柔らかな熱
まっさらと清潔なシーツの上で、タクトは深々と息を吐く
(…まだ、声出ないなあ…)
熱が大分下がった(それは当初より、だが)
だが喉だけは、今だタクトを苦しめる
ふわふわと柔らかく花の香りが漂う
自身から匂うそれに、ほんの少し眉を顰め、ゆっくりとした動作で起き上がった
(どうしようか、な…流石にこれ以上はスガタたちに迷惑はかけれないし…)
体調が悪かった事を見破られ、且つスガタの家に連れてこられると、それはそれは甲斐甲斐しくタクトは看病をされたのである
(それに…僕、もう耐えられない…ッ)
ある看病の一部を思い出し、顔を真っ赤に染めると誰もいないことを探ると今だ!と抜け出そうするタクト
「タクト?」
が、いつの間にかにっこりと笑みを浮かべたスガタが(それはもう凄艶な笑みだったと後にタクトは語る)
「……!」
びくぅっと体を揺らすと恐る恐る視線を向け、誤魔化すように笑みを返すが、表情を消すと無言でスガタは近寄ってきて相手の肩を押す
シーツに再び戻されると額に手を当てられ、呆れたようにこちらを見るのであった
「…そんな体で、どこに行こうとしてたのかな…?」
『えと、ほらもう大丈夫だし!』と、タクトは口ぱくで訴えるが即効で「却下」という言葉を投げられる
『何で…!』と勢いよく起き上がろうとするが抑えられた上、くらっと眩暈を起こしスガタから、ほら見たことかと呆れたように零された
「声も出ない。熱もまだある。…外へ出ると絶対に倒れるぞ」
額に当てた手をそのまま頬に移動すると両手で包み込み、こつん、と額を合わせ、
「無茶をしないでくれ…」
君はいつも心配ばかりさせる、とタクトの顔を覗きこみスガタは小さく呟く
近い距離に頬を少し染めるが、『ごめん』と零す。が、それは音にならず遣る瀬無さに目を伏せた
しゅんっと見えない猫耳が垂れる姿を思い浮かぶ様子にスガタは小さく笑みを零すが、タクトは直ぐにぱちっと目を開けると、相手の体を押し返しながら起き上がり口ぱくで話す
『だがなッ、あれはやめてくれ…!』
「あれ?」
『そう、あれ…!』
あれ、とだけで内容を言わないタクトに首を傾げ、何かあったかと不思議そうにスガタは見つめる
口を何度も開け閉めをし、次第に俯くと肩を震わせる相手に心配になり覗き込もうと近付くと、がばっと頭を上げた(その際聞えた鈍い音に内心首を傾げる)
『…ッ…あーん、てするやつ…!』
タクトは涙目で訴えるが、さっきの動きで顎を思いっきりぶつけたスガタ
「~~ッ」
そんな悶絶するスガタにタクトは気付かず相手を揺さぶる
『は、恥ずかしいんだからな…!あれっ……って、スガタ…?』
ようやく気付き、ぴたっと止まると自分の行動を思い出す
まさか…と思い当たると、手をそーっと離し後ろへと下がる(だが直ぐ後ろは壁)(いっつあ、ぴーんち…!)
「…ふ、ふふふふ…タクト…」
『は、はい…』
(ど、どどどどうしよう…!目、目が怖いです、スガタさん…ッ)
少し騒ぎすぎたか、と、けほっと咳き込みながら冷や汗を流し壁に張り付くと、スガタはにーっこり笑みをしき迫ってくる
腕をつかまれ引き寄せられると、くいっと顎を持ち上げられ、お仕置きと囁かれると熱が降ってきた
「…ぅん…ッ」
そのまま口内にいつの間にか含んでいた薬を流し込まれ、こくりと喉が鳴る
最後に、と軽くリップ音を立て離れると、タクトは抱きしめられた
凍り付いていた思考が復活すると盛大に顔を染め、スガタの腕の中でじたばたと暴れるが次第に眠気が襲ってくる
(ま、さか…睡眠を誘発する成分、が…)
「…抜け出さず、完治するまで遠慮せずに、うちにいていいんだからな…」
(でも…、迷惑…)
そっと小さく呟くスガタに何か発しようと口を開けるが、タクトは眠気に勝てず瞼を落とす
視界を閉ざす前に見た、不安げに、そして柔らかく、愛おしそうに仄かに微笑するスガタを視線に移しながら
(──仕方が、ないなあ…)
タクトはそっと微笑み、意識は柔らかな闇へと落ちた