウィザードリィは時代の流れにのって、猫人間であるフェルパーは猫耳ロリあるいは猫耳ショタだったりと、ユーザーのニーズを取り入れて萌え系になっていたりする。それはフェルパーだけではなく、他種族も同様。
しかし! ドワーフは女性でも立派な顎鬚をたくわえていたり、ホビットは足の裏に柔らかい毛が生えていたり、ノームの鼻は団子っ鼻だったり。
そういう萌えとは別次元の、ある意味無情でもあるファンタジーの昔ながらの伝統に乗っ取り、このシーフはただの猫であり、猫耳っ子とはまた違った萌え要素を兼ねているパーティの癒し系。
セピア色の毛の三毛であり、どうやらトキと同じく東方からやってきた同郷の仲でもあり、何よりも礼を重んじる(?)トキが大好きである。
それが単に懐いているのか、あるいは恋愛感情であるのかは不明だが、シーフは今日も気まぐれで、それを今風に言い換えればまさにツンデレである。
レン(レンジャー):ラウルフ♂
犬人間であるラウルフである彼の犬種は、昔懐かしのスピッツであり、その真っ白な毛皮が自慢である。
ラウルフという種族は、外見の似た動物である犬と同様、かなり個体差が大きい。
ドーベルマンやグレートデンのような見た目からして強そうなラウルフであればよいのだが、実際はチワワのような可愛らしい者もいたり。
よって酒場でラウルフの仲間を募集する時は、他種族と違い、戦力的にも見た目的にもかなりの当たり外れがある事に注意したい。
このレンジャーはラウルフの中でいえば、まぁ、忠犬、ではなく中堅の性能を持つ冒険者であるからして、無難であるといったところだろうか。
男らしく女好きで、特にフェルパーの女の子が好みだとか。パーティではフェルパー♀のシーフに恋焦がれるが、思い人であるシーフはどうやらトキがお好きで。
報われない恋心を抱きながら、彼は今日も恋の矢を放つのだ。
ビス(ビショップ):エルフ♂
パーティの不確定アイテムの鑑定を担当し、また魔法使いと僧侶の両方の呪文を修得する、パーティの生命線。
トキと同じくエルフであるが、前衛で戦う侍たるトキよりもHPが高いのが自慢。
しかし、侍には全く必要のない信仰心がトキよりも低いので、トキを一方的にライバル視している。
その低い信仰心ゆえ、ラツモフィス(解毒)やマディ(HP全快)といった超需要な呪文を覚えず、同レベルの使えない攻撃呪文を真っ先に覚える微妙さ。
また、アイテムを鑑定するという役割上、常にアイテム欄が埋まっていて、さらにはそれに自身の装備品と、鑑定失敗による呪いのアイテムの強制装備もあり。
全裸で何も装備していない(正確には褌一丁の)シノビの軽装がうらやましいような、でも褌一丁はやっぱりうらやましくないというか、むしろ一緒に町を歩いてて通りすがりの人々の好奇の視線を浴びるのは心底恥ずかしいし!
日頃は酒場に待機していて、鑑定の時にだけ呼び出される、お気楽な身分のビショップになりたいと思っている。
作品名:ありがちウィザードリィ ~酒場にて~ 作家名:しぃ