柔らかな熱
◆ ◇ ◆
ふと、タクトは目を覚まし、ぼんやりと辺りを見渡す
暗闇に包まれていることから夜だと見切りをつけて、体を横に向けると暖かな何かを感じる
何だろう…?と視線をやると、スガタが手を握ってベッドの傍らにいた
包まれるような優しい熱に、タクトは柔らかく目を細めそっと腕を伸ばす
(寝てる…)
頬に触れ、その冷えた体温に眉を顰め、何かかける物を…、と小さく身動きをすると、ぱちりと相手の目が開く
起こしてしまったか、と苦く笑み、スガタを見つめる
だが相手はそのまま何も言わず起き上がると、額に手を当て、
「…よかった…下がった」
安堵の息を吐いた
(熱が上がったのか…)
当てられた体温に心地よさを覚え、タクトは目を伏せる
今だ薬が効いており眠気が襲ってくるが、何故か眠るのは勿体ないと必死に耐えた
(そういえば…この匂いについて何も言ってこないことをみると…やっぱ興味ないの、かな…?)
自分から漂う花の香りに問うこともせず、反応がないことに、つきん、と胸が痛み息を吸い込むと、けほっと咳を零す
「…水を持ってこよう」
その姿にスガタは眉を顰めると手を離し、扉へ向かおうとする
「…ッ」
咄嗟にタクトは相手の裾を掴み、引き止めた
「タク…」「…ぁ…ど、こ…いく…の…?」
驚きに目を見開きこちらを振り向くスガタに、じっと見つめ小さく零す
「…ひと、り…いや、だ…」
きゅうっと力を入れ、行くな、と泣きそうな瞳を向ける
様子が変なタクト
(体調がよくないのと寝起きだからと思っていたが…何か違う…)
スガタは、いやいやと首を振る相手に堪らなくなり抱きしめた
落ち着くよう背中をぽんぽんと叩き、どこにもいかないよ、と囁く
無意識だろう、体を摺り寄せ甘えてくる姿に…食らいつきたくなる(流石に扉に控えている彼女たちに止められるだろう…)
だが、いつもはひんやりとする体は───熱い
(熱がまた上がったのかな…)
その時、ふわり甘い匂いが漂う
花の匂いが強く香り、目を細めた様子を見たのだろう、タクトは顔を上げると首を傾げ窺ってきた
「…ね…、きつ、い…?」
何かを訴えるような視線で見つめてくる姿に、微笑を浮かべ頭を振る
気にならないのか?と、むっとした表情をするタクトに愛しさを感じ、耳に顔を寄せ小さく囁いた
「…花の香りは気になるが…元気になったら教えてくれ。
それまで──待つよ」
いくらでも、ね、と耳に口付けを落とし、腕の力を入れ優しく包み込むよう抱きしめる
嬉しそうに微笑む気配がタクトからすると、
「ん…」
ありがとう…、と背中に腕が回り抱き返された
「…さ、休まないと。これ以上はひどくなったら、食事を食べさすのをやめないぞ」
「そ、それはいやだ…ッ」
ベッドに体を寝かせ、楽しそうに微笑むと勢いよく首を振られる
流石にそのすごい拒否振りに思わず睨むよう見つめてしまうが、腕をくんと引かれ、どうした?と首を傾げると、
…一緒に、ねよ?と頬を染めながら小さく問われ、本当に食らいつきたくなった
(大きく外から咳払いが聞こえなければ危なかった…)
「あ、ああ…」
心に人人人、と思い浮かべながら、不安そうに見つめるタクトににこりと笑みかける
(それ、違うよスガタ君…)
そういうワコからの突っ込みが何故か聞こえつつ、ベッドに入り込むスガタだった
後日スガタはワコたちに語る
その日は理性を試された日だった、と…
(その内思い知らせてやろう)
(覚悟しておけよ、タクト…!)
一方で、ぞくぅっと背中に何かが這い登り、思わず体を抱きしめるタクトの姿が見られた
(…僕、何かやばいことした気がする…!)